78 she had been beside them



「――ルーファウス達の作戦は失敗だ…」


ロケットに乗って遥か彼方宇宙へと旅立っていたクラウド達は、脱出ポッドに乗って星へと帰還していた。もちろん対メテオで備え付けられていたヒュージマテリアも回収済で、なんとか一件落着となっている。


「情けねえ話だがチビ〜っと期待しちまったぜ」

「散々邪魔しといて何やけど…他に方法があるわけないし…」

「悩んじゃうよね」


ヒュージマテリアの件は別として、神羅だって星の為を思って考えた唯一の作戦だったのだろうと今なら思える。けれども、もしそのままヒュージマテリアがメテオにぶつかっていたとしても何も変わらなかったかもしれない。ロケットがぶつかっても傷一つつかないそれに、どう足掻いたって無駄なのだと諭されているような気がしていた。


「…悩んじゃダメ!考えるの!!」

「おう!姉ちゃんの言う通りだぜ!」


悩み始めたらキリが無い。それはまるで底の無い沼のように、どんどんどんどん悪い方へ落ちて行ってしまう。ずいぶんと前向きなシドの発言に、誰しもが驚きの目を向けた。


「…で?何か考えたのか?」

「あ〜だこ〜だ考えたぜ。宇宙からこの星を見ながらな」

「…俺も、考えた」


宇宙。星。海。上から見るそれは言葉では言い表せないほど、とても広くて、大きくて、こんなちっぽけな自分が動き回っても何も変わらないんじゃないかと、クラウドは少し自信を失いつつあった。


「そうなのかもしれねえな。…でもよ――」


自分達の住むこの星は想像だにできないほど巨大で壮大で、それでいて偉大な存在なのだとシドも今まで思っていた。
しかし、夢にまで見た宇宙はアッサリとそれを覆してくれた。宇宙から見た星はちっぽけな存在で、真っ暗な暗闇にポツンと浮かぶその青はどこか心細そうに見えた。おまけに腹の中には、セフィロスという病気を抱えてしまっている。…この星はいわば子供のようなものなのだ。大きな宇宙の中で病気になって震えているそれを、誰かが守ってやらなければならないのだと。


「…それが出来るのは、俺様たちじゃねのか?」


ニタリと笑うシドの顔は、どや顔というに相応しく。


「シド…なんだかステキ」

「おう!シドさんよぉ!オレは感動しちまったぜ!!」


セフィロスを倒し、星を救う。それが出来るのは自分達だけだ。忘れかけていた希望を、闘志を。星という子供を包む宇宙が―そしてシドの言葉がそれを思い出させてくれて、皆はそれに意気揚々となっていて、


「で?どうするんだ?どうやってメテオから星を守るんだ?」


そこまであのシドが言うのだから、何かいい案が浮かんでいるに違いないと誰もが思っていた。

…しかし。


「……考えちゅうでぃ」


打って変わって声のトーンが下がった彼。…きっと吉◯新喜劇だったら皆がズッコけていたに違いない。


「ーーーー」


…そうしてまた、皆が振り出しに戻された時。


「…なんか……聞こえた?」


…それは、ここにいる誰かの声でも何かの物音でもなく、空から降ってきた。


「星の悲鳴…?」


それは、いつか聞いたモノと同じ声。しかしそれがメテオのものなのかこの星のものなのかは、誰にもわからない。


「…なぁ、どうして俺たちはこれが悲鳴だって知ってるんだ?」


それを耳にしたって、その正体を知らなければ何の音なのか判断がつかないだろう。何故自分たちはそれが星の悲鳴だと知っているのか。それを聞いた事があるのは、


「忘れたの?ブーゲンハーゲンさんが教えてくれたからよ」

「…ブーゲンハーゲン――」

「じっちゃんに会いに行こうよ!きっと何か為になる事を教えてくれると思う!」


ああ、今まで何故忘れていたのだろう。この星のことを教えてくれた、偉大な人物を。
星に詳しい彼なら、何かアドバイスをくれるかもしれない。立ち往生していても仕方ない。なにかしら行動を起こさなければ。自分たちには、ユックリしている暇などないのだから。


「…行こう、コスモキャニオンへ――」


一行は、コスモキャニオンへ航路をとった。




*




「――ホーホホウ。わしの知識が必要になったらいつでも歓迎じゃ」

「ああ、だから来たんだ」


久しぶりに会ったブーゲンハーゲンは相変わらず宙に浮いていた。それにどうしたらよいか道に迷ったのであろうと、何も言っていないのに当ててくる。…エスパーはまだ健在だったようだと、クラウドはシンバが思った事と同じような事を考えていた。


「そういう時は、各々自分を静かに見つめてみるのじゃ」


何か忘れているものが、何か心の中に引っかかっているものがあるはず。ブーゲンハーゲンにそう言われ、クラウド達は過去の記憶を辿っていった。


「…………」


クラウドにとって心残りなのは、シンバの事だけだった。彼女が抱えて来た闇を取り除いてやる事が出来なかった為に、彼女はタークスへ戻る道を辿ってしまった。自分がもっとしっかりしていれば、もっと、彼女の事をわかってやれていれば、もっともっと、彼女の側にいてやれば。

あの時、セフィロスの事があってから全てが狂いだしている気がした。思い起こせば、シンバの様子が変わったのもそこからだった。ウータイでも、ゴールドソーサでも、古代種の神殿でも。そして、エアリスを一人で追っていってしまった時だって、


――…エアリス


決して忘れていたわけではない。だからって、ふと思い出したわけでもなかった。


「…エアリス」

「え?」

「……エアリスも、戦っていたんだよな」


彼女の思いを乗せてここまでやってきた。いつだって、自分たちの中に彼女はいたのに。あまりに近すぎて、見えていなかった。エアリスが考えていた事。エアリスがしてきた事。エアリスが、残した言葉。


「そう、だね…」


いろんな事が一度に起こりすぎて、頭の中が散らかった部屋のようになってしまっていたみたいに。シンバの事、メテオの事が目に見える範囲にあった為、その裏にひっそりと隠れていたエアリスの思いに気づかなかっただけなのだ。


「セフィロスのメテオを止める事が出来るのは自分だけだと言っていた」

「…エアリスがやろうとした事、オイラ達には無理なのかな?」

「俺たちは古代種じゃねえからな」

「だいたい何だってあの姉ちゃんはあんな場所へ行ったんだ――?」

「――っそれだ!!」

「「!?」」


いきなり大声を上げたクラウドに皆が仰天した。


「俺たちはそんな事も知らないんだ」


エアリスがあの場所でしていた事も。逃げもせずにあの場所にとどまっていた事も。何も、何も自分たちは知らない。その出来事があまりに衝撃すぎて、誰もがそれを知る術を忘れてしまっていたのだ。


「…あの場所に、もう一度だね?」

「あぁ――」


全てが終わって、始まった場所へ。

そこに行けば、何かが変わる気がした。







***







「――シンバさんっ!」


突如かかった知った声にシンバが振り返れば、そこにはイリーナがいた。少しドギマギしながらそれに対応するも、見渡す限りでは彼女一人のようだった。


「イリーナ…どこ行ってたん?」

「あぁちょっと、野暮用で。ツォンさんとは別行動っす」

「…そか、」

「あれ?シンバさんはレノ先輩と一緒じゃないんすか?」

「ん?…あぁ、……ウチも野暮用で、」

「そうなんすね。……ん?」


イリーナが視線を下げた先は、自身の右手。


「チョコボ!…ってシンバさんそんなの持ってました?」

「え?あぁ…ついさっきそこで見つけたんよ」


可愛いから拾ってしもた。…その言葉を、イリーナは疑う事なく信じてくれた。


「シンバさんそういうの好きなんすね!」


自分もそんな感じじゃないっすか。という彼女。…何が言いたんだ。とツッコミを入れようと思った矢先。


「このツンツン加減は、クラウドって人に似てますけどね」


その言葉に、喉が詰まった。


「…あ、……すみません」


言って速攻イリーナは罰が悪くなったように謝ってきた。何故謝る必要があるのかはきっとお互いわかっていない。けれどもイリーナのどこかで、彼らの事を口にするのはタブーだと一線を引いていたのだろう。


「……なぁ、イリーナ」


自分がこれを手放せないのは、それに彼の面影を見るからなのか。その思い出を手放せないのは、きっと、


「もし、…もしやで?」


この世の全てが自分の手に握られていて、この世の終わりを迎えた時。愛する主任とこの星の命、彼女はどちらを取るのだろうか。ふと、そんな事を思った。…いや、聞きたかった。同じような状況になった時、他の人ならどうするのか。


「う〜〜ん。そんな状況になった事ないからわからないっすけど」

「…まぁ、無いわな」


自分だって無いと思っていたくらいだ。


「けど…そっすね。私は――」


愛する人を取ります。イリーナは、迷いもせずにそう言った。


「……それで全人類が終わっても?」

「…そっすね」


もしそれで星が救われて何十億の人が喜びに包まれていても、その中で一自分一人悲痛な思いをしているのは何か間違っている。星を救った自分が、星を救ったヒーローが何も喜べないなんて、そんなのおかしいとイリーナは言った。


「……まあ、確かに」

「結局自分が一番大事ですよ。皆そうだと思います」


自分を犠牲にしてまで、自分を壊してまで、果たしてそうする事が正しいのかなんて誰にもわからない。…そしてきっと、皆知らない。自分がそうしてまで星を救った事をわかってる人なんて、ほんの一握りしかいないだろう。そう思ったら、馬鹿馬鹿しいではないか。何の為に星を救ったのか。その意義を皆にわかってもらおうとするのは、それはそれで自分をヒーローに仕立て上げるように思えてしまうけれど。
…それにきっと、皆知らない。自分がその究極の二択に迫られていたという事実を。だったら、自分の好きにしたらいいのではないか。それで星がどうなっても、誰も自分を責めやしない。自分で自分を責めるだけだ。その罪悪感に、どれだけ自分が耐えられるかどうかである。


「私にはそんなかっこいい生き様、選べませんね」


淡々と簡単に言ってくれるイリーナ。…けれどもその意見は、シンバの中にグッと響いていた。


「ヒーローって柄でもないですし」

「……」

「人生一度きり。それに自分の人生なんすから、好きにさせて欲しいっすよ」


シンバさんもそう思いませんか。…最後のイリーナの言葉は、もうシンバには聞こえていなかった。


「…シンバさん?」

「……イリーナ、ごめん」


ウチ、行くわ。シンバは何かを決意したように立ち上がった。


「……どこ、行くんすか」


聞かなくてもわかっていたのかもしれない。意志のこもったその言葉と、意志の通った表情をしたシンバを見れば。…これから彼女が向かう先が、自分達とは違う別の場所だという事が。


「…イリーナ、サンキュ」


自分の好きなように生きる。このままタークスのままでいるのも悪くない、やっとそう思い始めていた。…けれども、やはり、自分のいるべき場所は籠の中ではなかった。そこが安全だとわかっていても、やはり閉じ込められているばかりでは性に合わないようだ。

迷子になってもいい。正しい道に戻るのに時間がかかってもいい。それでも、そうなっても、最後まで足掻いて見せる。運命は自分で切り開けばいい。道だって、新しく作り出せばいい。…彼らと共に。

大切な、仲間と共に。


「星を救いに行ってくるわ」


何かが吹っ切れたようにニッコリ笑ったシンバを、イリーナは止める事が出来なかった。


「っ…――」


…そんな彼女の笑顔を見たのは、久しぶりな気がした。



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