57 often catch their's doing



「――うわぁ…雪やあ…!」


洞窟を抜けた先に広がっていたのは、真っ白な雪景色。暗い事ばかりだった皆の心にその白は明るさを取り戻せというように、太陽の光に反射してキラキラと光って見せていた。


「すごい!!雪雪!!!」


明るさ代表の二人、シンバとユフィは既に雪におおはしゃぎ。レッドも一つ笑ってその中に入っていく。


「あんまりはしゃぐとこけるわよ」


ティファがそう言ったと同時、シンバは案の定ずっこけていた。


「ぐふっ!」

「ぎゃははシンバ!ダサーイ!!」


皆がそれを見て笑みを浮かべる。ようやくいつもの活気が旅の中に取り戻されつつあって、シンバの気持も大分落ち着きを取り戻しつつあった。




*




そうして一行は雪原の中の街―アイシクルロッジに辿り着く。
深い雪の中でも懸命に生きる人々の生活は、穏やかで寒さにも負けない暖かさを滲み出していた。

バレット・シド・ヴィンセントの親父組はそそくさと宿屋に引っ込んでしまった。まったくもって若さがない。シンバはユフィとレッドと街の子供と一緒になって雪だるまを作り始めている。…コイツらが若すぎるのではないだろうか。つーか何しにきたんだ。とクラウドはあきれ顔でそれを見やると、まともなティファとケット・シーと共に住人に聞き込み調査を始めていった。



ある民家に足を踏み入れたクラウド達は、壁に掛けられている大氷河の絶壁の絵画を発見する。まるでエベ◯ストのようなその風景にこれから挑むのだと思えば、自然とクラウド達は息を飲んでいた。


「その絶壁は北の果てまでに行くまでに乗り越えなければならない…登山者にとってとても危険なところなんだ」

「…みるからに大変そうね」

「そうだな…」


しかしそんな事は言っていられない。セフィロスは雪原の向こうの北の果てを目指すと言っていたからだ。
その住人に北の果てには何があるのかと問うが、ただ岩壁が連なっているだけの場所で何もないはずだとその人は言う。


「北の果てに無事にたどり着く為には地図がなければ不可能に近いんだ。行くつもりならその地図を持って行きな」


そう言われ、クラウド達は大氷河の地図を手に入れた。



その民家を後にすると、シンバ達が作っていた雪だるまが完成していた。あまりのデカさにクラウドは驚いたが、その周りに集う人だかりの中にある人の姿がない事に気づく。


「… シンバは?」

「あっ!クラウド!!すごいでしょこの雪だるま!!」


ユフィはクラウドの質問にお構いなしに雪だるまの凄さをアピールしていた。そんなユフィを見兼ねてレッドが代返する。


「シンバなら体の調子が悪くなったから、あそこで休んでるよ」


そう言ってレッドが顎でクイッと指した方向には、小さな民家。


「どうしたのかしら?」

「咳が出てきたんだ。シンバ、寒いの弱いんだって」


レッドの話が終わる前にその足を民家の方へ進めているクラウド。ティファはその後ろ姿に笑みを一つ浮かべると、邪魔しちゃ悪いと思ったのか、シンバの代わりにその輪の中に入る事にした。




*




ギィィィ


古臭い音を立ててその扉が開く。中は二階建てになっており、その階段は地下へと続いていた。

最初に見えてきたものは今は使われていないであろう機械類達。それらは全て埃被っており、この民家には人が住んでいない事がわかる。


「クラウド…?」


小さく聞こえてきたその声はその階段の下から聞こえてきて、クラウドがそこを覗くとひょっこりとシンバが顔を出した。


「どしたんクラウド?」

「いや… シンバがここにいるって聞いたから…」

「そか。…誰が来たんか思てビックリした」

「具合が悪いのか?」


シンバは近くにあった大きなソファに腰を下ろす。


「忘れてた。ウチ寒いのってか、冷たい空気ダメなんよなー…咳出てしまうねん」


シンバは小さい頃から喘息を患っていた。大きくなってそこまで発作などを起こす事は無くなったが、冷たい空気や気圧の下がり具合など自然の摂理には敵わず、決まって体調を崩す事が多々あった。気をつけていれば滅多な事は無いのだが、冷たい空気を吸うと何故か咳が出始めてしまう。なのでシンバは冬にめっぽう弱かった。


「大丈夫か?」

「大丈夫!遊んでた子供のお母さんからマスクもろたから」


これこれー。と言うようにシンバはそれをクラウドに見せびらかす。とりあえず直に空気を吸わなければ大丈夫という自分の予防策を自慢げに語るシンバの隣に、クラウドは腰を下ろした。


「…無理はするなよ」

「うん。頑張る」

「しんどかったらすぐ言え」

「はーい」

「…シンバ」


クラウドの声色が少し変わったのが気になってシンバはその方へ目を向けた。クラウドの視線がいささか熱を帯びている。ドクンと心臓が高鳴るのを感じたシンバは、その視線から逃げるように埃かぶった機械の方へ足を進めた。


「そ、そういやビデオテープ見つけたんよな!これ見て見ようよ!」


そう言って無造作に埃を振り払うと、一本のビデオテープを取り機械にセットした。
壊れそうな音を立てながら、ビデオテープが映像を映し出す。


『――カメラはこれでよし!では、イファルナさんセトラの話をお願いします――』


白衣を着た男性と茶色い長い髪をしワンピースを着た綺麗な女性の映像。おそらくその女性がイファルナという名前なのだろう。イファルナは白衣の男性からそう言われると、せトラについて語り出した。


「…誰だ?」

「…さぁ――」


まるでカップルが家でまったりDVDを見るように、シンバとクラウドはそのソファに座ってその映像を見続ける。



それはおよそ2000年前の話――

この星に大きな傷―北の大空洞が出来てしまった。せトラの祖先は星の悲鳴を聞きつけ、何千ものせトラが力を合わせてその星の傷を癒そうとした。せトラ自体に星を治す特別な力は無いが、星が生命エネルギーを絶やさぬようその土地を育てようとしていた。
しかし予想以上に星の傷は深く、星はせトラにその土地からもう離れるように進めた。けれどもせトラ達はその土地から離れずに、賢明に星が傷口を治す手助けをし続けた。


『――せトラたちが、長年親しんだ土地から旅立ちの準備をしていた時…そのものは現れたのです――!』


その姿は、亡き母―亡き兄のものだった。過去の幻影を見せ親しげな顔でせトラに近づき、そして彼らを欺いた。そしてそれらはせトラにウイルスを与えたのである。ウイルスに侵されたせトラたちは心を失い、モンスターと化せられてしまったのだった。

…星を傷つけた者。せトラはそれらをこう呼んだ。

"空から来た厄災"と――


「…空から来た厄災――」

「ジェノバ。やな…」


『――その者は、別のセトラの部族に近づき…そしてまた、ウイルスを……』

『顔色があまり良くない…今日はこれで終わりにしましょう――』


そこで、ビデオテープは途切れてしまった。


「これが、ガスト博士ちゃうかなぁ…?」

「神羅屋敷の本に書いてあった。ガスト博士が"ジェノバ"を発見したと」

「うん。ジェノバの名付け親」

「…この女性は?セトラの生き残り?」

「…おそらく」


シンバは有無を言わせず次のビデオテープを再生する。


『――では、イファルナさん。ウェポンという名の者の存在について語って頂けますか――?』


その白衣の男性―ガスト博士が発見した仮死状態の生物"ジェノバ"こそが、空から来た厄災だった。

ジェノバが存在する限り自身の力で傷を完全に治すことができないと悟った星は、それを滅ぼすことを意識し始める。その為に星はウェポンを生み出した。ウェポンは星の意志で生み出された、兵器だった。
しかしその後、少数の生き残ったせトラたちがジェノバの封印に成功した。ウェポンは使われる事なく今だこの星に眠っているとされている。その力を、見い出すことなく――


『――ジェノバを封印したといっても、いつ蘇らないとも限りません。…星の傷は完全に治ってはないのです。星はまだ、ジェノバを警戒しています』

『ウェポンが眠っている場所はどこなのですか?』

『私には、わかりません…星の声は…もう、あまり聞こえないのです。時代は…変わりました。星は、きっと様子を見ているのだと思います――』


今後このウェポン達は地上に目覚める。そして、クラウド達がそれらと戦う事になる。巨大な兵器との戦いにシンバは身体がゾクリと震えるのを感じ、その手をキュッと握りしめた。
そんなシンバに気づいたのか、クラウドがその手を自身の手で覆う。驚いてクラウドを見やったが、彼は真っ直ぐ映像を見たままだった。


次のビデオテープはプライベートなものだった。イファルナはガスト博士の事を「博士」ではなく「あなた」と呼び、イファルナのその腕の中には生後間も無い赤ん坊が抱かれている。


「…結婚したのか」

「ちゃっかりやなぁ〜」


互いを尊敬し合う者同士がくっつく。映画でもよくある話だ。ガスト博士は言っちゃ悪いがイケメンではないが、それに比べイファルナはとびきりの美人さん。美人が知的な男性にやられる典型的なパターンだとシンバは思った。


『――何をとるの?まだ話していなことあったかしら?』

『いえ、そんなことはないです。カワイイ我が子をとるんですよ。この眠っている顔がまた、とてもカワイイ〜んです!』

『…ビデオよりも先にこの子の名前を決めなくちゃ!』

『ワタシはもう決めていますよ!女の子だったらエアリス!これしかありません――』


「…今、エアリスって――」

「うん。言うた。…イファルナが、エアリスのお母さんやったんやな…」


知っていたけれど、シンバはその映像を見てそれをヒシヒシと感じさせられた。エアリスの美人さは母親似だ。大人になったエアリスはこんな感じなんだろうなと思って、少し涙腺が緩み始める。…しかしガスト博士に似なくてよかったな、とも心底思ったが、


「…エアリス――」


その声は震えていた。自分はまだあの事を後悔し、エアリスの死を受け入れられてないんだと思わされた。

そんなシンバの肩をクラウドが抱き、その方へと引き寄せられる。何も言わずに彼は頭をポンポンとあやすように撫で始め、それがまた涙腺を弱らせる。
…そうしてシンバの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。


残り最後のテープもプライベートなものだったが、シンバ達はそれをも見ることにした。


『――あなた、またビデオ?この前とったばかりじゃないの!』

『…そう言わないで下さいよ。ワ、ワタシと…アナタのとってもカワイイ娘なんですよ!』

『そんなに可愛がってばかりじゃ強い子に育たないかもしれない…エアリスは、普通の子とは違うんだから。…これから、どんな人生が待っているか――』

『そんな事言っちゃダメです!ワタシが、アナタとエアリスをどんな事をしても守ります!!ア、アナタとエアリスはワタシの宝なんです!何があっても離しません!!』

『あなた……私、今とっても幸せよ。あなたに会わなければ私――』


まるで何かの映画のワンシーンのような情熱的な場面だった。二人の間の空気が熱を持ち始め、熱く抱擁を交わす。…まぁまぁお熱い事で。シンバの悲しみに浸っていた思考はその場面で一蹴され、いささか呆れ顔でそれを拝見していた時。


「…シンバ」


クラウドが名前を呼んだ。と同時に、シンバの目の前に迫る彼のイケてる顔面。


「っちょ!?」


ビックリしてシンバは後ず去ろうとしたが、クラウドの手が後頭部に回されており身動きがとれない状態に陥ってしまっていた。…が、それでも逃れようと必死に後ず去った結果。


「っ…!!」


シンバは、クラウドに押し倒される形となってしまった。


――待った待った待った!!!


なぜこの様な状況になっているのかがサッパリわからない。あたふたしてシンバがもう一度その映像に目を向けると、今だ熱い抱擁を交わす二人がこれでもかというくらいいちゃついているシーンが目に飛び込んできた。…まさかこれに発情したんじゃないだろうな。思春期の中学生か!とつっこんでやりたいところだが、実際それどころではない。


「っ…クラ――」

「シンバ…俺、」


クラウド自身も何故こんな事になっているのかがわからなかった。イファルナとガスト博士の仲良さげな感じに好感を抱き、自分もシンバとこんな感じで夫婦になって子供が出来て幸せに暮らしていけたらいいななどと妄想を膨らませていたら画面の二人がいちゃつきだして、なんだか自分もそうせざるをえない雰囲気だと思ってしまった。

忘らるる都でシンバと口付けを交わしてから、何だか急に彼女にドキドキしだしている自分がいる。今までとは違う感覚。…シンバに触れたい。シンバの、全てに――
一度感じてしまったそれは、もう忘れる事が出来ない感覚となってしまっているようで、


「…好きだ」

「!!」


頬が一瞬で火照る。ドクドクと心臓が破裂しそうなくらい煩く鼓動する。忘らるる都での一コマが頭の中を過ぎって刹那身体全身が熱を帯びる。クラウドから直接聞くその言葉が、シンバの頭の中に木霊した。


「…シンバ、」

「待っ!待ったクラウド、ちょ――」


シンバは反射的にその肩を思い切り押し返した。クラウドはそれに少し機嫌を損ねたようで、眉を潜める顔をする。


「…嫌か?」

「!」


…いや、嫌とかそういう問題ではない。場所が場所だ。それに今はセフィロスを追って旅をしている最中ではないか。そんな中で男女がそんな行為をしていいんですか?いいんです!…って違う。なんか違う。いや違う。ダメだろ。

嬉しいか嬉しくないかで言ったらそら嬉しいに決まっている。クラウドが自分に好意を持っていてくれる事。忘らるる都でのあの一コマ。思い出しただけで赤面し顔がにやけてしまう。
けれども自分たちは今平和で穏やかな暮らしの真最中ではない。星を救う旅に出ているのだ。仲間達も一緒だ。こんなカップルめいた事をしてていいわけがない。いや、したくない。他の仲間がいる中でいちゃつくのは専ら恥ずかしい。それにもしこんなとこ誰かに見られたら――


ガチャ――


「シンバー大丈夫ー?」

「「!!!」」


…これもよくあるワンシーンだと思う。クラウドとシンバが同時に振り返ったその先には、目を点にして目の前の状況が読み込めていないユフィの姿。

…そして、次の瞬間。


「シンバがクラウドに襲われたあぁあぁぁーーー!!」


ユフィの叫びが、アイシクルロッジに響き渡った。



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