「エアリス…?」
祭壇の上で祈りを捧げるエアリスは、クラウド達に気づいていないようだった。エアリスはあそこで何をしているのだろう。怪訝に思ったクラウドはティファに他のメンバーに知らせる様に促し、自身はそのエアリスの元へと足を進める。
「…?」
クラウドが近づいてもエアリスは跪まづいたまま両手を握りしめ、まるで眠っているかのようにその瞳を閉じたまま動かない。
「エアリス――」
クラウドが名を口にした時。
「っ――!?」
酷い頭痛がまた、クラウドを襲った。
立っていられなくてその場に跪く。今までにないくらいの痛みに襲われる。頭が疼くのと同様にその心臓がドクドクと波打つことを感じ取ることしか出来ない。
そしてその鼓動に共鳴するように、目の前の景色が歪む。まるで自身の視界が二つあるように。
…まるでもう一人の自分が、姿を現すように――
「…――」
そして、クラウドの目から生気が消えた。
「――!」
…クラウドは、バスターソードに手をかけていた。
「――ええ。エアリスがいたの」
ティファはいささか電波の悪いその場所でそれを求めて入り口付近まで戻り、まずバレット達に連絡をとっていた。
「今クラウドが――」
状況説明をしながら今一度その人を振り返る。しかし振り返ったその先の光景は、自身の目を疑うほど信じられない光景だった。
「クラウド――!?」
クラウドがバスターソードを今にもエアリスに振りかざそうとしている。エアリスはそれに気づいていないのか微動だにしない。セフィロスがそこにいるからそうなっているのかとも思ったが、そこにあの銀髪の姿は見えない。クラウドには見えているのか、…いや、あの構えからして、完全にそれはエアリスの頭上にある。このままではクラウドがエアリスを殺してしまう。何故そのような事になっているのか、ティファには全くわからなかった。
しかし今は、その理由よりもその行動を止めるのが先である。ティファは電話を投げ出し、必死にその人の名呼び続けた。
*
「――おいティファ!?どうした!!」
バレットの耳に聞こえていた筈のティファの声がどんどん遠くなっていく。クラウドの名を何度も呼ぶ彼女のその声色から分かるのは、只事ではない何か。
「…何!?どうしたの!?」
その尋常でない声は、他のメンバーの耳にも届いていた。皆の心に焦りと動揺が走る。頭の中に浮かぶは、黒マテリアの一件――。
「…急ごう」
バレットはティファに断りもなくその電話を切り、すぐさま反対側にいるヴィンセント達に連絡をとった。
*
「――クラウド!!!」
ティファのその声はクラウドにしっかりと届いていた。それにハッと我に返ったクラウドは、エアリスにバスターソードを振り下ろす手前でそれを留まった。
「…っ、」
目の前の光景と自身の行動に気づいたクラウドは、驚きを隠せなかった。自分は今バスターソードを持ち、それを仲間であるエアリスに向けていた。エアリスの頭上からそれを、振り下ろそうとしていた。バスターソードを向けてする事なんて一つしかない。…自分は今確実にこの手でエアリスを殺そうとしていたのだ。
「っ…」
クラウドの手からバスターソードが落ちる。それは派手な音を立て、その場に転がった。
自分の信じられない行動にクラウドは目眩を覚えた。それを抑えるようにまたその場に跪き、自身の額を抑える。
「…俺に、何をさせる気だ――」
あの時と同じ。危なかった。また自分はとんでもない過ちを犯すところだったのだ。ティファの声がかからなければ、自分は今頃エアリスを、
「――っクラウド!!」
その時。ティファがもう一度自分の名を呼んだ。
ハッとしたクラウドは、頭上で自分を見下ろす悪夢に気づいた。
*
「――…!」
シンバの目前。そこには必死にクラウドの名を呼びながら祭壇に近づくティファと、祭壇の上で静かに祈りを捧げるエアリス、そのエアリスの前で自身に悶えるクラウドの姿があった。
…間に合った。まだエアリスは生きている。そう一安心したのも束の間。すぐにセフィロスが舞い降りてくると悟ったシンバはエアリスの頭上に目を向けた。
そこには既に、悪夢の姿。
…しかし、
「っ…!?」
セフィロスは真っ直ぐに自分を見据えていた。シンバはゾクリと背筋が凍るのを感じ、その場から動く事が出来なくなった。
「…遅かったじゃないか。シンバ」
「「!?」」
セフィロスのその言葉にティファとクラウドが一斉に自分の方を向くのがわかった。その姿が一瞬にして消えて、しかしそれはすぐにシンバの目の前に現れて。
「!?」
セフィロスがシンバにユックリと迫る。シンバはその歩幅に合わせるように、ユックリと後ずさった。
「…シンバ、お前は何故ここに来た?」
瞬間、その男の左手が動いた。気づいたシンバは咄嗟に自身の背中の武器に手を伸ばす。
「「シンバ!!」」
キィィィィン――!!
二人の声が聞こえたと同時、シンバはセフィロスの政宗をかろうじて弓で受け止めていた。
しかし力の差は歴然。その力によってシンバは背後の冷たい壁に押しやられ、身動き一つとれない状態に陥る。
クラウドはまだ上手く身体を動かす事が出来ないのだろう、そんなクラウドに代わるようにこちらに走って向かってくるティファの姿が目の端に映る。それを遮るようにセフィロスはより強い力でシンバを押しやり、その顔をより一層近づけてきた。
「っ、」
セフィロスの瞳に自分の顔が映るのが見える。その瞳の中に吸い込まれる様な感覚が襲った。
「…あの女を止める為ではなかったのか?」
「…!」
セフィロスの言う通り、自分はエアリスを止めにきた。…違う。止めるのではない。守りにきた。救いにきた。目の前の、忌まわしき悪夢の手から。
セフィロスの言葉がシンバの脳内でグルグルと回る。セフィロスの言葉の意味、自分がしようとしてきた事、望んできた事、セフィロスが望んだ事――
全てがシンバの頭の中で交錯して、
「…一ついい事を教えといてやろう」
セフィロスがニヤリとその口角をあげる。
「…お前が助けようが助けまいが、あの女の運命は変わらない」
「…!!」
…そして全てが、繋がった。
「っ!」
次の瞬間。シンバの視界からセフィロスが消え、
「「…?!」」
直後目の端に映ったその銀色は、エアリスの背後にあった。全員がそれに気づきエアリスを振り返る。そして皆の目に刀を振りかざすセフィロスが映ると同時、
エアリスがふと、その顔をあげた。
「――!」
シンバは声を出す事が出来なかった。
「〜〜〜!!」
ティファはまた祭壇の方へ―エアリスの方へと走っていく。
「っ――」
クラウドはその手をエアリスの方へ伸ばすことしかできなくて。
全ての動きが、まるでスローモーションのように。ドクリ、ドクリと心臓の音だけが響く世界で、ゆっくりと、シンバの視線とエアリスの視線が重なる。
「、っ」
…エアリスは、女神のように微笑んでいた。
――…っ
そして直後、セフィロスの刀がエアリスの身体を突き抜けた――
「「っ…!!!」」
…全員の時間が止まった。
ティファは声を上げる事が出来ず、その顔を両手で覆っていく。
クラウドの目の前には、赤い雫が飛び散って。
シンバは頭を抱え、その場に崩れ落ちていった。
――っ、
全細胞が熱くなるのを感じた。心臓が張り裂けそうなくらい鼓動を波立たせ、身体中から震えが沸き起こる。
…そして全ての衝動が、腹の底から言葉となって出て行った。
「ああああああぁあああああああぁあああああぁぁぁぁ――!!!!!!!!」
シンバの叫びが、忘らるる都に響き渡った。