58 walk on a snowy road



「っちょ、ちょ待てユフィーー!!!」


パニックになって飛び出していったユフィ同様、シンバはパニックになりながらクラウドを押しのけ、その家を飛び出して行った。
コントかと思うくらいナイスなタイミングで入って来たユフィに最悪な場面を見られてしまった。ましてやユフィだ、16歳の女子高生だ。ティファだったらまだマシだったかもしれない。他の親父達ならもっとマシだったかもしれない。もう、最悪だ。変な噂になる事間違いなしだ。一刻も早くあの女の口を封じなければ。


「――ユフィ待ってってば…!?」


大声を張り上げてユフィを追っていたシンバの目に飛び込んできたのは、そのユフィと同じようなテンションを持った、この雪によく映える色の頭をしたスーツ姿の女。


「シンバさん!!」

「げっ!イリーナ…」


その前にはちゃっかりユフィがいた。…まさかイリーナにまで告げ口していないだろうな。イリーナに話が回ったらタークスに広がるに決まってる。あぁ、めんどくさい。どうか話が回ってませんように。とシンバは祈りながらそこへ足を進めたのだが。


「シンバさん!あのツンツンチョコボ頭と出来てたんですか!?」


…終わりだ。というより何でユフィは仮にも敵であるイリーナにそれを言ったのだろうか。馬鹿なのか。…そういや馬鹿だった。シンバはガックリ肩を落とした。


「…あのねイリーナ、ちゃうねんこのユ――」

「シンバ!大丈夫!?…おのれーークラウド!!成敗してくれるわ!!」

「っおーーーい!!!」


たった今追いかけてきたユフィが踵を返したように元の場所に戻って行く。あぁ、もう、なんてこったパンナコッタ。
…まぁクラウドなら上手くいい訳してくれるだろうと何だか面倒臭くなって、追うのをやめた。ドッと重い息を吐いてその後姿を見つめる。


「シンバさん…ツォンさんがやられたんです」


すると、さっきのテンションはどこへやら。向き直ったイリーナはそう言って俯いてしまった。きっとクラウド達がやったと思って、しかし自分がいることから上手く怒りを表せないでいるんだろうと思う。


「酷い状態やったけど…大丈夫なん?」

「え?…あ、はい!なんとか一命は取り留めました」

「ウチらがやったと思ってるんやろ?」

「…」


…図星。イリーナが唇を噛み締める。


「…アホ。いくらなんでもなぁ、そんな事して神羅にケンカ売るわけないやろ?…タダでさえ敵対しとんのに」


呆れたように言うシンバにイリーナは目を丸くしている。勢いで行動する彼女の事だ。きっとその言葉で目を覚ますだろう。


「でも――」

「セフィロスに決まっとるやろ!まったく…ウチらがツォンさんに手ぇだすわけがないやんか!!」

「…そう、ですよね…!!」


ようやくイリーナの顔が明るくなった。それを見て一つ安堵のため息を漏らす。
自分がタークスに残っていればイリーナと相棒になったのだろうかと想像して、シンバはおかしくなってその顔が緩みそうになるのを必死に抑えていた。こんな相棒苦労するだろうなと思いつつ、シンバは去りゆくイリーナの背に笑みをこぼしてそれを見送った。







***







しばし休息をとった一行は、大氷河目指しアイシクルロッジを後にした。

長い長い下り坂が続く、道なき道をひたすら歩く。その場所は見渡す限りの白い景色ばかりで周りには本当になにもない、辺り一面雪景色。大自然とはこういうものを言うのかと思いつつ、シンバは懸命にその足を進めていた。


「ウチらってさぁ、」

「あ?」

「登山好きやんなあ」

「は?」

「いやだって…今まで結構な山という山を越えてきたことない?」

「そうだな。俺たちはこの世界のありとあらゆる山を登ってきたな。…ロマンじゃねえか!」


いや、何がロマンだ。バレットになんか話を振るんじゃなかったと思いつつ、シンバは今度はゲームの場面を思い出していた。

ゲームではクラウドがスノーボードで軽々とこの坂道を下って行くのである。それを思えばゲームって何でもアリだなと今更ながら感心した。今それを自分たちがすれば確実に巨大な雪玉となって転げ落ちて行くに決まっている。平地に辿り着いた頃にはアイシクルロッジで作った雪だるまよりもはるかに巨大な雪だるまが完成しているだろう。


「……」


けれども、ひたすら歩くのも結構な労働であった。雪に足を取られかなりの体力消費になる。…前言撤回。雪だるまになってでもこの坂を転げ落ちた方が楽なのかもしれない。


「シンバ!」


そんな妄想を繰り広げていたシンバにかかった声は、ユフィのものだった。いつもよりテンションの高いその声に感じるはただ一つ嫌な予感。そういやあの後クラウドは上手くいい訳してくれたのだろうかと、シンバは不満気にユフィを見やった。


「シンバ〜もう!水くさいよ!!」

「は?」

「そうならそうと言ってくれればいいのに!!」

「…何の話!?」


このこの〜!と肘でつついてくるユフィにお前は親父かとつっこんでやりたかったが、それよりもユフィのそのテンションとセリフが気になって仕方がない。


「まぁ〜あれだよね!シンバもスミにおけないってゆうか!」

「何が!?」

「まぁ〜シンバなら仕方ないかなぁ…とも思ってたけどね!」

「だから何が!?」

「へへっ!まぁ、何か悩みがあったらユフィちゃんに任せなさ〜い!」

「いや、おいユフィ…っ、ゴホッ――!!」


シンバの制しは自身の咳によってユフィには届かず、彼女は楽しそうに走って前方を歩くティファ達の元へと向かってしまった。…一番肝心なところを喋らずに。


「大丈夫か?」

「?!」


振り返ったその先にいたのはクラウドで、それに気づいてシンバはガストの家での出来事を思い出しいささか頬を赤らめそしてすぐにその視線をずらす。マスクをしている為顔が赤い事はばれていないだろうが、その分視線が泳ぎ回っている事に本人は気づいていなかった。


「アイツは元気だな」

「…ユフィに何を言ったん?」

「……何も」


…絶対嘘だ。確実にいらない事を言ったぞこのチョコボ。シンバは呆れた顔をクラウドに向けたが、内心ドキドキして気がきではなかった。一体何を言ったのだろう。変な事言ってないだろうな。しかしとにかく今は、ユフィが他メンバーに告げ口しないことをただただ祈ろう。シンバはティファの横でレッドとはしゃぐユフィの後ろ姿にそう念じた。




*




果てしない坂道を下り、ようやく平地へと辿り着いた一行。どれぐらい歩いたのかはわからなかったが、空は少し薄暗くなっている。太陽が沈みかけているというよりは、天気があからさまに悪くなりそうな感じがプンプンしている。


「…しんどっ」

「だ〜!やってらんないねー!!」


ただの坂道ならまだしも、案の定雪の中を進むとなると余計な体力も削られてしまっていた。それにシンバは相当まいっていた。マスクをしている為余計呼吸もし辛く、ましてや体力はこのメンバーの中でダントツない。自慢ではないが、本当に体力だけがない。自分はアイシクルロッジで待機していた方が俄然よかったんじゃないかとシンバは思った。


「…大丈夫か?」


二度目のクラウドの確認に、シンバは苦笑いを返す。


「どこか休憩出来るところでもあればいいんだが…」

「ううん。大丈夫」

「乗るか?」

「え?」


そう言ってクラウドはシンバに背中を向けた。乗る…イコール、クラウドの背中に。


「えっ、悪いわ!」

「…いいじゃないシンバ?」


薦めたのはティファの声。振り返った先のティファは満面の笑みだった。…まさかユフィによる告げ口のせいじゃないだろうな。シンバはその笑みに恐怖を感じながら、ティファは第二のエアリスになりそうだなと確信した。


「…ゴメン、クラウド」

「気にするな」


こうやってクラウドにおぶられるのは何度目だろう。けれど今が一番ドキドキしていると思う。背負われるたびにクラウドへの気持ちが変化してきた。最早クラウドの背はシンバにとって一つの思い出の場所と化してしまっている。


「重ない?」

「別に」

「…そか」

「シンバ、」

「ん?」

「…もっと、甘えたっていいんだぞ」

「!」


シンバはまじまじと目の前の金髪に目を向けた。そして頬が熱くなるのをまた感じる。…忙しい。忙しいぞ自分の体温。


「いや、寧ろ甘えて欲しい…かな」


俺だけに。クラウドはそう付け加えた。


「…ばか」


言葉とは裏腹にシンバはクラウドの首に腕を回し、ギュウとクラウドに抱きつく形をとりその肩に顔を埋めた。周りのみんなにその赤くなった顔を見られないように。早速クラウドに、甘えるように。
旅の最中で、いちゃいちゃなんぞしたくないと思っていたのに。くそう、悔しい。悔しいです。

直後クラウドはシンバを背負い直した。同時にその顔に一つ笑みをこぼす。


「おーおーお熱いこった」


そんな2人を見てバレットはそう言い、シドは「.若いっていいねえ」と呟き、ユフィは一人興奮していた。…結局ユフィの告げ口はメンバー全員に広まっているらしい。

いささか穏やかな時が、メンバー内に広がっていた。


…この後に起こる、運命を知る由もなく――



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