35 the place - the dawn of incubus



ギィィィ―


重い扉が鈍い音を立てて開く。長い間光を見ていなかったであろうその場所は、古い建物特有の匂いと風貌を醸し出していた。

街の奥にあった豪華な建物―神羅屋敷にはエアリス・クラウド・シンバ・ユフィの4人が行く事になり、大きな建物だからとりあえず二手に別れて中を詮索しようとクラウドは提案していた。ユフィとシンバのコンビは出来れば―いや絶対避けたいクラウドだったが、そんなクラウドの意向も虚しくそそくさと二人は中へと勝手に進んでいく。…なんて身勝手な奴らなんだろう。


「アイツら…」


クラウドの眉間にシワがよっていく。そんなクラウドの怒りを知る由もなく二人はギャーギャーギャーギャーと喚いたり笑ったりと忙しそうだった。あの二人が行動すると確実に問題が起こる事を懸念しての事だが、…というよりもクラウドがあの二人を一緒にしたくないのにはもう一つ理由があった。


「――で?クラウド。シンバと何があったの?」


始まった。エアリスの拷問が始まった。…クラウドが一番恐れていたのは、エアリスとの組み合わせだった。


「…なんの話だ――」


クラウドはなるべく平常心を保つように心がけていた。大体セフィロスがいるかも知れないのにエアリスといいアイツらといいどんなけ呑気なんだろう。
そう思った矢先にどこかの部屋であの二人が派手に暴れまわる音が聞こえて、そしてその後に響くは甲高い何とも楽しそうな笑い声。…このパーティー編成は失敗だ。二度とこのパーティー編成はしないとクラウドは心に誓った。



*



「――あった!最後のダイヤル番号ゲットだぜ!!」


シンバは偶然を装って宝条の手紙を発見し、ユフィと共にある金庫のダイアル番号を探していた。イベント回収大切。ユフィはてっきりお宝があると思い込んでいるらしく、ものすごい張り切り様を見せている。…なんだかシンバは申し訳無さを感じたが、まぁ金庫の中にはマテリアもある事だからいいかと言い聞かせていた。


「これで全部揃ったね!さっそく金庫開けに行こうよ!」

「っ待ったユフィ!危険や!!」

「…なんで?」


何でって。あぁ、またメンドくさい事になってしまった。金庫からはモンスターが飛び出してくる。そのモンスターはやけに強かった。だから二人で行くのは危険だと感じ咄嗟にユフィを止めたまではいいが、何でそんな事知っているんだとまたややこしい事になってしまうのが目に見えていて、


「何でって…そんな簡単にお宝が手に入ると思うか!?宝条の事やで絶対何か企んどるに決まってるやん!絶対モンスターおるに決まってるやん!!1000パーセントおるって!!」


シンバは何とか勢いで押し切った。


「…そっか!そうだよね!秘宝にはモンスターが付き物だよね!…マテリアハンターユフィちゃんがなんとした事か!油断してたよ!!」


…ユフィは単純でよかった。シンバは心底そう思った。



そうしてクラウド達と合流したが、なんだかこの数十分でクラウドがやさぐれている気がするのは気のせいだろうか。エアリスとの間に何かあったのだろうか。せっかくの二人きりなんだからもっと楽しそうな顔をしていたっていいものを。まったくクラウドって奴は本当シャイな奴なんだな。とシンバは勝手に妄想を膨らませていった。…その原因がいささか自分にある事にも気づかずに。

そしてクラウド達に事情を話し、4人はさっそく金庫を開けにいった。もちろん開ける役目はクラウドである。いきなりモンスターが飛び出してきたら怖いからだ。そういう危険な役目は全てクラウドが受け持ってくれるのだ。何だかんだでクラウドは自分のいう事を聞いてくれている気がする。…気がするのではなく現にそうな事にも本人は気づいていなかった。


「開けるぞ」


ドキドキ。後ろ女子三人はワクワクした面持ちで、しかしシンバは緊張した面持ちでそれを見ていた。
そしてクラウドが金庫の扉を開けた瞬間。案の定モンスターは飛び出してきたのだった。



*



「――なーんかあっけなかったね、シンバ!」


ユフィの言う通りモンスター―ロストナンバーはあっけなく倒す事ができた。ゲームでは1対3だが、今はラッキーな事に1対4だ。それにこっちには最強のエアリスもいる。それはそれはもうぼっこボコにしてやったもんだ。


「せやな。宝条にしてはつまらんモンスター出してきょったな」


言いながらシンバは金庫を漁り、小さな鍵を探す。ちゃっかりユフィはもうマテリアを掻っ攫っていた。


「あっ…!」

「ん?どうしたの?」

「! いや、何もない!!あは、アハハ…」


思わず声を上げて「あった」と言いそうになってしまった。まったく最近気が緩みすぎではないだろうか自分。シンバはみんなに気づかれないように小さく自分の頬をビンタして気を入れ直した。



そうして一行はクラウドの案内頼りに地下を目指す。
薄暗い道を進むと、ようやくシンバが来たかった場所にたどり着いた。…のだが。


「…ここ!怪しいなあ!!」


あからさまに指をさしてその扉をアピールするシンバを尻目に、何故かズカズカと奥へ進んでしまうクラウド達。


「…なあ!…なあってば!!」


何故だ。何故みんなスルーなんだ。おかしだろ。今まで散々怪しい場所を調べてきたクセにここだけとばすなんておかしいだろ。…グルか。そうかお前らグルなんだな。


「どうしたのシンバ?そこに行きたいの?」


エアリスの問いかけにシンバはブンブンと思いっきり首を縦に振っている。


「…だってクラウド。どうする?」


なんで俺に振るんだ。クラウドは大きく溜息を付くと、目をキラキラと輝かせている冒険大好き女の元へと足を進めた。
それを見たエアリスがやっぱりシンバには弱いのねとクスクス笑っている。…もう何とでも言え。クラウドは何だか自暴自棄になってきていた。

そうして古臭い扉を開けた一行。そこには棺桶が三つ並んでおり、…それを見たユフィの顔が引きつっていく。


「…ミイラ!!絶対ミイラがいるって!!」

「あら?ミイラがいる場所にはお宝も必須なんじゃない?」


調べて見れば?と怖がるユフィをエアリスがからかう。もうエアリス最強だな。最強のどSだよこの人。シンバはそんな二人に苦笑いを送った。


「さ!どれから開ける?」

「…開けるのか?」

「なに?クラウド。怖いの?」

「…そんなわけないだろ」

「ほな真ん中!ど真ん中いっちゃいましょ!」


何をそんなに楽しんでいるんだこの女は。ある意味この女も最強だな。とクラウドは思う。


「…結構重いなコレ。クラウド手伝ってや!」


やれやれ。クラウドは溜息を一つ吐くとシンバとは反対側に立ち、いっせーので棺桶を開けようとした、
…その時。


『…私を悪夢から呼び起こすのは――』


棺桶の中からなにやら声が聞こえてきた。それにビビってユフィはエアリスに抱きついており、クラウドは怪訝な顔を向け少し身構え、シンバは相変わらず楽しそうにしていたが、


『誰だッ!!』

「っギャア!!」


次の瞬間、先ほどよりも大きい声と共に大きな音を立ててその重たい棺桶の蓋が開けられた。そしてその重たい蓋は悲惨な事にシンバの上に被さってきたのである。
そうして棺桶から出てきたのは、何と普通の男の人だった。ユフィはお化けじゃなかったとホッと胸を撫で下ろす。


「…見知らぬ顔か。出ていってもらおうか」

「随分うなされていたようだな」

「こんなところで眠れば夢だって暗〜くなるよ――」

「――…って無視すな!!早く助けろ!!!!」


棺桶に潰されたシンバを皆は忘れていた。通りで何か静かだと思った。しぶしぶクラウドが棺桶を退け、そして勢いよく起き上がったシンバの目に飛び込んできた真っ赤なマントに顔をターバンで覆い隠しているそのイケメン。…出ました。ヴィンセント・ヴァレンタインである。その謎めいた感じがまたクラウドと違う格好良さを醸し出しており、シンバはまじまじとヴィンセントを見つめていた。
そんなシンバに気づいたクラウドはいささか機嫌がよろしくないようで、わざわざ彼女の前に立ちはだかる。


「っちょ、クラウド!邪魔!」


しかしその思いとは裏腹にシンバはクラウドをグイっと横へ押しやる。…なんだ。そんなにこの男を見たいのか。そんなにあからさまに邪魔者扱いしなくてもいいじゃないか。クラウドはいささか凹んでしまった。


「ここから出ていけ。この屋敷は悪夢の始まりの場所だ」

「…確かに、そうだな」

「おや?何か知っていうようだな」

「アンタが言った通りこの屋敷が悪夢の始まり…いや、夢ではなく現実だな」


クラウドがなんだかヴィンセントに対抗意識を燃やしている気がして、喧嘩したりしないよなと少し緊張気味に二人を交互に見やる。…そんな彼らの様子を見てこれまた楽しんでいるのはエアリス。またクラウドにライバルが増えたと彼女は勝手に思い込んでしまっているようだ。


「セフィロスが正気を失った。この屋敷に隠された秘密がセフィロスを――」

「…セフィロス、だと?」

「「セフィロスを知っているのか!?」」


イケメン二人がハモった。


「君から話したまえ」


ヴィンセントにそう言われ、クラウドは今まであった事を洗いざらい話す。


「――…と言うわけだ」

「セフィロスは5年前に自分の出生の秘密を知ったのだな?ジェノバ・プロジェクトの事を。…以来、行方不明だったが最近姿を現した。…そして約束の地を探していると」

「あぁ。今度はアンタの番だ」

「……悪いが話せない」

「ひっど〜い!!」

「最低だねアンタ!!」

「クラウドの喋った時間を返せコノヤロー!」


ヴィンセントは女性三人から罵声を浴びせられた。イケメンの好感度がガックリ下がった瞬間だった。


「君たちの話を聞いた事で私の罪はまた一つ増えてしまった…これまで以上の悪夢が私を迎えてくれるだろう」

「どんなけネガティブやねん」

「名前くらい名乗ったらどうだ」

「私は…元神羅総務部調査課通称タークスの――」

「タークス!?」

「元、タークスだ。ヴィンセントという。…今は神羅とは関係ない。…ところで君は?」

「元ソルジャーのクラウドだ」

「同じく元タークスのシンバ!よろしく!」

「アタシはマテリアハンターのユフィちゃんだよ!」

「ん〜。元花売りかな?」


なんだか元が多い連中だな。変わったメンバー編成を一通り見やったヴィンセントは、クラウドとシンバに目を向ける。


「元タークスに元ソルジャー。君達も神羅か。…ではルクレツィアを知っているか?」

「ルクレツィア?」

「…セフィロスを生んだ女性だ」

「なんだと!?」

「セフィロスの母親はジェノバじゃないの!?」

「それは、間違いではないが一つの例えなのだ――」


ルクレツィアはジェノバ・プロジェクトチームの責任者ガスト博士の助手で、とても美しい女性だった。
そんなルクレツィアが今回のプロジェクトの人体実験の対象となってしまった。ヴィンセントはそれを中止させる事が出来ず、また彼女を思いとどまらせることも出来なかった。愛する―尊敬する女性を恐ろしい目に合わせてしまったとヴィンセントは言い、…そしてそれが、自分の罪であるとも言った。


「その償いが眠ることなの?それって…なんか変」

「ネガティブ…」

「眠らせてくれ…」


イケメンネガティブ男はみなの意見に屈することなくまた棺桶の中に戻ってしまい、それから何を言ってもヴィンセントが反応する事はなかった。

しぶしぶ皆は、その部屋を後にする事にした。



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