62 he await for our to coming



「ね!さっきのって…?!」


ハイウインドに驚いたレッドがシンバ達の元へと駆け寄ってきた。


「こないなとこに来る奴らなんか神羅しかおらへんよ。…なぁケット?」

「…!」


ケット・シーはビクッと反応を示し、図星だと言うようにシンバ達から視線を逸らした。


「…みな、ここが約束の地やと思てますわ」


スパイであるケット・シーは、もちろんルーファウス達がここに来る事を知っていた。その事は誰にも言っていない。クラウド達の仲間である以前に神羅の者であるケット・シーは今はどちらともつけない中立の立場にいる為、双方の事は何も他言しない事に決めていたからだ。

しかしシンバにそう言われてしまったが故に、ケット・シーは白状せざるを得なくなった。

けれども、そこに感じた違和感。…皆がそれに驚いていたのに、何故かシンバはそんな表情さえしなかった。確信したようなその言い方は、まるで元から知っていたような感じだった。

…もしかしたらシンバは、自分が知らないだけで神羅のまわし者なのかもしれない。元はタークスだった子だ、ありえない話ではない。そうでなければシンバがこんなに落ち着いているわけがないと思った。前々から色々おかしいと思っていた事が多々あったが、それなら幾らか合点がいく。


「……」


けれどもケット・シーは何も言わず、そそくさと歩き出したシンバの背中を見つめた。…今ここで真相は聞くべきではない。そう思った。

シンバの雰囲気が変わったのを、ケット・シーも気づき始めていた。




*




少し前を進んでいたクラウド達の目の前に突如として現れ始めたもの。それは、ニブルへイムや古代種の神殿にいたモノと同じ—―黒マントの男たちだった。

セフィロスは近くにいる――。そう思って胸騒ぎを感じたクラウドは、立ち止まって今来た道を振り返った。…しかし心の中に映った彼女の姿は、自身の目には映らない。


「……」


彼女は大丈夫だろうか。苦しがってないだろうか。
本当は側に置いておきたかった。自分が常に側にいて、守ってやりたかった。けれども、病み上がりの彼女を先陣切って行かせるわけにはいかなかった。どんな危険が待ち構えているかわからないからだ。

それは仕方がないが、ヴィンセントと一緒というのがあまり―いやとても気に食わなかった。バレットがシンバがヴィンセントによく懐いているとポツリと呟いていたのをクラウドは聞き逃さなかった。懐いているってアイツは動物か。と最初はツッコミをかますも、その事実がじわりじわりと後から気になりだして今や嫉妬の域にまで達している。今頃楽しくTalkingをenjoyしているところだろう。…って俺はルー◯柴か。いつかのスカーレットと同じか。と自身にツッコミを入れその嫉妬心から逃れようと、クラウドはある意味悪戦苦闘していた。


「――クラウド!!!」

「!!」


そんな一人で忙しいクラウドの思考をティファの声が呼び戻す。ただならぬ声にクラウドがその方へ振り戻ると、そこには黒マントの男を長い長い刀で薙ぎ払うセフィロスの姿が――


「セフィロス!!!」


クラウドの思考回路は一瞬にして目の前の悪夢でいっぱいになった。そして急いでセフィロスとの距離をつめる。


「ここまでだ!!」


セフィロスは黒マントの男達を目の前から消し去っていく。まるで邪魔者を、削げ落とすように。


「…そう、ここまでだ」


落ちていく同胞たちに目もくれることなく、セフィロスはユックリとクラウド達を振り返った。


「この身体の役目はな」


セフィロスがその顔に不気味な笑みを浮かべた為にクラウド達は危険を察知して身を構えるも、セフィロスは一瞬にしてその姿を消してしまった。


「消えた…!?」

「…近くにいるかもしれない――」


『我らの役目は黒マテリアを主人の元へ運ぶこと――』


「「!?」」


聞こえてきたセフィロスの声にクラウド達はその姿を懸命に探すも、何処にもそれは見当たらない。…それよりも気になるは、セフィロスの言霊たち。


「…我ら――?」


『ジェノバ細胞を持つ者たち――』


「主人は…」


『もちろん……セフィロス――』


「っ!!!」


辺りが一瞬暗くなった。そして、クラウド達の目の前にモンスターが現れた――




*




「――あれは…!」

「えらいこっちゃ!!」


シンバ達の目に飛び込んできたのは、モンスターと対峙するクラウド達の姿だった。
加勢しようと急いで駆け寄るが、シンバ達が着いた頃には戦闘は終わってしまっていた。モンスターが消えた後の残骸がまだ生きようと必死に蠢いている。まるで芋虫のようなそれに、シンバは鳥肌が立つのを感じた。


「ジェノバ細胞…」


クラウドはそれに近づいた。その中に、黒く光るモノを感じて。


「…なるほどな、そういう事か。ジェノバはリユニオンする、か――」

「セフィロスじゃない…?!今まで私たちが追ってきたのはセフィロスじゃなかったの!?」

「説明は後だ。今はセフィロスを倒す事だけを考えるんだ」

「でもセフィロスは――」

「セフィロスは、いる。…本当のセフィロスはこの奥にいるんだ」


クラウドはその黒く光るモノを拾い上げる。


「どうしようもなく邪悪でどうしようもなく残忍…。しかし、とほうもなく強い意志をこの星の傷の奥底から放っている」


…それは、あの忌まわしき"黒マテリア"――


「黒マテリアは俺たちの手に戻った。後はセフィロスを倒せば全てを終わらせる事が出来る」

「…黒マテリアは、この先持って行かない方がいいわね」

「…ヴィンセント。頼めるか?」

「…あぁ」


ヴィンセントは嫌な顔せずすんなりと黒マテリアを受け取ってくれた。バレットでもよかったが単細胞なバレットに渡すと何かありそうで怖いし、シドは黒マテリアを軽率に扱いそうだし、女性陣は嫌がるだろうし、レッドの口に咥えさせるのも気が引けるし、ましてやケット・シーは一応スパイなわけだから、消去法でいくとヴィンセントしかいなかった。先ほどの嫉妬心からヴィンセントも避けたかったが、それとこれとは別の話だ。こんなところにそんな感情を持ち合わせていてはいけない。


「…頼んだぞ」


ヴィンセントは、静かに頷いた。


「――セフィロスを、追いかけましょう」


クラウド、ティファ、ユフィ、レッドの4人が先に進む事となり、シンバは去りゆく4人の背中に目を向け続ける。


「なんだ?まだ調子悪ぃのか?」

「ん?」


振り返った先のバレットの表情は、少し怪訝そうだった。今度こそ自分が先陣に立候補すると思っていたのだろう。確かにいつもの自分なら喜んでクラウドの後について行ったかもしれない。
何かと先頭に立って旅を続けてきたな、と振り返る。全てのことを一番に感じたくて、知っていたからこそ、恐怖とかもなくて。楽しかったな、なんて。


「…もう、ええねん」

「?」

「いろいろ見たいお年頃は、もう終わり!」


シンバは意味もなくバレットの硬い二の腕を叩くと、少し離れた場所に腰をおろした。


「…何だよそれ?」


楽しかった。…でも、もう関わりたくなかった。この星のシナリオに。


クラウドの、全てに。


「…、」


ヴィンセントはそんなシンバの背中に視線を投げ続ける。彼女がそうする理由。それはクラウドから離れたいからだろうと思った。あの時の言葉とその行動で、あからさまにクラウドを避けているのが目に見てとれたからだ。
しかし、何故かはわからない。やはりセフィロスが関係しているのだろうか。シンバとセフィロスは、一体どういう関係があるのか。


「……」


ヴィンセントはふと、手の中の黒マテリアへ視線を落とした。煌びやかな漆黒の色を放つそれが世界を破滅させる程の力を持っている…信じられなかった。これがメテオを引き起こす事も。…シンバが、これと同じで厄災であるという事も。


「…ひと騒動ありそうだな」


嘆くように言うシドの言葉に、ヴィンセントも胸騒ぎを感じていた。

…そのひと騒動を起こすのが、シンバのような気がして。



back