48 the temple of an ancient



翌朝――

ロープウェイの故障がようやく直ったという知らせは早朝には届いており、全員がロビーへと集まる。
ケット・シーの裏切りは昨日のうちに伝わっており、それぞれに反応は違っていたが、バレットとティファがその事実に一番怒りを表し、他の者も当たり前だがケット・シーをいいように思う者はおらず、不穏な空気がメンバーの間を漂っていた。


「"古代種の神殿"の場所はここからタイニー・ブロンコで海に出て東に進んでいけばありますわ」


ケット・シーはそんな空気をもろともせずにいつもの調子だった。そりゃそうか、ロボットに感情なんてない。ましてや動かしている当事者は敵にあたる。
それもあってか、直接ケット・シーを罵倒する者はいなかった。いわば神羅から喋る大きな盗聴器が仕掛けられていたようなものだからだ。


「ほな、そろそろ行きましょか?」


一行は、ゴールドソーサーを後にした。



*



タイニー・ブロンコに乗り込み、一行は古代種の神殿を目指す。メンバー内の会話は少なく、緊張感と今だある不穏というなんとも居心地の悪い空気が漂っている。

ケット・シーは一人輪の中から外れボーッと海を眺めているようだった。その背中にシンバは寂しさを感じたが、何もする事が出来ずにいる。イジメられている子を庇えば今度はその子がイジメの対象になる。ケット・シーを庇えば今度こそ神羅と繋がっていると疑われるだろう。それに、きっとケット・シーはそんな事望んでいない。ケット・シーは自分たちに対して仲間意識を持っていないからだ。仮にも今ケット・シーに仲間意識を持ち続けているのはシンバだけ。自分が今抱いている感情は無用なものなのである。…けれど、わかっていてもその感情をすんなり消せるほど器用でもない。

いらない葛藤が、シンバを苦しめ続けていた。



しばらく海を進むと、鬱蒼と茂る森がひしめき合う小さな島にたどり着いた。その森の中心辺りに見えるは、ピラミッドのような建物。


「…あれが古代種の神殿?」

「さて、…誰が行く?」

「わたし行きたい!絶対行くから!!」


エアリスが高々と手を上げた。


「…ウチも、行こかな」


いつもの勢いを見せず小さくその手を上げる。
古代種の神殿には、本当は行きたくなかった。…そこにはセフィロスがいるからだ。ニブルへイムのあれ以来、シンバはセフィロスに会う事を恐れていた。
しかし、ここで待機してケット・シーの事で悩むよりはマシかもしれないと思ったのである。それに皆と一緒にいればいい、一人でセフィロスに会わなければいいだけの事。そう言い聞かせ、シンバは古代種の神殿に行く事に決めたのだ。

そうして古代種の神殿にはクラウド、エアリス、シンバ、ヴィンセントの4人が行く事になった。

4人は、鬱蒼と茂る森の中へと足を踏み入れた。





***





古代種の神殿そのものにたどり着くのにそれほど時間はかからなかった。近くで見ると一層大きなその建物は、この森の中で異質な存在感を醸し出していて、


「ここ、古代種の神殿…」


エアリスがユックリとそれに近づいて行く。


「わかる…感じる…漂う……古代種の意識」


エアリスは古代種の神殿の壁に寄り添うように体を密着させ、それに耳を当てがった。まるで古代種からの声を、聞くように――


「死んで、星と一つになれるのに…意志の力で留まってる。……未来の為?私たちの為?」

「…何て言ってるのか、わかるのか?」

「不安…でも、喜んでる?私が来たから?」


エアリスはキョロキョロと確認するように辺りを見回す。しかしそこには何も聞こえず、ただただ木の葉の掠れる音が聞こえるだけ。


「ごめんね…わからない」


悔しがるように、残念そうにエアリスはそう言った。


「早く中に入りたい」

「そうだな。…入ろう」


そうして入り口を探すも地上にそれはないようで、上へと続く一本の長い階段を登る。
するとそこに、ニブルへイムで見たあの黒マントと同じ格好をしたモノがいた。


「黒…マテリア…」


その黒マントはそうとだけ言って倒れてしまった。その腕にあるは、『NUMBER9』の刻印。


「ナンバー9…ここにもイレズミの男――」

「セフィロスがいるかもしれない」

「…せやな」


皆の表情に緊張が走る。シンバは、なんだか胸騒ぎがして仕方なかった。やっぱりこなかった方がよかっただろうか。ただ、自分が過剰にセフィロスを意識しすぎてるだけか――


「…シンバ、大丈夫か?」


その声はクラウド。驚いた表情を向けてしまったが、すぐにニッコリ微笑んで見せた。大丈夫。みんな一緒だ。怖くなんかない。自身に言い聞かせ、大きく深呼吸して気持ちを整えた。



古代種の神殿に入ると、目の前に現れたのは祭壇。そしてそこには、…思いもよらない人物が倒れていた。


「っツォン!!」

「ツォンさん!」


エアリスは駆け出そうとしたが一瞬躊躇いその足を止めた。仮にもツォンは、敵。その為エアリスは情けをかけるのを躊躇ったのだ。
それに代わるようにシンバがそこへ駆け寄る。敵だとしても、元上司が瀕死の状態でいるのをシンバは放っておけなかった。


「くっ…やられたな…」

「大丈夫ですか…!?」


ツォンの怪我―いや、怪我なんてものじゃない。肩から胸にかけて刻まれたその傷は、細い太刀のようなもので切られたような跡だった。セフィロスにやられたのだと容易に想像する事が出来て、そして彼の力を、恐ろしさをまたと知る。


「セフィロスが…探しているのは、約束の地じゃない…!」

「セフィロス!?中にいるのか?!」

「…自分で確かめるんだな」


ツォンはユックリと腕を持ち上げ、シンバの目の前に"キーストーン"を差し出す。


「ツォンさん…」

「シンバ…元気そうで、なによりだ…」

「…!」


シンバの目から、涙が一粒こぼれ落ちた。


「はは…敵に情けをかけるのはよくないぞ…シンバ」


相変わらずだな。ツォンはそう付け加えた。


「死なんとってください。…元上司に死なれても、ウチ敵やし葬式出られませんからね」


シンバは泣きながらも笑ってそう言った。ツォンは馬鹿野郎と一言言って、頭を乱暴に撫でてくる。
クラウドやヴィンセントは黙ってその様子を見ていたが、エアリスは背を向けていた。エアリスにとってツォンは小さい頃から敵対していた人物だが、自身が子供の頃から知っている数少ない人物でもある。…だから、エアリスは複雑な心境だった。シンバのように駆け寄りたいのにそれが出来ない。長い間の隔たりを、今更覆すような事が出来なくて。

エアリスは、心の中で泣いた。


「――…キーストーンを、祭壇に…置いてみろ…」


シンバはツォンから受け取った"キーストーン"を言われた通りに祭壇にかざす。すると、辺りが一瞬にして光に包まれ、4人はその光に包まれるようにしてその場から姿を消した。



*



「――?」


光に包まれたのは一瞬で、気づけばクラウド達は先ほどとは打って変わった広い場所に立っていた。石で作られたその大きく壮大な場所は、まるで古代ギリシアにでもタイムスリップしたかのような景色を広げていた。


「すごいトコやな…」

「言葉が…思いが…たくさんここにある」

「これは大変そうだ…」

「そうだね。…でも、みんな頑張ろうね!」

「うん。…行こう」

「あそこ、洞窟みたいなっとるな。…とりあえずあそこ目指そや?」


シンバが指差す方向には石壁に小さく開けられた穴らしきものがあり、そこから中に入って行く事が出来そうだった。



しばらく歩きその場所にたどり着いたのだが、その穴を潜るとそこには道は続いておらず一つの部屋のようになっていた。そしてそこには魔法使いのような格好をした、小さな小さな人らしきモノが座っていて。


「ねむねむ…」

「ね、ねむねむ?」

「うん!やっと会えたね!…ごめんね。待っててくれたんだね」


そんなねむねむとエアリスは話出した。エアリスは彼が何と言っているのかがわかっているようである。


「彼らは古代種の精神体」

「精神体?」


精神体って事は人でも動物でもないのか。…ってことは幽霊か。シンバは興味津々といったようにそれに近づき、その帽子の下を覗き込もうと必死になっていた。


「ず〜っと長い間、星に帰らずこの神殿を守り続けてる。長い年月から言葉を失わせた…ううん、最初から言葉はいらなかった。神殿に留まった者達の目的は一つだったから」


エアリスの言葉に耳を傾けていたクラウド達は次にその精神体に目を向ける。その精神体はシンバが帽子の下を覗き込もうとしているのを避けるのに必死になっていた。…何をやっているんだアイツは。アイツは本当に得体のしれないものが好きだな。クラウドは毎度同じ溜息をつき、ヴィンセントはそれを見て少し笑っていた。


「…シンバ、そっとしといてやれ」

「…はい」


シンバは残念がったが精神体にニッコリ笑顔を向けてクラウド達の元へと戻る。…精神体がその笑顔にいささか恐怖心を抱いたのはいうまでもない。
今度はエアリスが精神体に駆け寄りいろいろ問いただしてみるも、精神体は何も教えてはくれなかった。


「…シンバにすっかり怯えちゃったみたい」

「え!?…ごめん」


まさか自分のせいで機嫌を損ねられてしまったのだろうか。とんだ失態を犯してしまった。シンバは少し反省し始めた。


「ごめん!今のは冗談!……セフィロスが、いるからかな?」


こんな時に冗談はやめてくれ。シンバは安堵の溜息を吐いた。
一行はその場で少し休憩をとってから、その精神体に道を教えてもらい神殿の奥を目指した。



*



古代仕掛けの摩天楼をなんとか切り抜けながら、着々と足を進める。
どんどん奥へと進んで行くと、どこからか光の差し込む明るい場所へと辿り着いた。そこには、不思議な色をした水が溜められている。


「なんここ?」

「古代種の知識がいっぱい…ううん、知識なんかじゃない。そう、意識…生きている心」


エアリスはその意識に耳を傾けるようにその水へと近づく。


「…ごめんね、わからないの」


エアリスはまた悔しそうな顔をしたが、すぐにその顔を驚きの顔に変えた。


「えっ?なに?…危険?邪悪な、意識?……え?見せる?見せてくれるの?」


エアリスの言葉に全員がキョトンとしていると、その泉にうっすらと何かが映し出されていった。

少し明るめの部屋―そこはまるで古代遺跡の中のようで、壁一面には古代文字や絵が描かれていた。そして一瞬にしてそれはクラウド達の目の前にまで広がった。まるでそこに自分たちが入り込んだような感覚が全員を襲う。


「…どうなってる?」

「何が起こっているんだ?」

「待って!ほら、見て。…始まるわよ」


エアリスがそう言った直後、そこにスーツを纏った黒髪の男と金髪の女が現れた。――ツォンとイリーナだ。



『ツォンさん、これは?これで約束の地がわかるんですか?』


その壁画に目を向けるツォンとイリーナ。何が書いてあるのか二人はサッパリわかっていないようだった。


『…どうかな?とにかく社長に報告だ』

『気をつけてくださいね、ツォンさん』

『あぁ。…イリーナ、この仕事が終わったら飯でもどうだ?』


ツォンの思いがけない言葉にイリーナは目を丸くする。


『あ、ありがとうございます!…それじゃ、お先に失礼します!』


イリーナが少し顔を赤らめてその場を去る。少しの間の穏やかな時間の流れがそこにはあった。イリーナは可愛い奴だなと思いつつ、シンバはその続きに目を向けた。


『ここが約束の地?…いや、まさかな――』


ツォンが壁画に目を奪われていた、その時。
その背後に舞い降りたのは、――銀髪の黒ずくめの男。


『セフィロス…!』

『お前が扉を開いたのか。…ご苦労だった』

『ここは、なんだ…!?』

『失われた知の宝庫。古代種の知恵、知識…私は星と一つになるのだ』

『星と、一つに…?』

『愚かなる者どもめ…考えたこともあるまい。この星の全ての精神エネルギー。この星の全ての知恵、知識…私は全てと同化する。私が全て…全てが私となる』

『…そんな事が出来るというのか…?』

『その方法が、ここに…。そして、それを彼女が一緒に叶えてくれる――』



「――…!!」


ドクン。と心臓が一つはねるのをシンバは感じた。

セフィロスがそんな言葉を言う事があっただろうか。彼女とは誰なのか。エアリスか。…いや、セフィロスにとってエアリスは敵だ。だとしたら、彼女とは、


『っ…!!』


…そして目の前で、ツォンがセフィロスに斬りつけられた。



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