「――行くぞ、新入り! オレに続け!」
壱番魔晄炉内に大きな地声が響いた。それは神羅兵のものでも、魔晄炉に携わる警備兵のものでもなく、…右手に銃を携えた、巨体の男の声。
「…でもよ、反神羅グループアバランチにソルジャーが参加するなんてスゲェよな」
「その話って本当だったの?ソルジャーって言ったら私たちの敵でしょ?…どうしてそのソルジャーが私たちアバランチに協力するわけ?」
「早とちりするなよジェシー、元ソルジャーなんだってさ。今はもう神羅をやめちまって俺たちの仲間ってわけさ」
その後ろでヒソヒソと話す三人の男女。彼らはその巨体の男―バレットの仲間で、名をビッグス・ジェシー・ウェッジという。
反神羅組織、――アバランチ。その名の通り神羅に恨みを持つ者や神羅を憎む者が結成している組織だ。彼らはその中でも、突飛して行動する過激派だった。アバランチが有名になったのも、彼らの所行が成し得たもの。
…そして今日も、彼らはそれを遂行する。
「……おい。おまえ魔晄炉は初めてじゃないんだろ?」
彼らがその任務を遂行しようとしたのは、一人の青年がその仲間に加わったのがきっかけだった。
「まあな。ソルジャー…神羅カンパニーの人間だったからな」
一定の声色でバレットに答える金髪の青年―クラウド。彼は昔、神羅の兵の中でも位の高いソルジャー1STだったという。ここにはいないが、アバランチの仲間であるティファの幼馴染だという彼。ティファの後押しがなければこんな強力な味方つけられなかっただろう。彼をアバランチに推薦したのは、紛れもなくティファだった。
そうして強い味方をつけた彼らは、その勢いで魔晄炉爆破を目論んだのである。今までにない、一大ミッションだった。
「ケッ、ソルジャーね」
この星は魔晄エネルギーに満ちている。住民は、その魔晄エルネギーを使って日々生活している。それがこの星の基本で、原理。彼らの生活は魔晄とは切り離せないものだった。
けれども魔晄は、この星を流れる源でもある。人間でいえば血液のようなものだ。物事には必ず終わりがあるのと同じで、その資源だって無限にあるとは限らない。
…しかし、
「魔晄炉のせいで、この星の命は毎日削られてるんだ。そしていつの日か…ゼロになるだろうな」
神羅カンパニーはそれを毎日毎日この場所―魔晄炉から吸い出している。彼らは星の事なんてこれっぽっちも考えずに、それを利用し自らの利益としているのだ。
バレットはそれが気に食わなかった。そもそもバレットは最初から神羅カンパニーを受け入れてはいない。彼がこうして活動を繰り返すのには、それなりの理由があったから。
「ここもブッ壊しちまえばただのガラクタだぜ。クラウドさんよ、この爆弾をセットしてくれ」
「…あんたがやったほうがいいんじゃないのか?」
「オレ?オレは見張らせてもらう。おまえさんがおかしなマネをしないようにな」
そしてバレットは、クラウドの事もまだ信用していなかった。ティファの幼馴染だろうが、仮にも神羅の人間だった者だからだ。それに彼が醸し出すそのクールな態度も気に食わない。…それは唯の僻みかもしれないが。
「……好きにしてくれ」
カタブツなバレットの疑いの眼差しを流し、クラウドは爆弾を魔晄炉にセットした。
「……」
クラウドにとってそれは、正直言ってどうでもいいミッションだった。星の命がどうとか、神羅がどうとか、興味もなかった。
ただ、唯一の幼馴染であるティファとの再会は大きかった。特に何をするでもなかった自分を引っ張ってくれた彼女の優しさを踏みにじる事が出来なくて、クラウドは金を理由にしぶしぶそれに参加したのである。
「よし、さっさと脱出だ」
そうして二人は、その場を後にした。
*
ドォォォォォォォン――!!
クラウド達が魔晄炉を脱出して10分後。その音は、彼らのその成功を知らせるように大きく辺りに響き散った。
「星の命、ちょっとは伸びたかな」
「そうっすね」
「……、」
「さあ引き上げるぞ。ランデブー地点は八番街ステーション!各自単独行動、列車に乗りこむんだ!」
そうして一時解散となり、
「…俺も行くか」
散りゆく彼らの背中を見送って、クラウドも一つ息を吐いて歩みを進めた。
*
「――…ねえ、何があったの?」
爆破騒ぎで慌ただしくなった街中を、平然と歩いていた時。一人の女がクラウドにそう問うてきた。暗い路地には不釣り合いなほど明るい雰囲気を醸し出す彼女はしかしどこか懐かしいような空気を持っていて、クラウドは思わず足を止める。
「…花なんて、めずらしいな」
そんな彼女の手元には、白い花。日の当たらないミッドガルで植物を見ることなんて滅多になくて、あぁだから不思議な感じがしたのかもしれないとクラウドは思った。
「あっ、これね。気に入ってくれた?…1ギルなんだけど、どう?」
「…もらおうか」
「わあ、ありがとう!はい!」
花になんてこれっぽっちも興味無いくせに、どうしてかそれを手に取っていた。ミッドガルの風景にはないその凛とした美しさが、今し方の己の悪事を忘れさせてくれるような気がしたのかもしれない。
*
「――…?」
そうして花売りの女と別れ、警備に勤しむ神羅兵を避けながら路地裏を進んでいた時。
「!?」
クラウドの目に飛び込んできたのは、グッタリと壁にもたれかかっている女。それは物陰で白く小さく、今にも消えてしまいそうなくらいに弱々しく呼吸をしていて。咄嗟にクラウドは駆け寄っていた。
「っ!おい…!」
倒れゆく女をクラウドはかろうじて受け止めた。呼びかけても反応を見せない彼女のその白いワンピースは、赤に染まっている。…血だ。それもかなりの量。傷口から見て撃たれたのだろうと察する。見た目からしていかにもか弱そうな女。何故こんな目に遭っているのかが分からない。
「大丈夫か…!?どうした?何があった――!?」
カチャ――
「!」
直後、銃のロックを解除する音が聞こえた。その方へ振り返ると、銃口をこちらに向けている神羅兵が立っていた。
「…その女を渡してもらおう」
クラウドは神羅兵と女とを交互に見やった。慌ててかけよったものの、状況は何一つとして掴めていない。…悪いのは平然な顔をして立っている神羅兵か、はたまた血だらけで倒れている、この女か。
すると女が動かない腕を必死に持ち上げて、クラウドの腕の袖をきゅっと掴んできた。それに気づき女に目を向けると、
「…助けて」
そうとだけ言って、女はその口も目も、閉ざした。
「…聞こえないのか?その女は神羅の女だ。お前には関係ないだろう。…渡してもらおうか」
神羅兵が一歩踏み出そうとしたその時、クラウドは女を抱え立ち上がっていた。何がそうさせたのかはわからない。ただ、この女を見捨てる気にはなれなかった。
「断る。…と言ったら?」
「っ貴様…!神羅に逆らう気か!!」
神羅兵とその後ろから現れた白衣の男達―それには十分見覚えがある。研究員だ。
それらは一目散にこちらに飛びかかってきたが、クラウドはなるべく女に衝撃を与えないように最小限の動きで相手の攻撃をかわす。
プオオオオ――
そして、遠くで汽笛の音が鳴った。クラウドは呼ばれるように汽笛のなる方へ走り出した。
*
しばらく走るとビル陰から出て広い場所に出たが、前からも走ってくる神羅兵がクラウドの目には映っていた。
このままではぶつかってしまう。塀の下をチラリと覗くも、そこには線路が果てしなく先へと伸びているだけで、何もない。
「ここまでだな!」
追いついた神羅兵はさも嬉しそうにそう言って、銃を構える。しかしクラウドは平然とした顔のまま、塀の上に飛び乗った。
プオオオオ――
汽笛は、先ほどよりも近くで鳴り響いて、
「捕らえろ!」
神羅兵達が足を踏み出した瞬間。
「「!?」」
クラウドが塀の上から飛び降りたと同時に足元に響く轟音。その轟音を放っているのは、――列車だ。
「…っくそ!!」
クラウドは、トンネルから出てきた列車に上手く着地していたのである。
「追えー!!逃がすな――!!」
神羅兵の大声はすぐさま列車の音に搔き消され、そしてその声も姿もやがて見えなくなった。
とりあえずは追ってこれまいと、ようやく落ち着いたところで、腕の中でグッタリしている女を無言で見つめる。突発的な行動をとったかはわからないけれど、咄嗟にこの女を守らねばならないと思った。よく見れば、女というよりは少女に近いのかもしれない。綺麗な顔をしている。この時は、ただ素直にそう思っていた。
「…――」
それが、二人の始まりだなんて。
この時誰も、知る由はなかった。