53 be not one's own way



「――ようこそ!自然主義者の村、ボーンビレッジへ!」


ほどなくして。クラウド一行はゴンガガから北北西の方向にある大陸にたどり着いていた。

巨大な恐竜の骨を模った建物を森の中に見つけ、そこに入るや否や探検家の服装に身を包んだ人にそう言われる。自分たちの心情と正反対な態度に少々呆気に取られるも、何ともフレンドリーなその人にクラウドは自然とあの人たちを重ね合わせていた。


「…ここにピンクの服の女の子と紫の帽子を被った女の子がこなかったか?」


あの二人の特徴は嫌というほどあるが、恋話大好きで腹黒い女の子と破天荒で方便を使うハイテンションな女などと言っても断じて通じないので、目立つ服装で例えてみる。


「あぁ、その二人なら"眠りの森"に入っていったよ」

「…一緒に?」

「最初に紫帽の子が来てここで発掘を手伝っていてくれたんだが」


…何をしていたんだアイツは。クラウドは発掘に精を出すシンバを想像して頬が緩むのを感じ、しかしそれを必死で抑えていた。


「その後でピンクの子が来て、二人で一緒に森へ入って行ってしまったよ」


紫帽の子には発掘をこのまま手伝って欲しかったんだけどね。とフレンドリーな人が残念そうに付け足す。するとそばにいた他の発掘スタッフがクラウド達に向き直り話しかけて来た。


「追いかけるならルナ・ハープという楽器が必要だよ。ルナ・ハープは発掘で見つけられるんだ。発掘して欲しいなら請け負うよ」


あの二人は自分で発掘してたけどね。とフレンドリーな人がまた付け足した。その話を聞く限りなんだか深刻さが全く感じられない。むしろシンバは楽しんでいる。クラウドはそう思った。



そうしてクラウド一行はルナ・ハープを発掘してもらい、眠りの森へと足を踏み入れた。

その光景があの夢で見た場所と同じである事に気づいたクラウドは、ゴクリと一つ喉を鳴らした。あの二人がここにいる事は確実だが、――あの忌々しき銀髪も、ここにいる。
とにかく二人が無事であって欲しい。クラウドは切なる思いを胸に、その森の奥へと進んで行った。



*



一方。シンバはエアリスに乗っけられた木から降りようと、悪戦苦闘していた。

その目にはもう涙は浮かんでいない。今は泣いている場合ではない。早くなんとかしなければあのシナリオ通りになってしまうからだ。
それにここをクラウド達が通るかどうかもわからないから余計に不安だった。もしもスルーされてしまえば終わり。もしかしたらもう既に先に進んでしまっているかもしれないと、焦りだけが今のシンバの心を支配していた。


「〜〜〜…」


さて、どうやっておりるか。考えた末に編み出した案は、ロッククライミングのように木の皮の割れ目などを利用して降りる方法。だが、どうしてもあと一歩が踏み出せない。命綱もなければ勇気もない。草のクッションが下に見えるが落ちたら落ちたでかなり痛そうである。骨折したらどうしよう。エアリスの命が掛かっているのはわかってる。そんなことわかっているが、骨折したら動けなくなってしまう。それじゃ元も子もない。余計事態は悪化する。
まるでバンジージャンプに挑戦する人が飛ぶのをためらうかのように、シンバはその木の枝を行ったり来たりしていた。


「っくそぅ…」


ビビりシンバが頭を抱えて悩み始めた時。


「…?」


遠くから人の話し声が聞こえた。何を話しているかはわからないし誰かもわからなかったが、クラウド達だとシンバは確信した。というよりこんなとこに入ってくる人なんて彼ら以外にいるはずがない。何とかして自分に気づいてもらわなければいけない。


「クラウド…!」


シンバは必死に木々の間から、その姿を探した。



*



「――不思議な場所だね」

「…そうだな」


クラウド・ヴィンセント・レッドのパーティはバレット達より幾分先を進んでいた。
森にこれといった道はない。一歩間違えれば迷子になりそうだが、自然とクラウドの足は進んでいた。だが、一刻も早く二人を見つけたいという思いだけが先走っているような気もして。クラウドの鼓動はずっと、煩く鳴り響いていた。



そうして森を些か進んだところで、ふいにレッドがその足を止めた。


「…どうしたレッド?」


クンクンと匂いを嗅ぐ仕草を繰り返し、辺りをキョロキョロと見回している。まさに犬だと思ったが、口にはしない。


「…気のせいかな?」

「何がだ?」

「…シンバの声が聞こえた気がした」

「何だと…?!」


クラウドもヴィンセントもその場を振り返り、辺りをすぐさま確認した。耳を澄ましその声を聞こうと、全神経を耳に集中させる。


「…――」


しかし、聞きたかったその声は一向に聞こえてはこなくて。


「…シンバ!いるのか!?」


クラウドの焦ったような声が森一体に響いた。それは静かに木霊し森の静寂さに溶けていく。…返事をしたのは、そよぐ風に揺られる木々の葉だけだった。

クラウドが落胆の表情を浮かべる。それを見たレッドはバツが悪そうにしゅんとしてしまっていた。


「…ごめん。気のせいだったみたい」

「いや…いいんだ。先を急ごう――」



*



一方シンバは、彼らの姿をその目にしっかりと捉えていた。見つけた瞬間、彼らの名前を紡ぐ。


「クラウド!!…レッド!!ヴィンセント!!」


それにレッドが一瞬反応を見せたのをシンバは見逃さなかった。やったと思い顔を綻ばせたが、…しかし。


「…レッド?」


気づいたと思ったのにレッドは一向にシンバの方を向いてはくれなかった。シンバの中の喜びは、次第に焦りに変わっていく。


「…レッド!!ここや!!気づいてや!!」


きっとこの声は耳のいいレッドにしか届かない。シンバは腹の底から、今まで出したことのないような大声を張り上げていたつもりだった。
しかしその声は、レッドに届く事は無なった。


「シンバ――!!」


次にクラウドが自分の名を呼ぶ。シンバはそれに答えるように、必死にその人の名前を返す。


「クラウド!!クラウドッ!!クラウド――!!」


しかしその声も、クラウドには届かない。
焦る心は段々と不安に覆われていった。こんなにも近くにいるのに、気づいてもらえないもどかしさ。自分はここにいる。ここにいるのに――


「…っ、」


目の前が涙で歪む。まだ誰も知らない、この先に起こる悪夢。知ってるのは自分だけ。自分が行かなければ、止められるのは自分だけだ。…なのに、誰も自分に気づいてくれない。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。全て上手くいくはずだった。…エアリスが、こんな事さえしなければ。エアリスの馬鹿。馬鹿ばかバカ。このままでは、本当に――


「ーーー!!」


クラウド達も必死にシンバの姿を探してくれているのがわかって余計、辛くなった。自分の視線に誰の視線も繋がらない。誰も木の枝になんか注目しないだろう。シンバがそこにいるなんて思いもしないからだ。ましてや小さくなっているなんて、一体誰が想像出来るだろうか。


「クラウド――!!」


唯一の声も、もう届かなくて。
シンバが皆と合流するのは、絶望的だった。


「――待って…!!行かんとって…!!」


クラウド達がその足を進めてしまう。シンバの視界から、その姿が消えていく。


「クラウド…!!クラウド――!!」


シンバの声は、風に揺れる木の葉の音にかき消されてしまった。





***





クラウド達はサンゴの谷を越え忘らるる都に入ったところで、バレット一行と合流した。

ちょうど道は三方向に分かれていたので、クラウド達はパーティを三つに分けることにした。クラウドとティファ。バレット、ケット・シー、ユフィ。ヴィンセント、シド、レッドの組み合わせになり、それぞれ決めた道を進んでいく。


「……」


進むにつれて、クラウドは何かを感じ始めていた。きっとこの先にエアリスがいる。…そして、セフィロスも――。クラウドの中の焦りは徐々に膨らんでいき、比例するように一行に姿を見せないシンバへの不安も高まる。
シンバは一体どこにいるのだろう。どこかでまた彼女は泣いているのではないか。寂しがっていないだろうか。不安で、怖い思いをしていないだろうか。セフィロスに見つかっていないだろうか――

自然とクラウドの足は早足になっていた。その道の奥へと進むにつれて、胸騒ぎがし始めていた。


「すごい場所ね…」


サンゴの建物内を通り、そこから伸びる不思議な色をした階段を駆け上がっていくと、視界が急に明るくなり広い場所に出た。透明感溢れる不思議な色をした泉とその真ん中にそびえる祭壇が醸し出す神秘的な雰囲気にクラウド達は心を奪われたが、…よく目を凝らすと、


「っ、エアリス――」


…その祭壇には、静かに祈りを捧げるエアリスの姿があった。





***





「――…」


シンバはクラウド達が去って行った方向をただただ呆然と見つめていた。
終わりだ。もうなす術がない。もう飛び降りて死ぬしか道はないらしい。…と大袈裟な事を考え、目に涙を浮かべていた時、


「…?!」


ポケットの中のマテリアが、光を帯びはじめていることに気付いた。


「……」


ミニマム状態だとマテリアは使えない。そう思ったからそれに頼ろうなんて考えていなかった。しかし、今目の前でマテリアはしっかりとその輝きを放っているのである。

シンバはマテリアをまじまじと見つめた。てっきり自分はこのマテリアを魔力で使いこなしていると思い込んでいた。しかし自分は他のマテリアは一切使えない。それは魔力がないからだ。魔力があれば他のマテリアだって使えるはず。その矛盾に全く気づいていなかった。
…となるとこのマテリアの原動力は、


「っ、」


突然目の前に現れた、相棒。その姿に一瞬言葉を失う。バハムートはいつもの大きさで、…しかし今のシンバにとってそのバハムートの大きさは尋常じゃないくらい大きかった。普通なら本当にこのくらいの大きさなんだろうなと思いつつ、シンバはその涙を拭った。

そして、バハムートが一つ鳴く。


『行こう』


シンバには、そう聞こえた。


まだ始まっていない。
まだ、終わってない。


シンバは一つ頷くと、バハムートの背に乗った。



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