52 don't change one's portion in life



「――いや〜発掘って楽しいですなぁ〜!」


シンバが今いる場所は、ボーンビレッジというところ。そこはまさに発掘現場といったところか、探検家のような格好をした人たちがせっせと岩を削ったり発掘した物を調べたりと、何かの映画のワンシーンのような場面が広がっている。

エアリスがまだ来ていない事を発掘スタッフから聞き、そのまま雑談をしていると発掘してみないかと提案され、何でも体験したがりなシンバはその提案にのり今に至るわけなのだが。


「ふぅ!」


探検家の服装に身を包みピッケル片手に汗を流すシンバがそこにはいた。…趣旨が大分変わってないか。当初の目的を忘れていそうなこの女は、発掘に精を出しきってしまっているようである。


「あなたとてもセンスがあります!どうです!?ここで働いてみませんか?」

「…え、いいんですか!!」


あなたの職業なんですかと聞かれて「考古学者です」。…なんてかっこいいんだろう。恐竜の化石何ぞや発掘して世界的に有名になったら、なんて。


「――!」


シンバがありもしない妄想ワールドを繰り広げ始めていた時。


「「ようこそ!自然主義者の村、ボーンビレッジへ!」」


この場に不釣り合いなピンク色が目の端に入った。
旅の人だ。お客さんだ。そう思って発掘スタッフとシンバはお決まりの台詞を口にし、満面の笑みを作ってその方へと目を向けたが、


「…シンバ!?」

「…あ!エアリス!何でここに!?」


いやそれはエアリスの台詞である。


「シンバこそ!!…みんなは?いるの?」


エアリスの顔に焦りが出る。それに気づいたシンバは、ようやくここへ来た目的を思い出す。


「おらへんよ。ウチ一人」

「…どうしてここに――」

「エアリスの考えてることなんかまるっとスッキリお見通しや!」


シンバはピッケル片手にエアリスをビシッと指差した。…そんな格好で言われてもあまり―いや全く説得力はないのだが。


「…言うたやろ?悩みとかその他なんでもちゃんと話すって。一人で抱えこまへんって」

「でもそれはお互い様でしょ?」

「、うっ…」


そうでした。シンバもエアリスに隠している事が多々ある。コスタで約束したけれど、約束を守っていないのは自分も一緒だった事に気づいてシンバは言葉に詰まった。


「いいの、シンバ。…私、シンバは普通の人じゃないって思ってた」

「え?」

「シンバも私と一緒で、不思議な力みたいなもの持ってるんじゃない?」


エアリスが言わんとしてる事が、刹那頭を過る。それを不思議な力と言えばそれでもいいのかもしれない。未来が見える、不思議な力――
…結局エアリスも自分の事お見通しだったのだ。シンバは図星ですと言うように自身の頭をポリポリと掻きだした。


「でもね、シンバ。…私、行かなきゃ」

「…わかってる。それは止めへん。けど、」

「?」

「なんも一人で行かへんくてもエエやろ?」

「でもこれは私にしか、」

「そういう意味とちゃうねん。エアリスにしか出来へん事やからって、一人で突っ走らんでもエエやん」

「突っ走っちゃ、ダメなの?」

「アカン!!」


エアリスがクスッと笑う。シンバはそれに少しムッとした。笑い事ではない。エアリスには危機感ってものが無いのだろうか。自分の立場をセフィロスが気づいていないとでも思っているのだろうか。


「わかったわ。じゃあシンバも一緒に行きましょう?」

「っウチだけやアカン――」

「時間が無いの!早く!!」

「っエアリスぅ?!」


強引にシンバはその手を取られエアリスに引っ張られた。コケそうになりながらもその体制を崩さずにエアリスの進む方へ足を進めるが、


「ルナ・ハープ!ルナ・ハープないと森ん中入れへんねん!!」


必死にそう口にする。するとエアリスがそれに反応して急に足を止め、シンバは勢い余って彼女に突っ込んで行くハメになった。


「…そうなの?」


エアリスにぶつかったシンバは、少しよろめきながらもその体制を整えた。…この数分の間になんか自分てんやわんやである。


「発掘せなアカンのよ」

「わかったわ。発掘しましょう!」


そう言ってエアリスは発掘スタッフからピッケルをもらって辺りを掘り出した。切り替えが早いなエアリス。シンバは一つ呼吸を整えると、またもや発掘作業にとりかかった。





***





タイニー・ブロンコに揺られながらクラウド一行は古代種の都を目指していた。
…否。目指しているというよりは探しているといった方が正しい。明確な場所は掴めていないものの、西にはウータイ、南には古代種の神殿、東にはゴンガガやロケット村、となると残るは北―という事で北の大陸に何かあるだろうという勘頼りで海を渡っていた。


「――ねえ、クラウド」

「なんだ?」

「どうしてエアリスもシンバも、何も言わずに行っちゃったのかな?」


寂しそうに問うレッドに、クラウドは言葉に詰まりすぐに答える事が出来なかった。
そんなの自分だってわからない。自分だって知りたかった。出口の見えない不安に、自分も押しつぶされそうなのに。


「…オイラ達が、信用できないから?嫌いになっちゃったのかな?」


自分の心の声を代弁するようにレッドは言う。確かにクラウドも何度もそう思った事がある。あの二人は、自分たちが信じられないから一人で何もかも解決しようとしているのだと。
…しかし、その考えはどうもしっくりこなかった。今まで一緒に旅をしてきてあの二人の性格や行動はよく知っている。それを思うと、二人が自分たちを信用していないとは思えなくて。


「…それは、違う」

「じゃあ、どうして?」


クラウドは天を仰いだ。真っ青な空は、まるであの二人のように明るい。


「…その逆だと俺は思うんだ」


みんなを信じているからこそ、みんなが大好きだからこそ。迷惑をかけたくない、心配をかけたくない。きっとあの二人はそう思っているのだ。仲間を思いすぎて自身に負担をかけ、自分を犠牲にしてまで仲間を守ろうとしているのだと。


「…そんな顔するな」


クラウドはレッドの頭をこれでもかというくらいクシャクシャにしてやった。…シンバがいつも、するように。


「…大丈夫さ」


何が大丈夫なのか自分で言っておいてわからなかった。レッドに言い聞かせるように、自分にも言い聞かせているような気もして。


「…シンバは無茶ばかりするからね」

「そうだな」


頭の中にふと浮かぶは、シンバの笑顔。頼むから一人で無茶はして欲しくない。するなら、自分がいるときに思う存分やって欲しい。自分が行くまで待っていて欲しい。俺が見てるから。俺が、守るから。

クラウドは、その拳をキュッと握り締めた。





***





「キレイな場所やな」


シンバとエアリスはルナ・ハープを手に入れ、眠れる森へと足を踏み入れていた。

神秘的なその場所に見とれながら歩くシンバ。なんとかエアリスを一人にせずに済んだ事で、シンバはいささか気が緩んでいた。


「そうだね。……ねえ、シンバ」

「ん?」

「シンバは、何を知っているの?」


この際隠し事は無しにしよう。エアリスの目は、そう言たげで。


「…いろいろ、やな」


しかし結局、シンバははぐらかす形をとった。全ては語れない。この先の未来は特に、だ。


「だから私を一人で行かせたくなかったの?」

「一人で行くのは危険やってば」


エアリスの質問の真意はわからなかった。けれど女の子一人で森の中を彷徨うのは誰がどう見ても危険である。それは本当の話だ。


「ねえ、シンバ」


エアリスがふいに足を止める。


「シンバがこれからしようとしてる事。…ううん。今してる事は、本当に大切な事なのかな?」

「へ?」


エアリスの言葉に目を丸くして、顔を向ける。そんな事言われるなんて思ってもいなかったシンバは、エアリスが何を言っているのか一瞬わからなかった。


「運命を変えるって、とんでもない事だと思わない?」

「…何を言うてるん?」


ドクドクと、心臓の音が激しさを増していくのがわかった。…それはあの時セフィロスに、あの言葉を言われた時と同じ。


「その運命を変えたら、シンバの望む未来はくる?」

「、それは」


わからない。エアリスを助けさえ出来ればいい。そう思っていた。エアリスを助けたらこの星が救われない、だなんてこれっぽっちも考えた事はない。というよりそんな事があるわけがない。エアリスが死ななくても、結果的にこの星は救われる。…そう、確信していたのに。


「私ね、運命とかあんまり信じたくなかったんだ。…でもね、気づいたの。私は"古代種"でしょ?…生まれた時―ううん、生まれる前からそれは運命で決まってたのよ」


ドクリ、ドクリ。何故か、焦りを感じだす心。自分の考えを見透かされたからか。自分の計画が狂いそうになっているからか。…エアリスが何を言いたいのかが、わかってしまったからか。


「私が果たす使命も、決まっていたの」

「…わかってる。エアリスの使命は。…でも、」


死ぬのは使命じゃない。違う。そんなの運命なんかで決められるはずがない。シンバはブンブンと首を横に振った。
エアリスが近づいてくる。次には、ふわりと彼女の香りに纏われ、その暖かさに包まれていた。


「シンバの気持ち、すごく嬉しい。私の事すごく心配してくれてるんだよね」


エアリスは自分の運命を知っている。これから何をして、何が起こるのか。全てわかっている。そう思った。


「…守るから。ウチが、エアリスの事守るから…」

「いいの、シンバ」

「…セフィロスから、守るから…」

「十分だよ、シンバ」

「…何で、そんな事言うの――?」


それ以上言わないで欲しい。何も十分なんかじゃない。自分はまだ何もしていない。エアリスには死んで欲しくない。エアリスはここで死ぬべきではない。なのに、自分のしようとしている事をエアリスは望んでくれていない。…それが、悲しかった。

何故止めてはいけないのか。何故運命を変えてはいけないのか。何故死ななければいけないのか。何故、エアリスはそれを望んでいるのか。
ぐるぐるぐるぐる、頭の中で考えがまとまらない。何をどう言えば、エアリスは思いとどまってくれる?何をどうすれば、エアリスは――


「…ごめんね、シンバ」


そう聞こえたと同時。
シンバの目の前が、真っ白い景色に変わった。


「っ!?」


一瞬何が起こったのかわからなかった。途端に感じたのは自身の身体の異変。痛くもないし痒くもなく、異常はない。
…けれど、完璧異変が生じていて、


「なっ…!?」


白い煙が晴れて目に飛び込んできたのは、大きな茶色いブーツとピンク色をしたカーテンのような物。それがエアリスの足元だという事に気づくのに時間はかからなかった。…エアリスが巨大化したんだと最初は思ったが、しかし辺りを見回せば先ほど自分の隣にあった木々たちがとんでもなく大きくなっているという事実に直面し、
…そして、悟る。エアリスが巨大化したのではなく、自身が小さくなったのだと。


「ちょ、どういう事!?エアリス!?」


ミニマムをかけられたのだ。油断していた。シンバは抗議をしようとエアリスを見上げたが、ほど遠いそれを見上げるのはシンバにとってかなりしんどい体制を要した。


「ごめんねシンバ。私、運命には逆らいたくないの。…それが、どんな運命であっても」


バツが悪そうな顔をしながら、それでもエアリスは笑っていた。
シンバは何も言う事が出来なくなっていた。エアリスのその顔を見たら、言いたい事が頭の中からスッと消えていく。まるで彼女に消されていくかのように。


「…クラウド達と上手く合流してね。…こんなシンバ見たらクラウド、ポッケに入れて持ち歩きたくなっちゃうかもね!」


…こんな時に何を言っているんだこの女は。しかし小人のシンバがどんなに足掻こうが、今のエアリスには何も効かない。

エアリスは小人シンバをひょいと持ち上げると、木の枝の上に乗せた。地面にいるとモンスターに襲われる可能性があるからだろう。
そんな優しさはいらない。いらないから、頼むから一人で行かないで欲しい。…ただ、それだけなのに。シンバはどうにもならない現状に焦り、その目には自然と涙が浮かぶ。


「エアリス何でっ、何でや!ひどいやんか!」

「許して、シンバ」

「許さへん!!絶対許さへんから!!!」

「…最後のお願いくらい聞いて、ね?」


最後のお願い、だなんて。シンバは聞こえなかったと言うようにブンブンと首をはち切れんばかりに横に振り続ける。


「ばか馬鹿!!エアリスのバカ!!」

「…シンバ」


エアリスが人差し指でシンバの頬に触れた。それは優しくて、温かくて、エアリスの匂いがして。


「…クラウドを、支えてあげてね」

「!!」


エアリスはそう言い残し、シンバに背を向けた。


「エアリス…エアリス――!!!」


木の葉が邪魔で、去りゆくエアリスの姿は見えなかった。



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