42 she is that he really want to regain




「――あとアイツが行きそうなところは?」

「う〜〜ん。一通り回ったしなぁ…」


この後のユフィの居場所は知っていたが、これ以上ユフィと以心伝心だと思われると自分も共犯者とされてしまう可能性がある。だからシンバは、自然にはたまた偶然を装う程でウータイを一通り散策してから、その場所へと足を進めていた。


「――お!鐘がある!」


そうして目に飛び込んできた、巨大な鐘。興味津々といったようにその鐘の元まで走っていくシンバをクラウド達はいささか呆れ顏で見つめていたが、シンバが鐘を鳴らすと同時に聞こえて来た何処かの鍵が開く音を聞いてアイツは天然の天才だと思い込んでいた。
鐘の土台の下に小さな扉があり、その鐘を鳴らすとここの扉の鍵が開くシステムになっているらしい。


「…隠し部屋じゃねえか。ウータイらしいな」

「今度こそ捕まえるぞ」


一行はその小さな扉の中へと足を踏み入れたが、しかし踏み込んで直ぐにとんでもないものを目にする事となる。


「――離せよ!離せってば!ちょっと!イタッ!!イタタタタ!!」

「「っユフィ!?」」


そこには大男二人に担がれているユフィの姿があった。一体あの短期間の間に何が起こったのだろうかと怪訝な顔を向けていると、そのすぐ後ろに真っ赤なコートを着た金髪のモヒカン男。…それはシド以外はよく知っている、出来れば接触を避けたい人物だった。


「お前は…!」

「ほ…ほ……」

「変態!!!」


…って違う。強ち間違ってはいないが、ドン・コルネオがそこにいたのである。


「ほひ!!ほひ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


シンバの悪夢再び。トラウマ再び。コルネオは歓喜の踊りを始め、それを見たシンバは危険を感じてシドの後ろに隠れる。


「コルネオ!?」

「どうしてここに!?」

「ほひ〜!!やっと新しいおなごが手に入ったぞ〜!一度に二人も!ほひ〜!ほひ〜!」

「…二人?!」


すると、奥の部屋から二人目の犠牲者がまたもや男二人に担がれて姿を現した…のだが。


「こ、コラーーー!!離しなさい!後で後悔するわよ!!」


それはみなもよく知るタークスの女、イリーナだった。…イリーナ、可哀想に。と思う傍、心底自分がそっちの立場にならなくてよかったと思っている。二人には悪いが、それだけがシンバの救いだったかもしれない。


「いたぞ!!ヤツだ!!コルネオだ!!」


するとそこへ神羅兵が現れた。どうやら彼らはコルネオを追っているらしく、


「逃がすな〜〜〜!!」

「突撃ーーーー!!」


そう言いながらコルネオに突進していく神羅兵達。しかしコルネオはアッサリそれをかわし、すると勢い余った神羅兵達はクラウド達目掛けて突っ込む形になったのだが、


「…邪魔だ」


それをクラウドは一蹴。…哀れ神羅兵。シンバは伸びきっている神羅兵に合掌してから、その後を追った。



*



コルネオの後を追って総本山の前に出て来たクラウド一行は、そこでレノとルードと出くわした。イリーナも捕まっている為、そういやこれから一緒に捜索するハメになる事を思い出したシンバは些か気がきではない。


「コルネオのやつ…相変わらず逃げ足だけはたいしたものだ、と」

「…イリーナ」

「行こうぜルード。タークスの仕事をヤツにじっくり見せてやろう。……と言いたいところだが…」

「?」

「イリーナが向こうの手に渡ったとなるとちょっとやっかいだぞ、と」


レノがクラウド達を振り返る。


「…いいだろう。こちらもユフィをコルネオに攫われた」

「お互い様だな」

「勘違いするなよ、と。お前達と手を組む気はない。ただ、互いの邪魔はしない…それだけのことだ」

「当たり前だ。俺たちもタークスと協力するつもりはサラサラない」


クラウドのオーラが怖い。シンバはそれをヒシヒシと感じ取っていた。クラウドのその言葉は自分にも忠告されているような気がして、今直ぐにこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。


「けどよ、コルネオとやらはどこへ行ったんだ?」

「アイツの性格だ。だいたい予想がつくぞ、と。ここらで一番目立つのは――」


そうしてレノ達の後を追って辿り着いたのはダチャオ像のある山―というか絶壁。思っていたよりもそれはでかく、一歩間違えれば迷子になりそうなくらい入り組んでいるように見えた。


「俺たちは二手に別れるぞ、と。お前達は勝手に行動しろ」


そうとだけ言って、レノとルードは互いに違う方へと走り出す。


「俺たちも二手に分かれるか。…シンバ、行くぞ」


何故か速攻で決まってしまったチーム編成。きっとクラウドは自分を監視するつもりなのだ。…あぁ、怖い。目立つ行動は控えよう。今は大人しくしていよう。シンバは一人心に誓っていた。


「…クラウドは過保護だな」


シドは、去りゆく二人の後ろ姿にそう呟いた。



*



クラウドとユフィ探しに乗り出したシンバは、またもや気まずい雰囲気の中にいた。クラウドとの会話は少なく、それになんだか彼が怒っている様に見えるので話かけづらい。…あぁ、帰りたい。もう泣きそうである。
何でこんな事になってしまったのだろう。全てはユフィの馬鹿のせいだ。そして大殺界ど真ん中の自分の運勢のせいだ。あぁ、神様仏様。何事も起こりませんように、と心の中でブツブツ呟いていた、


「っ!?」


その時、突然モンスターが現れた。それはまた、自分の運勢が悪い事を嫌というほど教えてくれるものだった。


「虫ーーーー!!!虫ーーー!!!」


シンバはクラウドの背中に飛んでしがみついた。一番嫌いなタイプの虫、芋虫が現れたのである。…それまた数の多いこと多いこと。

クラウドはため息を吐いた。なんでこんなタイミングでしかもコイツの大嫌いな虫が出てくるんだと。自分一人で蹴散らさなくてはならないではないかと。とても面倒臭いことこの上ないではないかと。そう思いつつクラウドは背後のシンバに目を向けたが、もうダメだといった顔で泣きそうになりながら上目遣いで自分に助けを求める彼女がそこにはいて。…くそ、可愛いじゃないか。仕方ない守ってやるか。とクラウドは頼られていることにいい気になって目の前の虫に向かって行った。…クラウドも結構単純なのかもしれない。


「クラウド頑張れぇ〜〜」


シンバは岩陰に隠れ、クラウドに尊敬の眼差しを向けながらその姿に見とれていた。やっぱりかっこいいなクラウドは。何だか自分の為に戦っていてくれる気がして、自身の胸の高鳴りを感じていた、

…次の瞬間。


「っ」


シンバの姿はその場から消えた。



*



「――…何でこんなにいるんだ」


クラウドはキリの無い芋虫の群れに些か飽き始めていた。これもコルネオの仕業なのだろうか。これもアイツのペットなのか。アイツの趣味は理解出来ないな。と思い始めた時、


「!?」


目の前の芋虫が一蹴され、その先にはランスを振り回すシドと構えるティファの姿が。


「なんでぃコイツら!急に湧いて出てきやがってよ!」


シド達も芋虫の大群に鉢合わせていたようだ。クラウドは残りの芋虫を蹴散らすと、バスターソードをしまった。


「…コルネオのペットのようだな」

「趣味が悪りぃな」


シドがポケットから煙草を取り出す。


「あれ?シンバは?」

「あぁ、あそこに――」


振り返ってクラウドが見たそこに、その姿は欠片もない。


「っ!?」


それがわかった途端クラウドはそこまで駆け出しており、焦ったように辺りを見回す。


「クラウド?どうしたの?」

「しまった…!」


…やられた。この芋虫騒動、どうやらコルネオだけの仕業ではないらしい。


「アイツ…!!」


クラウドはそう一言言い残し、シド達の前から姿を消した。


「っクラウド!?」

「…なんだ?」


シドとティファは状況を把握できないまま、その場に取り残されてしまった。



*



「――っ離して…」

「嫌だ」


あの後――

自身の口元と腹部に何かが纏わり付き、声を発する間もなく体が宙に浮いた。…そして、気づく。纏わり付いたモノは誰かの手で、自身は今拉致にあったのだと。
しかしシンバは、自分を連れ去っている犯人に気づいていた。その人から放たれる香水の匂いは昔、タークスのオフィスで毎日嫌というほど嗅いだことがあったものだったから。


「レノ…」


レノはダチャオ像の隅っこにある小さな洞窟にシンバを連れこんだ。手を解いてくれるのかと思ったが反転させられて岩壁に押し付けられ、両手は自身の顔の横、レノの手によって縛り付けられてしまい、身動き一つとれない状態である。
何故このような状況になっているのか、シンバにはサッパリわからなかった。


「邪魔はせえへんって約束したはずや」

「…そうだな」


いささか近い距離にあるレノの口から酒臭がした。コイツ、まさか酔っているのではあるまいな。酔ってこんな行動に出ているんだったらぶん殴ってやりたいところだ。こんなところあの人に見られたら、それこそ自分の生死に関わるというのに。


「ほな何で――」

「お前はタークスだ」


まだ、タークスだ。レノはそう付け加えた。


「ウチは、」

「…戻ってこいよ、シンバ」


レノがシンバの肩に顔を埋める。驚いて一瞬体が小さく跳ね、そして響くは自身の煩い心臓の音。あの時の事がシンバの中でフラッシュバックして、


「……ごめん」

「…何で謝んだよ」


レノが顔を上げた。シンバはいたたまれなくなって視線を逸らす。


「…ごめん、なさい」


そうとしか言う事が出来なかった。何に対してのごめんなのか自分でもわからない。
…もう嫌だ。帰りたい。これ以上何も言わないで欲しい。聞かないで欲しい。レノが望む答えは、絶対自分の口から出る事は無い。これ以上レノの苦しそうな、悲しそうな顔は見たくない。そうさせている原因が自分なのは嫌でもわかっている。…でも、それでも――


「クラウド…!」


シンバは無意識にその名を呼んでいた。気づいて、自分でも吃驚してハッとする。


「また、アイツか――」


レノの手に力が篭る。

何故クラウドの名を呼んだのだろう。クラウドは、一番この状況を見られたくない人物だ。そしてまた勘違いして欲しくない人物。それに最も厭きられたくない人物。最も嫌われたくない人物。
…けれど、この状況から最も救って欲しい人物――


「っ!?」


次の瞬間。シンバの視界が暗くなり、そして目の前に広がる赤い景色。そして唇に感じるは、温かい感触。


「っ!?」


それは不意の、レノからの口付けだった。


「〜〜〜?!」


ハッとしてシンバはその体を押しのけようとしたが、自身の手は今だレノに捕まっている為ビクともしない。
抵抗しようと必死にもがくも、レノは啄むようにシンバの唇に自身の唇を重ね合わせてきて、


――アカン

やめて


レノ――…!!



キィィィィィィィン――!!


「っ――!?」


一瞬。シンバは何が起こったのかわからなかった。レノの姿が視界から消えたと思ったら、次に響いた金属音。自分の視界が広くなってシンバは、状況を把握する為レノが消えた方へ目を向けた。


…そこには、レノにバスターソードを向けるクラウドの姿があった。



back