66.5



「――何だと…?」


ルーファウスの驚いた顔を、初めて見た気がした。


「せやから、言うてるやん。…そんな事せえへんくてもウチは元々戻る気やったんやって」


その声は少し怒気を含んでいた。何度も言わせるなと言うように。


――ちょうどいいと思った

都合が、よかった。


ティファやバレットと引き換えにタークスへ戻る条件。ルーファウスはきっと自分を上手く手懐けたと思っているに違いなかったが、…今回は自分の方が一枚上手だったようだ。

仲間を―旅を辞めると決めた時、何処へ消えようなんて考えはなかった。しかし今後の展開を辿っていった時、ふとそれを思い出したのだ。北の大空洞でルーファウス一行と出会う事。ティファとバレットが神羅へ連れていかれる事。そして、自分はまだ形式的にタークスの所属となっている事。

仲間を辞めるのは簡ではないという事はわかっていた。コスタでの一件や皆の行動を見ていれば、どれほど仲間を大切にし思っているかがヒシヒシと伝わってくる。タークスに戻ったって言ったって、誰もそう簡単に信じてはくれない。だからきっと彼らは自分を連れ戻そうとするに違いない。
…しかし、そんな余計な事はさせてはいけない。彼らが相手にすべきなのは、神羅と自分ではない。

…だから。


「…彼らを処刑していいんだな?」


本当の、裏切り者になる。


「…ええよ」


彼らが自分に囚われないように。


「…もう、ウチには関係ない」


いっそ、嫌われてしまえばいい。


「――…何を考えている?」


何か企みがあると思ったのだろう。…そりゃそうか。今まで散々しておいてひょっこり戻ってくるなんてとんだ都合のいい話である。
けれども理由は言えない。言ったらまたややこしい事になってしまう。ルーファウスになんて特に、だ。


「何もあらへん。……ちょっと、」

「?」

「…ちょっと、籠の外に出てみたかっただけや」


それを聞いて、ルーファウスは納得したように鼻で一つ笑った。


「…では、行こうか――」


ルーファウスの綺麗な笑みが向けられる。シンバはそれから目を逸らした。


「……、」


…まだ、少しだけ。

心が闇に染まるのは、時間がかかりそうだった。



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