古代種の都にやってきたクラウド一行と、歩く辞書―ブーゲンハーゲン。そしてその場所にはクラウド・ティファ・レッド・ヴィンセントの4人が向かっていた。
「……、」
あの時となんら変わりないその場所に入った途端、皆の頭にフラッシュバックする忌まわしきあの出来事。どんなに時が流れても忘れる事なんてできないそれは、皆の心の中に強く根付いて離れそうにない。…否、離れてはいけない、忘れてはいけない。かけがえのないモノを犠牲にしてまで自分達がしようとしている事を、今しっかりとこの目に―胸に焼き付ける時が来ているのだと、誰しもが心に刻む。
「…輝いてる。淡い、グリーンだ」
あの祭壇から少し離れた場所には奇妙な部屋が存在していた。部屋と言っても、何もない。その中央に大きな水晶のようなものが備え付けられているのみ。一度そこへ踏み入れた事のあったヴィンセントは、しかしそれはただのオブジェだと思い込んでいた。
「…エアリスの祈りは、届いていたんだ」
究極の白魔法、ホーリー――。最高の黒魔法―メテオと対をなす魔法で、そしてそれはメテオから星を救い出す最後の望みだった。ホーリーを求める心が星に届けばそれは現れ、淡いグリーンに光るのだとブーゲンハーゲンは教えてくれた。
その白マテリアを、エアリスはずっと、誰にも言わずに持っていた。エアリスはそれの意味―そして自身の使命をここで知ったのだ。星を救う大きな希望を残す為、彼女は祈り続けた。…それが、自身の命と引き換えになろうとも。
「…ごめんよ、エアリス」
もっと早く気づいてあげていたら、なんて。後悔したってエアリスが戻ってこない事くらいわかっている。だから、後悔はしてはいけない。ホーリーは今、淡いグリーンを輝かせているから。力強く、それはまるでエアリスの意志を受け継いだかのように。だから彼女が残していってくれたそれを。彼女が星に届けた声を。今度は、自分が。
「エアリス…あとは、俺がなんとかする」
「俺たち、だよ!」
「エアリスが残してくれたもの…無駄にしちゃいけない」
それは、その輝きは自分たちに大きな力を与えてくれるようだった。エアリスの思いをようやく自分たちが享受し、そして果たせるのだと誰もが思っていた。
…しかし。
「…でも、ホーリーは何故動き出さない?」
エアリスの祈りはしっかり届いている筈なのに。淡いグリーンを放って、その力を開放する準備は整っているハズなのに。それはまだそこで、何かを恐れるようにとどまっていて、
「…邪魔しとるもんがいるんじゃよ」
その邪魔者が誰かなんて、言われなくてもわかっていた。…忌まわしき悪夢、セフィロス――。自分達の敵はメテオではない。自分達が倒すべき相手を、クラウド達は今一度心に刻む事となった。
*
プルルルル――
そうしてハイウインドに戻ろうとしていた一行の足を止めたのは、鳴り響くクラウドのPHSだった。
『いきなりすんません…ちょっとビックリしたもんですから』
電話の相手は、ケット・シーだった。
「どうした?」
『…ジュノンのキャノンがのうなったの覚えてますか?』
ジュノンに行った時に感じた違和感。…それはジュノンを象徴するような巨大なキャノンが無くなっていたからだった。
そしてそれを運び出したのはルーファウス。それでセフィロスを倒そうと、また新たな作戦を練っていたらしい。
その大砲はヒュージマテリアの力で動いていた。しかしもうヒュージマテリアは彼らの手元にはなく、ここにある。だから、ルーファウスは無能になった大砲に大役を与える為にそれを運び出した。…魔晄の力を、最大限に集中させる場所に。
「それは――」
…そう、それは。
巨大な魔晄都市、ミッドガル――
「――…というわけでリーブ君。魔晄炉の出力調整は君の仕事だ」
ミッドガルビル70階、社長室。そこにいたのはキャハハとガハハなコンビと、ケット・シーを操作している本人―リーブ。
「キャハハハハ!調整なんていいわよ、リーブ!出力全開でガーーーーーーッと行くのよ!」
「ガハハハハ!さすが社長!セフィロスを倒せばメテオも消えるとは目の付け所が違いますな!」
「…魔晄キャノンの砲弾は本当に北の果てまで届くのだろうな?」
「キャハハハハ!もっちろん!…でも社長、魔晄キャノンだなんて呼ばないで。この新兵器の名は――」
スカーレットがビシッと指し示す方向に、気高く備えつけられた大砲。
「シスター・レイよっ!!」
いつかのハイデッカーと同じで、それだけでスカーレットはご満悦のご様子でした。
「――っ、なんだ…!?」
ハイウインドに戻ったクラウド達がそれに乗り込んだ途端、襲った酷い地鳴り。それはあの時―北の大空洞での地響きと同じような規模だった。
「ウェポンが海から出て来てミッドガルにきよるんです!」
「…新兵器でなんとかなるんだろ?」
「準備が間に合うかどうか――」
「…よし!行くぞ!俺たちの手でウェポンを倒してやる!」
「…あんなバケモンに勝てるのか?」
一度それと対峙した事があるシドは、その強さの恐ろしさを知っているが為にそう言った。
「そんな事はわからない!だからって放っておけない…!!」
いくら神羅の本拠地であるとはいえミッドガルの住人には何の罪もない。それを止めることも、この星を救う事に繋がっている。これ以上犠牲を増やしたくないという思いは全員の心にしっかりと根付いていた。
「…そうだな。よし、行こう――!!」
*
「――ガハハハハ!社長、シスター・レイの準備が整いました」
「キャハハハハ!いつでもいいわよ!」
「……やれ」
クラウド達がそこへ辿り着く前に、魔晄キャノン―シスター・レイの準備は整っていた。
ミッドガルへと向かってくるウェポン―ダイヤウェポンの方向へ標準が合わされ、最大限に供給された魔晄エネルギーが―集結されたそのエネルギーが一気に放たれる。
――!
それに気づいたのかダイアウェポンも攻撃体制を取り、両翼から砲弾を発射していた。
お互いに放ったそれはすれ違い、シスター・レイの放ったビームは見事にダイアウェポンの腹部を貫通したのだが、
「――…すげえ」
「ウェポンを突き抜けた…」
それをハイウインドの中から見ていたクラウド達は、しかしそのままの威力を保ったまま一直線にどこかを目指すその魔晄の光に気付いていた。
「っ…そうか、狙いは!」
…そう。最初から、それはその場所を狙っていたのだ。
「北の果てのクレーターだ!!」
ドゥオオオオオーーーン――!!!
それは北の大空洞を覆っていたバリアに凄まじい勢いでぶつかり、爆音と共に激しい光が辺りを包んだ。
しかし、それはミッドガルとて同じだった。ダイアウェポンが放った一つの砲弾が神羅ビル上部を突き抜けていたのである。…双方に甚大なダメージを与えたのは、言うまでもなかった。
「セフィロスは、どうなったんだ…?」
ビル上部は崩壊したものの、なんとか無事に存在するミッドガル。それよりもバリアの解けた北の大空洞が気になって、クラウド達は航路を変えその場所へと向かおうとした。
…しかし。
「――おい、ケット・シー!今度はなんだ!?」
突然ソワソワしだしたケット・シー。神羅の作戦は見事成功したはずなのに、その様子はまるでまだ問題が残っているかのように焦りを見せていて、
「魔晄炉の出力が勝手にアップしてるんや…!」
「?どういうことだ?」
魔晄の出力調整はケット・シー―リーブだけが任されていた。遠隔操作でそれを指示していたのだが、今やそれが出来ない。壊れたとは到底思えない、そうなれば必ず警告音が鳴るからだ。
…考えられる線は、ただ一つ。何者かが魔晄キャノンのある場所に行き、本体操作に切り替えているのだと。
「あと3時間は冷やさへんとアカンのに!……誰やっ!?誰が本体を――」
『――クックックック…』
…聞こえて来た、その独特な笑い声。
「宝条…!!」
本体操作に切り替えまた魔晄エネルギーを放とうとしていたのは、神羅から姿を消したハズの非道な科学者だった。
「おいケット・シー!なんとかしろ!!」
「っ…止められへんのや、」
「どうして無理なんだよ!?」
「テメエここまで来て俺様達を裏切ろうってんじゃねえだろうな!」
「っアカンのや!魔晄炉を止めたら大変な事になるんや――!!」
魔晄炉は汲み出し式バイブで成り立っている。そのバブルを閉じるも開くも誰にでも容易に出来る事ではあるが、神羅の魔晄炉はエネルギーそのものが地中から抜け出す道を開けている。一度開けたらそれが枯れるまで塞ぐ事は不可能なのだ。だから、どんどん湧き出る自然の摂理を無理に塞いでしまえば、
「っ爆発か!!」
「今までの爆発とはケタ違いの大きさや!!」
「くそっ…!!」
「宝条を止めるぞ!!」
何故宝条がそこまでして魔晄エネルギーを使おうとしているのかはわからない。ただの科学者としての心理か、ただの気まぐれか。…けれども、これ以上奴の好き勝手させるわけにはいかない。
「ミッドガルへ、行こう――!!」
ハイウインドは、スピードを加速させた。
***
「――っあっちか!!」
バハムートに乗って彼らのハイウインドを探していたシンバが最初に向かった先は、忘らるる都だった。
しかしそれに向かう途中で上空で繰り広げられる光の抗戦に気づき、既に彼らがその場を後にしている事がわかりすぐさまミッドガルへと進路を変えていた。
「…――」
あんなに戻る事を留まって来たのに、今更。彼らに酷い仕打ちをしたのに、今更。その決意をしてしまった自分は、やはり厄災という名に相応しい。
…でも、じっとしていられなかった。じっとしていれば星は救われるのに、出来なかった。
本当はずっと、その選択を心の中に持ち合わせていた。いけないと言い聞かせて心の隅に追いやっていただけで本当は、ずっと。
あれから―その決意をした時から、心がずっとモヤモヤしているのに気づいていた。雲がかった天気がずっと続いたような、スッキリしない空のように。その雲を消さない様にと自分は必死に繕ってきた。神羅を利用して。タークスを利用して。…レノを、利用して。
「…っ」
謝って済む問題なんて思ってない。利用したなんて聞こえが悪いが、あの時は自分だって必死だった。今となっては苦しい言い訳かもしれない。…でも、もう、それでもいい。
自分の人生。自分の歩む道。それは全て、自分で決めていんだって。星が、導いてくれた。イリーナが、その背を押してくれた。
彼らと一緒にこの星を救いたい。
エアリスの死を、無駄にしない。
クラウドの側で、彼を支えたい。
この気持ちにもう、偽りはない。
「っおった…!」
ミッドガル上空に浮かぶそれをシンバはしっかりと捉えていた。そういえば、自分はまだそれにちゃんとした形で乗っていない。…今度は仲間として、そこからの景色を皆と眺めたいな、なんて。
あの頃のように、まだ、自分は、
あの頃に、戻る事が、
「っ――!?」
…突然だった。静かに揺れていた水面が、まるで生きているかのように水飛沫を上げた。そしてそれはある形を象って、重力に従いまた海へと戻って行く。いささか水を浴びたシンバは、濡れてボヤけた視界に映るそれをしっかり把握する事が出来なかった。
「っ何…――」
それは、巨大な何か。自分の下のバハムートが身構える格好をとった事が感覚的に伝わって来て、そしてそれは敵なのだと悟ってそして、目を見開けば。
「っ!?」
…ウェポンが、自分を見下ろしていた。
「っ嘘、」
それは、シスター・レイによって倒れた筈のダイヤウェポン。腹部をやられただけでそれはまだ闘志を失ってなどいなくて、そしてその怒りが今、自分に向けられているのは誰がどう見ても一目瞭然。…いや、待て。ちょっとタンマ。こんなところでこんな奴と一対一…いや一対二なんて、聞いてない。
「〜〜〜!!」
ウェポンがユックリとその口を開く。まるで全てがスローモーションのように経過していく中で、シンバがそれに気づいた時には遅かった。
「っバハム――」
ウェポンの口の中が眩しさに満たされていって、そして。
――…っ、
…何もかも、見えなくなった。