39 we're detective !



「――シーエラッ!!ま〜だ茶出してねえな!!」


シドのお怒りの声が静寂に包まれていたその空気を盛大に打ち破ってくれた。自分が出て行く前と何ら変わってないテーブルの上を見ての事だ。お茶ぐらいでこんなに怒るなんて普段はどんな生活を送っているんだろうとシンバは不思議に思ったが、あえて口にしなかった。


コンコン


そして次には、それを鎮めるかの如くこの家の扉をノックする音。シエラがそれを開けると、…そこにいたのはあの茶色いスーツがはち切れんばかりの男。


「うひょ!久しぶり!…シドちゃん、元気してた?」

「よう、ふとっちょパルマー。待ってたぜ!」


どうやら二人は顔見知りらしい。こちらもパルマーとはある意味顔見知りだが、しかし彼は自分たちに気づいていないようだった。あんなにバッチリ神羅ビルで対峙したのになとシンバは思う。


「…で、いつなんだ?宇宙開発計画の再開はよぉ?」

「うひょひょ!わし知らないな〜。外に社長がいるから聞いて見れば?」

「ケッ!相変わらずの役立たずふとっちょめ!」

「ふとっちょって言うな〜!」


じゃあデブならいいのかな。とどうでもいい事を思っていると、シエラがお盆の上にお茶の入ったコップをのせてやってきた。それをシンバはニッコリ笑って受け取り、口元へ運ぶ。


「うひょ!お茶だ!わしにもちょうだい。サトウとハチミツたっぷりでラードも入れてね!」


お茶を吹き出しそうになった。どんだけ甘党。もはや甘党を越えて感覚おかしいだけなんじゃないのかコイツはとシンバが怪訝な顔でパルマーを見ていると、


「…様子を見てくる。シンバ、お前はここにいろ」

「っえ!なんでなん!?」

「お前がルーファウスに見つかるとややこしい事になるからな」

「クラウドだって見つかったらややこしい事になるんじゃない?」

「…様子を見てくるだけだ」


そう言ってクラウドは、シドに続いて静かに家を出て行ってしまった。


「…クラウドの顔怖くなかった?」

「いつもあんなんやろ?」

「――……あれ?パルマーさん?」


シエラの声にユフィとシンバが振り返るとそこにパルマーの姿はなかった。…何時の間に。

シエラの手には、バッチリサトウとハチミツたっぷりのお手製ティーが握られていた。



*



「――な、なななんでい!期待させやがって!」


シドの大きな声がロケット村一帯に広がった。てっきりルーファウスが宇宙開発計画の再開を持ちかけてくれると思っていたのに、あえなくそれは儚い夢と散ってしまったようなのだ。


「そんなら今日は何の用できたんだ?」

「タイニー・ブロンコを返してもらおうと思ってな」

「なんだって?」

「我々はセフィロスを追っている。その為には海を越えなくてはならないんだ。それでお前の飛行機を――」

「ケッ!最初は飛空艇、次はロケット…こんどはタイニー・ブロンコか!」


シドが吐き捨てるように言う。


「神羅カンパニーはオレ様から宇宙を奪っただけでは足りずに今度は空まで奪う気だな!!」


するとルーファウスがお決まりのポーズをとって見せた。これをする時は何か自信に満ち溢れている時か、バカにする時かのどちらかである。


「おやおや…今まで君が空を飛べたのは神羅カンパニーのおかげだ。それを忘れないでくれたまえ」

「なんだと!!」


…バカにする方だった。シドは怒りを露わにし、陰でこっそり様子を伺っていたクラウドは思わずそれを止めに入ってしまった。


「…クラウドではないか」


ルーファウスは驚く事もなくそう目の前に現れた男の名前を呟き、そしてキョロキョロと辺りを見回す。


「…残念だな。ここにシンバはいない」


クラウドにはルーファウスが何を探してるのかが嫌でもわかった。やっぱりアイツを家で待機させておいてよかったと心底思わされる。


「そうか…それは残念だ。私のフィアンセはここにはいないのか」

「フィアンセ!?」

「勝手にフィアンセにするな」


驚いたシドがクラウドにシンバがフィアンセとはどういう事だと聞こうとしたが、クラウドは間髪入れる間もなくそれを否定した。
その速さにまたもやシドは驚かされた。そしてなんでコイツは今こんなに機嫌が悪いのだと。


「…シド。神羅にタイニー・ブロンコを渡すか、俺達に使われるのではどちらがいい?」

「あ!?…テメエこんな時に交渉かよ!?抜け目ねえなぁ」

「…俺達もセフィロスを追わねばならない」


何度も出てくるセフィロスという名前。シドはその英雄の名前を知らなかったが、しかし神羅のお偉いさんとどう見ても神羅とは仲の悪そうなクラウドの両方が追っているとなると、そのセフィロスという名前の持ち主はとんでもない人物なんだという事だけは把握出来た気がした。


「タイニー・ブロンコは我々のモノだ…」


ルーファウスがいつかと同じようにクラウドに銃を向ける。それを見たシドは煙草を地面に落とし、大きく最後の煙を吐き出しながらジリジリと踏みつける。(みなさんはポイ捨てはやめましょう)


「…ヲイヲイ、こんな平和な村でドンパチはゴメンだぜ?」


…ドンパチ。古い。さすが親父。シドは長いランスを器用にクルクルと回し、腕に挟んで構えをとった。バトン部に入ったらさぞかし活躍できる事であろう。


「…仕方ないな」


クラウドも、バスターソードを構えた。



*



「――何処行ったんだろーね?」


シンバとユフィは消えたパルマー事件の捜索に乗り出していた。

おそらく裏庭にいるであろうと大概予想はついていたが、なにやらユフィが探偵ごっこを始めてしまったので仕方なくシンバもそれにノることにした。


「こういう時レッドがいたら便利なのになー」


でた。レッド犬疑惑。まあ大概動物は鼻が効くんだろうけれど。


「足跡は残っていないかな!?」


ユフィはルーペ片手に床をまじまじと見出す。つうかどっから持ってきたんだそのルーペ。シンバは呆れた顔でユフィを見やった後、きっとシエラも呆れているんだろうなと思い彼女に顔を向けたがその人もユフィと同じように床を一生懸命眺めていた。…シドがシエラを怒鳴り散らす理由が多少わかった気がする。


「むむむっ、これはアヤツの足跡ではないかな!?」


つうかいつまで続けるんだろう。こうしている間にもパルマーがタイニー・ブロンコに乗って飛び立ってしまっていたらどうしよう。
バカにのっている暇は無いとようやく悟ったシンバは決心したようにユフィに声をかけた。


「お!ユフィ隊員!!ここに怪しい指紋がついているであります!!」


シンバが裏庭に続くドアノブを指差す。


「なに!?どこだシンバ隊員!!」


ルーペ越しにシンバを見たユフィは、その顔がルーペの中で大きくゆがんで見えたらしく、それに大爆笑し始める始末。


「何笑ってんねん!!早うこいや!!」

「っゴメンゴメン!…パルマーは裏庭に逃げたようだね!」

「行くぜよ!」

「突入〜〜〜〜!!」


そんな二人の様子を見たシエラはクスクスと笑っていた。…外とは打って変わってこの部屋はいささか穏やかな時が流れすぎているのははたして気のせいでしょうか。


「――うひょ…なんでわしがこんなこと……わし、宇宙開発部門総括」


裏庭に行くとパルマーがブツブツ言いながらタイニー・ブロンコに乗ろうとしていた。ふとっちょなのでいささか乗るのに手間取っている。それを見たユフィとシンバは一生懸命笑いをこらえていた。


「そこまでだ!パルマー!」


ユフィは未だ笑いを堪えながらビシッとパルマーに人差し指を向けた。今もなお探偵気分が抜け切っていないようだ。


「タイニー・ブロンコはウチらのもんや!一生懸命登ってもらったところでいささか言い難いが今すぐ降りろ!!」

「うひょ!そんなひどいじゃないか!」

「アンタが太ってんのが悪いんだよ!!」

「そやそや!その歳でその腹はもう終わってるわ!」


忍法毒吐の術。それはパルマーに多大なダメージをくらわせた。落ち込んでしまったパルマーはその場にしゃがんでいじけるポーズをとり、指で砂に円を書き始めている。…全然可愛くない。シンバはそれを気に咎めることもなくタイニー・ブロンコに乗り出した。


「行くぜよユフィ隊員!」

「シンバ隊員!運転できんの!?」

「…出来へんに決まってるやん!!」


そんな事自慢げに大声で言うなとユフィが思ったのと同時、タイニー・ブロンコは低空飛行を始めた。



*



ブロロロロロロ――


「――っなんだ!?」


ルーファウスと対峙していたクラウドとシド、いやその場にいた全員がその音に気づきその方を見やると、


「クラウドー!!」

「…シンバ!?」


クラウド達の目に映るは、タイニー・ブロンコに乗ったシンバとユフィ。あの二人が家で黙って大人しくしている筈がなかったとクラウドは今更気づき些か呆れ顔で二人を見たが、今は呆れている場合ではないらしい。…そのタイニー・ブロンコが真っ直ぐ自分達の方へ向かってきていたのである。


「止まらんーーー!!ヘルプミーーー!!」


じゃあ何で乗っているんだとクラウドは思ったが、とにかくなんとかしなければいけない。 あの二人がそれを華麗に運転出来るわけがない。
勢いよく突っ込んできたタイニー・ブロンコを一同は避け、クラウドとシドは瞬時にそれに飛び乗った。


「よお嬢ちゃん!オレ様のタイニー・ブロンコを盗もうなんざいい度胸してんじゃねえか!」

「パルマーに乗られるより女の子に乗られる方が嬉しいやろ?」

「…そりゃそうだな!」


シンバはすぐさま運転席をシドに任せ、船体にしがみついた。タイニー・ブロンコは低空飛行からどんどんその機体を上げて行き、それを阻止しようと神羅兵たちが銃を乱射する。


「…シンバめ、またあいつは――」


そんな中ルーファウスは笑っていた。またサプライズを企てられたとでも思ってるのだろう。なんともめでたい奴である。


「めちゃめちゃ撃ってくんなアイツら!!」

「当たったらどうすんだよ!?」


いや、そのつもりだから撃っているんだろ。


パァンッ――!!


「「!!」」


そうして案の定その銃撃が左尾翼に当たってしまった。順調に空へと舞っていたタイニー・ブロンコは、黒い煙を吹き出しながら急降下し始めてしまって、


「尾翼がやられた!!」

「「おーーちーーるーーーー!!!」」


シンバとユフィは恐怖に耐えかねお互い抱き合っている。


「でっけえ衝撃が来るぜ!チビらねえようにパンツしっかりおさえてな!!」

「パンツ!パンツ抑えなきゃ!!」

「パンツーーー!!!!」


二人は意味もなくパンツと叫びながら、次にくる衝撃に身構えた。



*



「――…コイツはもう飛べねえな」


なんとか海に不時着をかましたタイニー・ブロンコ。空を飛んでいるはずのものが今や海に浮いている姿を見たシドは、投げやりにそう呟いた。


「…ボートの代わりに使えるんじゃないか?」


ナイスフォロークラウド。それを聞いたシドは好きにしろと言い煙草に手をつける。


「…あー死ぬかと思ったね」

「死ぬかと思った。…ユフィ、パンツ大丈夫?」

「っな!?…大丈夫に決まってんじゃん!!」


未だパンツで盛り上がる二人にクラウドはため息を送り、シドにもう一度向き直った。


「…シド、あんたはこれからどうするんだ?」

「さあな。神羅とはきれちまったし村は飽きちまった」

「奥さんは?…シエラはいいのか?」

「奥さん!?笑わせるない!シエラが女房だなんてトリハダが立つぜ!!」

「シエラさん可哀想ー!」


ブーブーとシドに女子二人からのブーイングが巻き起こった。…シドはそれを、無視。


「お前らはどうすんだ?」

「セフィロスという男を追っている。神羅のルーファウスもいつか倒さなくちゃならない」

「…ははーん。フィアンセ奪還ってとこか」

「…は?」

「フィアンセって何?」

「お前ルーファウスの野郎にフィアンセ呼ばわりされてたぜ?」

「は!?あんの変態ナルシルト…!ちゃう!シド!!誤解や誤解!!あの馬鹿の言う事なんか信じたらアカン!」

「まぁ信じちゃいねえよ。クラウドがものすんげえ早さで否定してたからな」


シドがにやけながらクラウドを見た。…クラウドはそれを、無視。


「…で?どうするんだ、シド」


声がいささか低くなったクラウドに、コイツに冗談は通じないと思ったシドは煙草の煙をふうと吐き出し、顔を真面目に戻す。


「なんだかわからねえがよ…おもしろそうじゃねえか!オレ様も仲間に入れろ!」


面白いのはこの二人だけで旅はそんなに楽しいものじゃないとクラウドが言おうとしたが、その言葉はその面白い二人によって遮られてしまった。


「いーよ!シドちゃんよろしくー!!」

「また親父の仲間入りかぁ〜平均年齢がどんどん上がっていくねー」

「よろしくな!クソッタレさん達よ!」

「クソッタレ…」

「この時代、神羅に逆らおうなんてバカヤロウのクソッタレだ!気に入ったぜ!」

「そんなバカヤロウのクソッタレにシドちゃんも仲間入りや!!」

「おうよ!みんなバカヤロウでクソッタレだ!!」


そして三人の笑い声がその場に響いた。まったくコイツらこの旅を何だと思っているのだろう。能天気な奴多くないか。先が思いやられるな。
クラウドは今日何度目かの重い溜息を吐き出した。


「…で?どこいくんだ?ルーファウスの奴はセフィロスを追って"古代種の神殿"に行くってほざいてたぜ?」

「本当か!?…どこだ?その"古代種の神殿"ってのは?」

「さあな。あのクソ息子は『見当違いの方向』って言ってたからここからかなり離れた場所じゃないのか?」

「…情報が必要だな。とにかく陸地を探そう」

「……ねえ。西へ行くっての、どう?」


黙っていたユフィが口を開く。そしてその声はやけにねばついていた。


「…西?西になにかあるのか?」

「ぜ〜んぜん理由なんかないけどね。もう、ぜ〜〜んぜん!!」


なんてわかりやすい女なんだろうユフィは。シンバはそんなユフィを呆れた眼差しで見つめながら、ユックリと重い口を開いた。


「…戻るってのも、アリやない?」

「!?」


ユフィが驚いた顔で自分を見る。何でそんな事言うんだというユフィの感じがヒシヒシと伝わってきたが、シンバは西へ―ウータイへ行きたくない理由があった。

そこではとある大イベントが待っているが、ユフィが悪者になり仲間達からかなり嫌悪を抱かれるものとなっている。ここで引き返せばユフィの"悪事"は何も起こらない。ユフィが皆から怒られる事だってなくなる。今までこうやって仲良くやってきた友が、皆から疑われ非難されるのを見たくはなかったのだ。
それにウータイにはタークスが休暇で来ているはずだ。そうしたら絶対レノと鉢合わせになる。なんだか気まずい。なんだか逢いたくない。そしてもうあのトラウマ―コルネオとも会いたくないのも事実。…イベントがてんこ盛りなウータイはさぞかし楽しいであろうが、今となっては絶対避けたいイベントとなってしまっていた。


「…戻るって、どこへだ?」


ここでゴールドソーサと言ってしまえば全てが丸く収まるのだが、自分がゴールドソーサと言ってしまえばクラウドは絶対遊びたいだけだろと言いそうな気がする。いや、確実に言われるだろう。だからってディオに会いに行こうなんて言えない。変態好きだと思われても困る。…どうする自分。どうする、自分。


「…西!!西に何かあるって!!」

「いいじゃねえか。新しい土地に行くってのもロマンだぜ?」


余計な事を言うなシド。何がロマンだ。一歩間違えればマロンではないか。…ってそんな事どうでもいい。


「そうだな…西へ行こう」


リーダークラウドがそう言ってしまえば終わりだ。もう今更覆す勇気などなく、そうして目的地は西で決定してしまった。
シンバは聞こえないように大きく溜息をついた。…こうなったら意地でもウータイには入らないでおこう。うん。そうしよう。

シンバは一人心に誓った。



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