41 the thlepathy



亀道楽を後にし、ユフィを捜索しにウータイの総本山へ向かう一行。
シンバはクラウドの一歩後ろ、何故か忍足でその後を追う。


「…シンバ」

「…はい」

「もうアイツらとは関わるな」

「……ごめんなさい」


…怒られた。シンバは飼い主に叱られ凹む犬のように、しゅんとしてしまっていた。

またクラウドに勘違いされてしまった。自分はアイツらと仲良くする気は毛頭ない。そんな事これっぽっちも思ってないのに。何故かいつもタイミングが悪い気がする。なんて自分はタイミングが悪い女なのだろう。
今回だって自分は何も悪くない。何で自分が悪い事になっているんだ。…もはや泣いてもいいですか。



ギスギスした空気の中辿り着いた総本山へ入ると、そこには胡座をかいて目を瞑り瞑想しているのか、ブツブツとなにやら唱えている大きな男がいた。…ユフィの父親―ゴドーである。


「…グガーなにか用かな?なにもンガーないが、旅の疲れを癒す事ぐらいはグー出来るだろう。ゴガーゆっくりしていきなさい」


なんだか話が聞き取りづらい。寝ているのか。コイツ寝ながらしゃべっているのかとシンバはその男を突っついてみた。


「…なんだ」


あ、起きた。


「ユフィという女の子を知らないか?」

「…ユフィ?……知らぬな。そんな名は」

「嘘やオジサン!知ってるやろ!?」

「…くどいな。知らぬものは知らぬ」

「知ってるのね?」

「…知らぬと言ったら知らぬ!ユフィなどというものはこのウータイにはおらん!!」


オジサンは怒りだした。それをみた全員がコイツは絶対知っていると確信する。


「お前たち、見かけない顔だな…このところこの近くで神羅の兵をよく見かけるが…お主たちと関係があるのか?」

「俺たちは関係ない」

「神羅兵が…何かあるのかしら?」

「お主たちが何者か…そんな事に興味はない。…ただ、神羅と揉め事を起こそうというのなら早々に出て行ってくれ。…神羅に睨まれたくないのでな――」


ついさっきまで揉めてましたけど。シンバがそう思ったその時、自分達が探し求めていた人物が姿を現した。


「なんだい!このいくじなし!!」

「ユフィ…!」

「やっぱり知ってんじゃねえか」


シドが溜息を吐く。


「そんなに神羅が怖いの!?だったら他の町みたいにさっさと神羅に従ったらいいじゃないか!そこにいる連中の方が神羅とまともに戦ってるよ!」

「う、うるさい!お前のような奴になにがわかる――!!」


親子げんか勃発。クラウド達はそれをしばし呆れた顔で見守る事にした、…のだが、


「――フンだ!!このグータラ親父!!!」


ユフィの親父への悪口で幕が降りたそれ。そしてユフィはそそくさとまた姿を消してしまったのである。…しまった。くだらない親子げんかを真剣に聞いてしまって当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。
クラウド達は、またユフィを取り逃がす事となってしまった。


「アイツどこへいった…」


クラウドの溜息が聞こえてきた。ユフィ探しは、また振り出しに戻る事になった。



*



「――おい、アレを見ろ」


亀道楽前まで戻って来たクラウドは、その前に置いてある大ガメがいささか動いているのを見つけていた。…明らかにおかしい。不審すぎる。


「…怪しすぎるわね」

「どうなんだ?シンバ。お前ならどうする?」

「…せやな。ウチならそこらの民家よりもああいう狭くてオモロイ場所に隠れる―ってなんでやねん!!」


シンバはシドの肩を叩いた。きっとユフィの気持ちが自分にわかると思って聞いたのだろう。そもそもユフィがそこにいることは知っているからユフィの気持ちがわかるとかそういう事ではないんだけれども、クラウド達は完璧そう思ってしまっている事が何だか複雑である。

一行はそれの逃げ道を無くす為、ティファとシドがそれぞれ橋を塞ぎ、シンバとクラウドが大ガメの前に立ちはだかった。
そしてクラウドがバスターソードで大ガメの側面をぶっ叩いた。近くにいて結構な音が響き渡ったので、大ガメの中のユフィはもう鼓膜が破れてしまっているかもしれないとシンバは余計な心配をしていたが、


「っるさーーーーい!!!」


案の定大声をあげてユフィがそこから飛び出て来た。そして目の前にシンバとクラウドが立っている事に気づいたユフィは、咄嗟にその場を離れていく。


「行ったでシド!」

「おうよ!」


シドがランスを構えた。まさかブッ刺すつもじゃないだろうな。それにビビったユフィは踵を返し逆方向へと走っていくが、


「ティファ!」

「まかせて!」


ティファがファイティングポーズをとる。これはノックアウトされてしまいそうだ。慌ててユフィはまた踵を返すもそこにはもう逃げ道はなく、


「観念せえユフィ!お前のせいでウチは今日厄日なんや!!」

「わ、わかったよ…アタシが悪かったから刺さないで!ノックアウトしないで!!」


ユフィはその場に正座して土下座までし出す始末。
そうしてユフィハンター・クラウド一行は、目的を達成したのであった。



*



…一方。今だ亀道楽で呑んだくれていたタークスの元には神羅兵たちが群がっていた。休暇でウータイにタークスが来ているという情報を手にした神羅兵達は、"ある男"を捕らえるためにタークスの力が必要だと協力を要請している最中だった。

しかしレノは、それを休暇中だという理由で断った。公私混同はしない。さすがタークス。
…と言いたいところだが、それをよく思っていない人物が若干一名。


「レノ先輩!本当にそれでいいんですか!?…これがプロフェッショナルのタークスなんですか!?」


イリーナは立ち上がり声を荒げてそういった。レノはそれを気に留める事なく、相変わらず呑んでいる。


「イリーナ…勘違いするなよ、と。仕事の為に全てを犠牲にするのがプロじゃない。…そんなのはただの仕事バカだ、と」

「ルード先輩…」


イリーナはルードに目を向けた。ルードならわかってくれると、そう思ったのだろう。
しかし目を向けたルードは何も言ってはくれない。サングラスの奥の瞳は、もう彼女には向いていなかった。

イリーナにはわからなかった。タークスに入ってまだそんなに経っていない彼女にとって、仕事をする事が生き甲斐で。タークスとして仕事をこなす事だけが、彼女にとっての使命であるから。


「私にはわかりません……失礼します!!」


イリーナは悔しがるようにその場を去った。ルードが黙ってその後ろ姿に目を向ける。


「放っておけよ。子供じゃないんだ。好きにさせるさ、と…」


レノはまた、グラスに口をつけた。



*



マテリアは全て自宅にあると言うユフィに連れられ、クラウド一行は彼女の家の地下に連れてこられていた。
その間にユフィは、ウータイの歴史を語ってくれた。



ユフィが生まれる前のウータイは今のウータイよりも賑やかで、強く勇ましい街並みと人々を兼ね備えていた。
しかし神羅との戦争が勃発。そしてそれは幾年も続いた。ウータイは結局負けてしまったが、今やこのように平和な暮らしが出来ている事に街の人たちは満足してしまっていて、過去のそれを気に留めなくなってきていた。

ユフィはそれが気に食わなかった。ただの観光地と化してしまったウータイは、平和を手に入れても何かを失ってしまったと思ったのだ。

そしてユフィはマテリアの存在を知った。強く勇ましいウータイに戻るにはマテリアが必要だと思った。だからユフィはマテリアハンターとして、世界を旅して回る事に決めたのだった。


「――…だからって黙ってマテリアを持って行くのは…それは違うわ、ユフィ」

「わかってる。そんなのアタシだってわかってる…」


ユフィが泣き出した。クラウドはまいったなといったように溜息を吐き、ティファは怒る気を失ってしまっていて、


「…マテリアを返してちょうだい」

「そこの…スイッチ……左のレバー…」


ユフィが指差した方向に、二本のレバー。何かのスイッチなのは明白。クラウドは何も怪しむことはなく、それに向かって歩き出した。


「…ちょっと待った!」


が、すぐにシンバがそれを止めた。


「…ユフィ。ウチがアンタの演技に騙されるとでも思ったか?」

「「!?」」


皆が驚いた顔をシンバに向ける。


「そのレバーを引いたら上から網か檻かなんか知らんが落ちて来て、ウチらを閉じ込めるつもりなんやろ?」

「なっ…!?」


ユフィが口をパクパクしだした。どうやら図星のようだ。


「アンタの考えてる事なんかまるっとつるっと全てお見通しや!!」


シンバはビシッと音が鳴りそうなくらいに指を突き出し、ユフィを捉える。まるで犯人を見つけだした探偵な気分。なんか今の自分かっこいいじゃないか。シンバはなんだか得意げになっていた。
そんな中クラウドとティファはこの時初めてシンバに尊敬の眼差しを向けていた。やはり彼女はユフィの気持ちがわかっている。…さすが同類。と言ったら怒るであろう事を二人は心の中で呟いていた。


「くぅっ…!さすがシンバ!!…でも、アタシはここで負けるわけにはいかないのだ!!」


絶対に負けられない戦いがそこにはある。…ジーン。なんて男前なんだユフィ。シンバはユフィに敬意の眼差しを向けた。
そんなシンバをお構いなしに、ユフィはポケットから何かを取り出し地面に叩きつけていて、


ボンッ――!!


その音と共に、部屋中に白い煙が立ち上がった。


「っきゃ!?」

「しまった…!煙幕か!」


やられた。結局また振り出しに戻った。自分に惚れ惚れしている場合ではなかった。


「…くそっ!!」


白い煙が晴れ、案の定そこにユフィの姿はなかった。



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