「ん〜〜〜〜いい天気ですね〜〜〜〜!」
背伸びと欠伸を同時にしながら、シンバはユフィの家を出た。空は快晴。ちなみに自分の気持ちも快晴。
「――シンバ、おはよう」
「おはよー!ティファ!!」
するとそこへティファがやってきた。元気よく挨拶をして、ティファと共に集合場所へと歩きだす。
「ティファ全然変わらへんなぁ〜」
「そういうシンバこそ。……昨日、クラウドとどうだった?」
パッと横を歩くティファへ目を向ける。顔がとても楽しそう。…あぁ、そうか。自分、昨日ドエスな二人にはめられたんだと思い出す。
クラウドとユフィを送りに行った。そして当たって砕けろと、彼に真意を問いただすもなぜか馬鹿野郎と言われ、それから出会った頃の話をされた。…そこまではハッキリ覚えている。
「なんかなー…あんま覚えてへんのよな」
しかし、気づけば自分は布団の中だった。その後自分がどうやって布団に運ばれたのか、クラウドの話の続きもまったく覚えていなかった。
「まぁクラウドの誤解は解けたし!多分!」
「…そっか。ならよかったじゃない」
覚えていないけれど、結果的にはめられたことは良かったのではと思っている。やはり、誰かの後押しって大切。仲を取り持ってくれた皆には何だかんだで感謝である。
シンバの満面の笑みを見てティファは安堵のため息をついたが、いささか呆れた顔をしている事にシンバは気づいていない。
そうして二人は他のメンバーと合流した。あんなに飲み明かしたのに、皆いつもとなんら変わってない事にシンバは少し恐怖を覚える。…どんだけ酒豪の集まりなんだと。
「――…で?どうする?」
とりあえず向かってきた西―ウータイでは結局セフィロスの足取りは掴めず、それに"古代種の神殿"について知っている者も誰もおらず。情報は皆無。何しにウータイへ行ったかと問われれば呑みに行ったとしか言えない。いわば振り出しに戻ってしまったようなものだ。
「完全に行き詰まったわね」
「…せやからウチが最初に戻ろう、て言うたやんか」
シンバは聞こえないようにボソッとつぶやいた。
「とりあえずウロウロしてたらどこかに何かあるって!」
「…しばらくユフィの言う事は聞かないわ」
「え!?…ゴメンって!反省してるって!!」
「まぁでもよ、そうするしかねえだろうな」
「…そうだな」
そうして一行は、タイニー・ブロンコでぶらり旅を始めた。
***
「――なぁ、あそこに変な家あんで」
暫く陸沿いにぶらり旅を続けていると、海岸ギリギリに立てられている小さなログハウスを見つけた。何の変哲もない建物で何もなさそうだが、シンバが何か情報を得られるかもしれないと言うので一向はそのログハウスに向かうことにした。
「こんにちは、ごめんください」
言いながら勝手にドアを開ける。するとそこには汚れた綱着を着たいかにも職人風な男の人がいて、その人はクラウド達を警戒する事なく"キーストーン"という石について教えてくれた。それはなんと古代種の神殿の扉を開ける鍵らしい。とんでもない情報が手に入った。こんな小さな家は普通ならスルーしてしまうだろうに、やはりシンバの"勘"は侮れないだなんてクラウドは一人思っていた。
しかしその"キーストーン"、ゴールドソーサーの園長であるディオに売ってしまったらしい。…出た、海パン逆セクハラ男。またアイツに会うのかと皆は少し嫌そうな顔をしていたが、しかしその"キーストーン"は必要不可欠である。ルーファウスの狙いも確か古代種の神殿だった筈で、そうなるとセフィロスも古代種の神殿に行こうとしているのではないだろうか。きっとそこに重要な何かがある。みすみすルーファウスやセフィロスに先を越されては危険だ。
そうして一行は、夢の国ゴールドソーサーへと向かった。
*
ゴールドソーサーに着くや否や、シンバとユフィはまた着ぐるみデブチョコボ目掛けて走っていってしまった。…またか。あの二人やっぱり事の重大さがわかっていない。クラウドは呆れた顔でそれを見やった。
しかし満面の笑みでデブチョコボに対峙するシンバを見たクラウドは、昨日の事を思い出していささか赤面してしまっていた。くそ。アイツ俺の気も知らないで。悔しいが可愛い。デブチョコボが羨ましい。自分も同じチョコボなのにな。…って違う。
そんなクラウドの心中も露知らず、一行はディオを探す為園内を歩き回り始める。今にも駆け出して何処かへ行ってしまいそうな二人―シンバとユフィはシドとバレットによって掴まれていた。ええい離せ。これじゃまるで小学生ではないか。と二人は自分の立場を悲しく思っていた。
そうして辿り着いた展示室。世にも奇妙でそして統一感などまったくないただの自己満足で飾られているモノたちの、一番目立つど真ん中の場所にそれはあった。――"キーストーン"だ。
不思議な輝きを放つそれは、まさに秘めた力を持っている感じがプンプンして、
「これが"キーストーン"…」
クラウドがそう呟いたその時。
「はっははははははは!久しぶりだな、少年達!」
どえらい笑い声が展示室に響いた。驚き振り返ったそこに立っていたのは、あの海パン野郎。
「それが気に入ったかね?」
「これ、ください!」
「はっははははは残念だが、あげられないなあ」
「じゃあ貸してくれ」
「はっはははははは貸出も禁止だよ」
やっぱりか。そう簡単に渡してはくれないだとうとはわかっていたものの、クラウド達は落胆の表情を浮かべた。…なんか笑い声が癇に障る。その高笑いもなんとかならないだろうか。とシンバは怪訝な顔をディオに向ける。
するとその表情を見たディオが、口を開いた。
「ふ〜〜む。しかし話によっては譲らない事もないな。…君たちには借りもあるしねぇ」
「せや!あんなくそ暑いとこに落としやがって!!」
「…大変だったぜ」
いろんな意味で。とバレットが言った後で全員がシンバに目を向けた。それに気づいたシンバは何で自分にみなが注目しているのかとクエスチョンマークを頭に浮かべる。
「…条件は?」
「はっははははは!私を楽しませてくれたまえ!」
「何?一緒に海パンで踊ったらエエ?」
「…断る」
「俺も嫌だぜそんなの」
「はっはははははは!そんな事してもらわなくて結構!ここは闘技場だ。君たちの力を見せてくれたまえ。ただし挑戦者は一人だ。期待しているぞ!!」
ディオにそう言われて皆は顔を見合わせたが、暗黙の了解で一斉にそのうちの一人に視線を向ける。
「…もちろん、クラウドよね」
「だな」
「意義なーし!」
「…ちょっと待て」
「ここはリーダーが行くもんだろ。普通」
「意義なーし!!」
「頑張ってクラウド!」
攻められまくったクラウドはもう反抗しなかった。くそ。こいつらこういう時だけリーダーリーダーって。覚えてろよ。
「クラウド!頑張ってなあ!!」
去りゆくクラウドの背にそう言えば一瞬クラウドは歩みを止めたが、振り返る事なく右手を少し上げる。…か、かっこいい。そんなキザな返事の仕方かっこいいじゃないか。またもやクラウドにキュンキュンしてしまったシンバは、ふと昨日の出来事を思い出して余計胸が高鳴るのを感じていたが、
「…シンバ、どうしたの?」
「!」
振り返れば満面の笑みのエアリスがそこにいて、何だか自分の気持ちを見られたような気がして恥ずかしくなってしまった。…いやん。違う。違う違う違う。これは恋じゃない。これは、恋じゃない。
そんな自分の様子をエアリスが楽しそうに眺めてくる。…怖い。その笑顔が怖いですエアリスさん。エアリスが恋話大好きだった事を思い出したシンバは、逃げるようにエアリスの元を去った。
暫くして、クラウドはモンスターとのサシの勝負八連戦を難なくこなして帰ってきた。
さすがです。やっぱりクラウドは頼りになる。と彼を称賛。ディオもお決まりの高笑いをして納得のいく勝負を見れたと言い、"キーストーン"をアッサリと渡してくれた。
***
そうして一行はゴールドソーサーを後にしようとした…のだが。
「お客さん申し訳ございません…ロープウェイが故障してしまいまして…」
「なんだって…!?」
「…ということは――」
「も、申し訳ございません!修理が終わるまでここから出られないのです…」
なんという非常事態。クラウド達は夢の国に閉じ込められてしまったのである。皆が焦りの表情を浮かべている中でユフィはいささかにやついていた。やはりそういうところはまだ子供。まだまだここで遊べると思っているのだろう。
だが、今回ばかりは、シンバはユフィのそれに乗らなかった。一人、苦虫を噛みしめたような顔をして、黙っている。
…するとそこへ、珍しく遅れてやってきたケット・シー。
「…どないしたんですか?」
「ロープウェイが故障して降りれなくなったんだ」
「…しゃあないな〜。時々あるんですわ」
…わざとらしい。そのロボットへとチラリと目を向ける。
「せや!ここのホテルに泊まりましょ!ちょっと顔聞くんですわ!話つけてきますな〜〜」
「仕方ないな…」
「修理が終わり次第連絡させて頂きます」
「とりあえずホテルに向かいましょうか」
「…ユフィ、まだ遊びにいっちゃだめ」
一人ウキウキしていたユフィの首根っこをティファが掴んだ。ユフィは何でといった顔をティファに向けながら引きずられていき、それをシドが笑いながらからかっている。きっとシンバもそんな感じなのだろうとクラウドは振り返ったが、彼女は大人しく一人何かを考え込んでいるようだった。
珍しいなとクラウドは思ったが、あえてなにも言わずにホテルへと足を進めた。
*
ホテルのロビーに全員が集い、ケット・シーの提案で今までの話をまとめる事となった。
ケット・シー、シド、ヴィンセント、ユフィは途中から仲間になったので旅の真の目的を把握しておらず、最初からいたバレットもわけがわからなくなってしまっていた為である。
そうしてクラウドがセフィロスと約束の地について話し始めたが、…シンバは一人違う事を考えていた。
「……、」
これからケット・シーがしようとしている事に、シンバはどうするか悩んでいた。
ユフィの時同様―仲間が裏切り行為をしたと批難されるのを見たくはなかった。ユフィとは違いケット・シーの裏切り行為はいささか酷いものなのだ。そういういざこざが大嫌いなシンバは、何事もなく平和に行く方法はないかとここへ来た時から考え込んでいた。
しかし、それを止めて平和にいったとしても、その先がどうなるかは全くわからない。もしかしたらもっとえらい事になるのではないかという不安もあった。このまま自分が何もしなければ、ケット・シーが罵倒され批難されるのも最初だけ。それを我慢すればいいだけの事。自分が我慢すれば、それで済む事。分かっている、分かっているけれど、
「――シンバ……シンバ!!」
「っへ!?」
深く考え込んでしまっていたためかユフィの呼びかけに全く気づかず、振り向けばそこに自身とは対照的に満面の笑みの彼女。
「どうしたのボーッとして!…ね、遊びに行こうよ!!」
楽しそうにユフィが笑う。いつもならそれに飛びつくシンバだが、
「…ゴメン。今日はパス」
「ええ!?何で!?」
まさか断られると思ってもいなかったのだろう。素っ頓狂な声を上げるユフィ。
「…ゴメン!別に何もないんやけど!」
今日は休むわ。自分に遠慮せず行ってきたらいいよとユフィを送り出し、ユフィは然程気にも留めずレッドと共に夢の国へと旅立っていった。
そうしてシンバは、一人部屋に向かった。