31 he had stayed in her heart yet



ゴンガガヘ入ったところでようやくシンバの笑は収まったが、しかし未だその手に抱えられているそれを見てクラウドは盛大にため息をついた。


「…シンバ、捨ててこい」

「えぇ!?せっかく捕まえたんに!?」


もう必要ない。というか自分に投げつけてきそうで怖い。
クラウドの顔がいささか怖いので、シンバはしぶしぶ茂みの中へタッチミーを返してあげた。


「バイバイ、タッちゃん」


ケロー。とタッちゃんは鳴いて、走って森の中へと消えていった。
しかしコイツは出会ったモノに名前を付けるのが好きだなとクラウドは思う。いやそんなところも可愛いのだが。って違う。


「…一回自分もカエルになってみたかったんやけどなぁ〜」


恐ろしい事を言う女だ。しかしシンバはカエルになってもきっと可愛いと思う。…って、違う。
クラウドは、自身の思考を取り戻すようにまた大きくため息をついた。



 *



森の中にしっかりと形成されている―ゴンガガという村。森の中にあるので規模はとても小さいが、それでも幾人かの村人がしっかりとそこに住んでいた。

本来の目的のセフィロス―黒いマントの男がここにいなかったかと村人達に聞き込み調査を進めていく。
そしてそんな中。一軒の家に住んでいた老夫婦がクラウドを引き止めた。


「アンタ…その目の輝きは、ソルジャーさんだね?」

「あらあら本当だよ!アンタウチの息子を知らないかい?」

「ザックスっちゅう名前なんだ」

「「!」」


その名前に反応したのは、クラウドではなく女子三人。


「こんな田舎じゃ暮らせないとか言い残して都会へ行ったまま、もうかれこれ10年近く…」

「ソルジャーになるっちゅうて村を飛び出したんだ。アンタ知らないかい?ソルジャーのザックス」

「さあ、知らないな…」

「ザックス…――」


エアリスが、ポツリと呟く。


「お嬢さん、知ってるのかい?」

「そういえば6,7年前に手紙が来てガールフレンドが出来ましたって書いてあったけど、アンタかい!?」

「…そんな――」


エアリスはいたたまれなくなってその家を飛び出してしまった。シンバは慌ててそれを追う。


「――エアリス…っ!!」

「……この村にザックスの家があるなんて…知らなかった」

「エアリス…」

「行方不明って事、ご両親も知らないみたいだったね…」

「…」

「まあ〜女の子が大好きな奴だったからね!どこかで知り合った女の子と仲良くなって今頃どこかで――っ?!」


エアリスが言葉を止めた。…シンバが後ろからエアリスを抱きしめたせいだ。


「…違う。違う、エアリス」

「…シンバ?」

「ザックスは、ずっとエアリスの事しか見てなかった」

「え?…」

「それだけは信じたって――」


エアリスもシンバも、それ以上何も言わなかった。

何故ザックスを知っているのか。何故ザックスの気持ちまで知っているのか。今彼はどうしているのか、それは知っているのか――
エアリスの頭の中に、聞きたい事がたくさん浮かんでは消えていく。

一方シンバは、いろいろ言ってしまった事を少し後悔し始めていた。きっと今エアリスは何故自分がザックスの事を知っているのかと疑問に思っているに違いない。やってしまった。隠し通せなかった。…でも、仕方ない。あんなエアリスを見て放っておけと言われるほうが苦しい。


「…ありがとう、シンバ」

「っえ?」


次にくる言葉を想像していたシンバは、まったく違う言葉にキョトンとする。


「…それだけで十分!慰めてくれて、ありがと」

「エアリス…」


そのエアリスの言葉に、グッと胸が詰まった。
真実をいうべきか、否か。…いや、ここでそれを言って、何かが変わるのだろうか。両親だけには伝えたほうがよいのではないか。しかしこれは余計なお節介だろうか。
そうして考え込んでいると、エアリスがシンバの肩を叩く。


「いいのよ、シンバ」


何も言わなくていい。それ以上は必要ないというように。エアリスは、笑っていた。


「……、」


シンバは、逆にエアリスに救われた気がした。



 *



一方。ザックスの家を後にしたクラウド達は、エアリスとシンバの後を追おうと村の中を進む。…しかしそんな中で一人浮かない顔をしている人物が一人。


「…ティファ、お前もザックスを知っているのか?」


クラウドにそう言われあからさまにティファは驚いた顔をしたが、知らないの一点張りだった。そんな様子がどうも嘘っぽい。ティファも結構顔に出るタイプなのかもしれない。


「…いかにも知ってるって顔してるぞ」


それでも攻めるクラウド。


「知らないんだってば!!」


ついにティファが怒りだした。それに驚いたクラウドとレッドは顔を見合わせた。これ以上は危険だ。自分達の身が危険だと。


「…けど、ソルジャーになるって村を出るなんてクラウドみたいね!」

「あの頃はそんな奴ばっかりだっただろうな」

「そんな大勢いる中でクラウドはソルジャーになったんだもんね。…尊敬しちゃう!」


ティファの顔から、怒りと焦りは消えていた。それでもクラウドの中からその疑問が消える事は無かった。先ほどのエアリスの行動といい、ティファといい、…シンバといい。「ザックス」という人物は、一体何者なのだろうかと。



少し歩いたところでシンバとエアリスを見つけた三人は、そこへ合流した。


「…ごめん、飛び出しちゃって」

「エアリスはザックスを知っているのか?」

「…いつか話さなかった?初めて好きになった人。…それが、ザックスだったの」


シンバ以外のメンバーが、驚いた顔をエアリスに向ける。


「でももういいの。昔の話だし!」


さあ行こう。エアリスは明るく笑ってそう言った。…自身の気持ちを、吹き飛ばすように。


「……」


それ以上は誰も詮索しなかった。
一つ吹き抜けた風が、エアリスの思いまで遠くへ運んで行った気がした。





 ***





聞き込みはすぐに終わったが、セフィロスの情報は得られなかった。
そうしてゴンガガを出て辺りをまた散策する一行。皆の視線が遠くに向けられている中、シンバの視線はやたら足元にあった。…きっとまたカエルを探しているに違いないと誰もが思っていたが、あえて口には出さずにいた。

そうして森の奥に、壊れた魔晄炉を発見した。一人で調べてくるというクラウドにひょっこりついて行ったのはシンバ。ここにはある人たちがやってくるはずで、シンバはその中の一人をお目にかかりたいが為だけにクラウドについていったのであった。


「壊れた魔晄炉…」

「うわー…錆びついとるなぁ…」


ガラクタの山と化した魔晄炉はその痛々しい跡を残したままだった。ケット・シーの話によれば、ここの魔晄炉は五年前に爆発事故を起こしてからそのまま使われなくなったらしい。まったく神羅ってやつは、使えなくなったらそのまま放置か。自分らの後始末くらいしっかりしろよ。そう思いながらシンバは壊れた魔晄炉の中を覗き込み、マテリアがないか探していた。確かここで召喚マテリアが手に入ったはずだと。

ゴソゴソと何かを漁っているシンバを、クラウドは何をしているんだコイツはという目で見ていた、…その時。


ブロロロロ――


どんどん響いてくる音がそこにはあった。…ヘリだ。誰かくる。ヘリといえば神羅。神羅といえばタークス。という一連の連想をしたクラウドは咄嗟にシンバの手を引っ張った。


「隠れるぞ!」

「っいぇ!?ちょっと待っ――!?」


突然のクラウドの行動に驚いたシンバは、何がなんだかわからなくて思考が付いていかないままクラウドに魔晄炉の裏に連れ込まれていた。どうしたんだクラウド。やけに強引じゃないか。え、まさか襲うつもりじゃないだろうな。


「なんっクラ――!?」

「しっ!」


シンバの声はクラウドの手の中で木霊した。クラウドが喋るなとシンバの口に手をあてがったのだ。
その行動に自身の心臓が飛び上がるのがわかった。近い。近すぎる。何でこんなドラマめいた事をするんだクラウド。もうキュンキュンしてしまうではないか。しかし呼吸がいささかし辛い。…今日のシンバは鼻が詰まっていた。


「ここね――」


遠くに聞こえた女の声。暫くするとコツコツと、この場にそぐわない高いヒールの音が響いてきた。シンバはクラウドの手をそっと下ろさせ、恐る恐るガラクタの陰からその人物を盗み見た。

真っ赤なドレスに金髪で何ともこの場に不釣り合いな格好をしている女―神羅兵器開発部門部長―スカーレットのお出ましである。思っていたよりもケバケバしいおばさんだな。なんだか性格きつそうだ。と思っていると、その後ろから姿を現した男性―ツォンだ。久しぶりに見たツォンはなんだかやつれているように見えた。


「…フンッ!ここもダメだわ。チンケな魔晄炉にはチンケなマテリアしかないみたいね!私が探しているのはビッグでラージでヒュージなマテリアなのよ。…あなた知らない?」


ビッグでラージでヒュージなマテリア。…直訳すると大きな大きな大きなマテリアである。単語変えただけじゃん。全部ほぼ一緒の意味じゃん。お前はルー◯柴か。


「…存じません。さっそく調査します」


なんだかいつものツォンと雰囲気が違う。シンバにとっての上司はハイデッカーではなく、ツォンだった。いつも頼れる存在だったツォンが、今はペコペコと腰の低い人物となっている。なんだか見たくない光景だった。


「お願いね!それがあれば究極の兵器が作れそうなのよ」

「それは楽しみですね」

「宝条がいなくなったおかげで私の兵器開発部門に予算がた〜っぷりまわってくるの!」

「それは羨ましい限りです」

「でもね、せっかく完璧な兵器を作ってもあの馬鹿なハイデッカーに使いこなせるかしら?」

「…」

「あら、ごめんなさい!ハイデッカーはあなたの上司だったわね!キャハハハハハ!!」


…うざ。なんだかわがままなお嬢様を目の当たりにしている気分だ。絶対関わりたくない人種だ。なんだかツォンが可哀想だ。だからやつれているのか。…心中お察しします。

そうしてスカーレットとツォンは去っていき、ようやく二人は表へと出た。


「究極の兵器…?神羅は一体何を始めるつもりなんだ?」

「…どうせまたくだらんことやろ。行こ!クラウド――」





 ***





ゴンガガを後にして再びバギーに乗り込んだ一行。

相変わらずユフィは酔いと格闘しており、エアリスは物思いにふける様に外の景色に目を向けていた。
そして、同じように物思いにふける人物が一人。…シンバだ。シンバはレノがカエルになる前のことを思い出していた。

あの時レノが言おうとしていた言葉は何だったのか。あの時の雰囲気から何を言わんとしていたかは大体予想がつくが、なんだか自分が自惚れているようでそう考えるのは気が引ける。しかしあの場でそれ以外の言葉を言うだろうか。思い出すだけで心がざわつき体が熱くなる。まさか、レノが自分の事――


「……、」


…なんだか複雑な気分。嬉しいっちゃ嬉しいかもしれない。憧れの人物が自分に好意を寄せていてくれたら誰だって嬉しいはずだ。
しかし、素直に喜べない自分がそこにはいた。自分は今レノの事好きじゃないと思う。好きだけど、なんかそういうのじゃない気がする。そして、何かが違う。根本的にレノとそうなる事を望んでいない理由がどこかにある気がする。でもそれが何かはわからない。…あぁ、何だこの悪循環。


「――…シンバ、何かあったの?」


心配したティファがシンバに声をかける。それにハッとしたシンバは、笑顔でティファを振り返った。


「っなんもないよ!…そろそろ酔いがまわってきたみたいやわ」


はぁ〜やだやだ。と窓にもたれかかるようにまた外へ目を向けた。


…その様子を、クラウドはバックミラー越しにずっと見つめていた。



back