「…見えた?」
「あぁ」
「…壁画の部屋はどこだ?」
ツォンがセフィロスにやられたところで回想は終了。辺りの景色が、元の暗いモノに戻って行く。
セフィロスはここにいた。そしてきっと今もここにいるはず。そう確信したその場の空気が一瞬にして変わる。
「セフィロス…ここで決着をつけてやる」
「ええ。行きましょう――」
そうして一行は歩みを進め、泉からほどなくして洞窟を抜けた。
しかしその先に部屋は続いておらず、下を見やれば真っ暗な暗闇が広がっていた。辺りを見渡せば等間隔にいくつかの洞窟への入り口があり、きっとそれぞれに続く道が違っているのだろう。クラウド達の足元から伸びる細い橋のようなものはよく見れば矢印のような形をしており、その空間の真ん中にある小さな足場へと続いている。その矢印はもう二つあり、そのうちの一つは小刻みに一定の間隔で回っていた。
「…変な場所に出ちゃったわね」
「時計を表しているようだな」
「なぁ、…これ渡るん?」
シンバは予想以上に恐ろしい場所にビビってしまっていた。ゲーム内では簡単にクラウドを操作して渡っていたが、実際見るとまるで綱渡り。コレル山の橋の方が大分マシ―いや比べる程ではないかもしれない。
「…ここしか道はないからな」
「無理!怖い!落ちる!ウチ絶対落ちる!!」
言うと思った。クラウドは予想通りのシンバの反応に呆れたような笑ったような顔をした。
「クラウド、おぶってあげれば?」
出た、エアリスのどS攻撃。くそ。コイツこんなところでも抜け目ねえな。クラウドは聞こえないように小さく溜息をついた。
「えっ!?い、いいよ!!」
ブンブンと手を横に振って断るシンバ。いつもなら喜んでそれにのるも、今は変にクラウドを意識してしまう為か恥ずかしさが勝ってしまっていたが、
「シンバ、乗るのよ」
命令形か。そしてクラウドの意向は無視か。シンバは顔を手で覆った。
「…ほら、おいで」
キューーン。クラウドの言葉にとどめを刺される。もう自分今顔真っ赤に違いない。やっぱりくるんじゃなかった。シンバは心の中で後悔しながらしぶしぶクラウドの背に乗る。
そうして一行は、その矢印の針を渡り始めた。
「うわぁ〜なんか古代って感じするなぁ」
「古代の人は仕掛けをするのが好きね」
「遊び心満載やな!」
シンバは気がきではなかったので無駄に喋り続けていた。変に意識するからダメなのだ。今自分が乗っているのはチョコボだ、チョコボ。ちょっと美形なチョコボ。シンバは暗示のように心の中で呟いた。
「っわ、すごーい…」
時計の仕掛けを進め一つの入り口に足を進めると、明るい外の景色に出くわす。そこは崖のような作りになっており、その絶壁の中心には他とは違う作りの豪華な扉が備えられていた。明らかに、怪しい。ボスの匂いがプンプンする。
エアリスがそこへ駆け寄り扉を開けようと試みるも、その扉はビクともしなかった。
「鍵がかかってる…」
「あ!ねむねむ!」
シンバが指をさした方向には、あの精神体が立っていた。いつのまにそんな所に。さすがエスパー。
「あの子が鍵を持っているっぽいわね」
「捕まえるのか?厄介そうだな」
「っしゃ〜!まかせろ!!」
シンバは勢いよくクラウドから飛び降りると精神体に向かって走り出したが、…精神体はシンバの姿を見るや否や危険を察知して尋常じゃないくらいの速さで逃げ出した。
「…やっぱりシンバに怯えてたみたい」
「何をされるかわからんからな」
しばらくクラウド達は二人の鬼ごっこを見守っていたが、途中から完全にシンバが遊ばれている形となってしまっていた。…これじゃ拉致があかない。仕方ないので、三人も精神体の捕獲に乗り出した。
そしてシンバ以外の三人によって、精神体の捕獲はアッサリ成功した。シンバは無駄な体力を使うハメになり、精神体に避けられている事に少しショックを受けていた。
そして精神体を捕まえたと同時にその扉の鍵は開かれる事となり、皆はその中へと足を進めた。
その場所は先ほど泉で回想された場所と同じ所だった。壁一面に描かれている何かの絵。みなはそれを興味津々に見て回り、セフィロスがいないかと辺りを警戒しながら進む。
「ここが壁画の間…」
「どこだセフィロス――!!」
『――冷たいな』
「「!?」」
クラウドの問いかけに反応したのは他の三人ではなく、第三者の声。それに驚き皆が辺りを振り返ると、クラウド達の目の前にあの銀髪の男が姿を見せて、
「…私はいつでもお前のそばにいる。くるがいい」
セフィロスはそう言い放ち一瞬その姿を消し、壁画の間の奥にその姿を現す。
「全く素晴らしい…知の宝庫」
「何を言っている?」
「よく見ておくがいい」
「何を、」
「古代種の知に与えるもの。…私は星と一つになるのだ」
セフィロスはその手を高々と天へ向けて伸ばす。
「かあさん……もうすぐだよ。もうすぐ、ひとつになれる…」
「星と一つになって、どうするつもり…?」
「簡単な事だ」
星は自身に傷が生じると治療の為に傷口に精神エネルギーを集める。その傷の大きさに比例して集まるエネルギーの大きさは決まる。そうして星は、自身を守ってきた。
…しかし、もしも星が破壊される程の傷が出来たとしたら。
「…ふっふっふっふ。その傷の中心にいるのが私だ。…エネルギーは全て、私のものだ」
どれほどの精神エネルギーがその傷の為に使われるかは想像だに出来ない。セフィロスは、その莫大な精神エネルギーが目的だったのだ。
「星の全てのエネルギーとひとつになり私は新たなる生命―存在となる。星と交わり私は…今は失われ、かつて人の心を支配した存在……"神"として生まれ変わるのだ」
「星が破壊される程の傷?!」
「壁画を見るがいい。最高の破壊魔法…メテオ」
その壁には、小惑星が地上に降り注ぐ様子が描かれていた。そんなものが星に衝突したら人類までもが確実に滅亡してしまう。セフィロスはただ膨大な力を得る為だけに星を破壊し、人類を滅亡させるつもりなのだ。
「そうはさせない!!」
「無駄だ。…私には心強い同志がいるからな」
「!?」
セフィロスがシンバに目を向ける。ゾクリ、と体中の細胞が震えるのがわかった。セフィロスの張り付くような視線。シンバがまた虎に射抜かれた狐のように固まってしまった、次の瞬間。捉えていたはずのセフィロスの姿はシンバの前から消えていて、
「っセフィロ――!?」
皆がそれに驚いたが、次の瞬間またセフィロスは姿を現した。
…シンバの、目の前に。
「会いたかった…我が希望――」
「…っ」
シンバは微動だに出来なかった。セフィロスの手が、ユックリと自分に近づいてくる。
「貴様…!!」
クラウドのバスターソードが空を刻む。セフィロスはクラウドがバスターソードを向ける前に、その姿を一瞬にして元の位置へと戻していたのだ。
そして、勝ち誇ったような笑みを浮かべクラウドを見やる。
「いずれわかる時がくる。お前達は彼女と一緒にいた事を後悔する事になるだろう。…最後に笑うのは、私だ」
「っ…!?」
「何を言っているの!?」
「シンバ、耳を貸すな。戯言だ」
全員がシンバを庇うように前に出る。
…まただ。セフィロスは自分を同志だと、希望だと言った。冗談で言っているのではない。彼は本気で言っている。
シンバは何だかいたたまれなくなった。ここにいたくない。やはりここには来るべきではなかったのかもしれない。
「っシンバ!!」
かかる声を振り返りもせず、壁画の間から出る。空気が重い、苦しい。一刻も早く、外に出たかった。
「私が行こう」
ヴィンセントは追おうとするクラウドを止めシンバの後を追った。セフィロスはそれを見やりまた一つ笑みを浮かべると、視線をクラウドに戻す。
「さぁ…そろそろ目を覚ませ、クラウド」
「!?」
セフィロスはそう一言言い残し、その姿を消した。
「っセフィロス!待て!!」
「っ待ってクラウド!」
駆け出したクラウドを慌ててエアリスが止めようとしたが、…何が起こったのかクラウドは急に立ち止まり頭を抱え出していて、
「クラウドっ…!?」
その急な動作に、心配になり顔を覗き込む。すると、クラウドはその顔をあげた。…しかしその表情は、先ほどのクラウドのモノではなかった。
「クラウド…?」
「クックック……黒マテリア」
クラウドは肩を揺らして笑い始めた。その声も、いつものクラウドのモノではない。
「メテオ…ヨブ――」
「クラウド!?しっかりしなさい!!」
その肩を揺らし、クラウドを正気に戻そうとエアリスは試みた。何が起こっているのかわからなかった。ただ、尋常じゃないクラウドに、エアリスは何か不吉なモノを感じ取っていて。
「クラウド…俺、クラウド…」
小さい子が自分の名前を確認するように、クラウドは自分の名前を繰り返して言う。何度も体を揺らし、動かし、そうしてクラウドは徐々に自身を取り戻していったようで、
「…俺は――」
「クラウド…?」
顔をあげたその先にいたエアリスが心配そうに自分を覗き込んでいる。クラウドは何故エアリスがそんな顔をしているのかわからなくて、そして何が起こっていたのかもわかっていないようだった。
「…エアリス…?」
エアリスは、とりあえず何もなかったとクラウドに告げた。言ってはいけない気がした。…何かが、おかしい。セフィロスによって、いろんな事が狂い始めている気がして。
「――っ、ヴィンセント」
するとそこへ、シンバを追っていったはずのヴィンセントが帰ってきた。
「…シンバは?」
「一人になりたいそうだ」
「…そうか」
「大丈夫だ。…"あの時"よりは大分落ち着いている」
あの時も今回も、セフィロスはシンバの事を"同志"と呼んだ。何故シンバがそう呼ばれるのかが三人にはサッパリ検討がつかない。それに、彼女は違う世界の人間だ。何故セフィロスが知っているのかもわからない。
そして、それ以上に彼女の態度が気になっていた。彼女は本当にセフィロスに怯えているだけなのだろうか。
…もしかしたらシンバは、セフィロスの何かを知っているのではないか。
「シンバは…何か知っている気がするの」
エアリスがポツリと呟いた。しかし核心には、触れないように。
「何かを隠しているようだな。…しかし、」
「シンバは…それで一人苦しんでると思うんだ。誰にも迷惑をかけないようにって。一人で抱え込んで…」
クラウドの頭の中にゴールドソーサーのゴンドラでの出来事が浮かんだ。そして自身の拳を強く握り締める。待ってるなんてかっこいい事言ったけれど、本当は何もかも言って欲しかった。もっと自分に頼って欲しい。どうして話してくれない。どうして、どうして。
全てが、わからなかった。
「…いつか話す。彼女はそう言っていた」
「聞いたのか?」
「少し前にな。何も教えてはくれなかったが」
クラウドはそれを聞いて心のどこかで安心していた。ヴィンセントが知っていて自分が知らないなんて事があったらすごくショックを受けてしまうところである。
「シンバはセフィロスの仲間なんかじゃない。それはハッキリわかるわ」
「あぁ。そうだな」
「…それで、十分じゃないか?」
ヴィンセントの言葉に二人は頷いた。これはシンバ自身の問題だ。温かく見守るのが仲間の役目。いつかきっと話してくれる。それまでは、しっかり彼女を支えていけばいいだけだと。
運よく、セフィロスがシンバを"同志"と呼んだことを知っているメンバーは限られている。ユフィが少し厄介だがあのお転婆娘の事だ、もうすでにそんな事忘れているだろう。これはここだけの話に咎めておけばいい。
「……」
クラウドは、シンバが出ていった方を見つめていた。