「――コラーークラウド!!アタシのシンバに何をした!!」
勢いよくその場に入ってきたユフィにクラウドはいささか驚いた顔を一瞬したが、すぐにいつものクールな顔に戻す。
つい先ほどシンバが慌ててユフィを追って行ってしまい、結局一人取り残されたクラウドはソファの上で自身の行動を少しばかり反省し、しかし呑気にガストのビデオテープの見逃した残りを拝見していたところだった。
その残りの場面には期待していたようなラブシーンは無く、予想だにしなかった宝条が登場し、ガストが撃たれエアリス達が連れ去られるという最悪なシーンで幕を閉じていたのだが。
「シンバに代わって成敗してくれる!!」
…何を言い出すんだこの女は。クラウドは呆れた顔をユフィに向けた。
「…あのなユフィ。シンバは被害者じゃない」
「…嘘を吐くな!」
「本当だ。…俺たちは、」
「…な、なにさ!?」
「……」
何なのだろう。自分で言い出しといて、何て言ったらいいのかわからなった。
付き合ってるわけではない。だってどちらとも「付き合って下さい」から「はい」という一連のやりとりはしていない。…やはりその言葉が無いとマズイだろうか。自分たちの関係は今一体なんだと言えばいいのか。だからってシンバと自分の気持ちが一致してないわけではない。それは鈍感なクラウドでもわかっていた。
「いや、俺たちはつまり…そういう関係なんだ」
いやどういう関係なんだ。それでユフィに通じるはずが無い。我ながら馬鹿な回答だと思ったが、次のユフィの言葉はクラウドの想像をはるかに超えた。
「なっ、ま、まさか…そういう事だったの?!」
「え?」
「…そうなんだね?!」
それで通じてしまった。意外とユフィってわかるやつなのかもしれない。
「あ、あぁ…そういう事だ」
「なんだよー!もっと早く言ってくれればいいのに!」
「いや…別に隠すつもりは――」
「もう!水くさいなぁ!」
「ま、まぁ…シンバが嫌がるからな」
「そうなの!?シンバってば意外とシャイなんだねー!」
「…そうだな」
なんだか話が盛り上がってしまった。このままだと、ユフィはメンバー全員に言いふらすだろう。そうなるとそれはそれで自分がシンバに怒られるかもしれない。…それだけは避けたい。
「ユフィ、」
「ん?なになに!?」
今や興味津々といった感じで何やら楽しそうなユフィ。
「これは、秘密だからな」
「何で!?」
「…俺たちは今星を救う旅をしてるんだ。今はそっちの方が大事だろ?…変な隔たりを持たれても困るからな」
とか適当な言い訳を作ってみる。
「別にいいんじゃないのー?みんな気にしないって!」
「…シンバが嫌がるから。いいか、秘密だ。…な?」
「ん〜〜わかった!」
ユフィの一つ返事を聞いて、クラウドは安心したように笑みをこぼした。
「じゃ、アタシ行くわ!」
ユフィは満足したようにクラウドに背を向けて歩き出し、噛み締めるように一言呟いた。
「まさかクラウドとシンバが夫婦だったなんて――」
…おいおい。今何て言った。
「…ふ、夫婦!?」
突拍子もないユフィの発言にクラウドは思わず声を張り上げてしまった。まさかそこで夫婦なんて言葉が出てくるなんて思いもよらない。恋人を通り越して夫婦を持ってくるとはどんな思考の持ち主なんだユフィは。
一方ユフィは[あんな事をする間柄=夫婦]という変な方程式を持っていた。ユフィが思う恋人同士の付き合いって一体どんなものなのだろうか。ただ手を繋ぐだけの、おそらくオママゴト程度にしか思っていないのだろう。間接チューという言葉だけで赤面するような輩なのだから。
「おい待てユ――!!」
バタン――
慌ててユフィを止めるもその声はユフィには届かず、閉められた扉に反射してクラウドの元に返ってきてしまった。
「……」
シンと静まり返った部屋に一人また取り残されたクラウドは、落ち着くように一つため息をついてソファに腰掛け直した。
夫婦――。その言葉でガストとイファルナを思い出し、そして先ほどシンバとそうなったらという妄想をもう一度回想してクラウドは、まぁいいかと寧ろそのユフィの勘違いを嬉しく思ってしまっていて。
そしてゴロンとソファに横になる。天窓から見える青空は、今までに見た事がないくらいの快晴で、クラウドはその空を見つめていた。
…この旅が終わったらそうなる事を本気で考えてもいいかもしれない。などと思いながら。