77 be going to space



「――あ〜っ…怒られるやろなぁ…」


コスモキャニオンを後にしたシンバは、しぶしぶジュノンへ戻ってきていた。


「……、」


レノや主任から鬼電がかかって来る事はなかったが、もしツォンに出くわせば何故レノといないのかがバレてしまう。ここは自然とレノと合流したいと、その一心でまるでコソ泥のように建物内を進んでいく。
…自分ジュノンでのコソ泥率高くないか。と昔を思い出しては自嘲気味に笑みをこぼす。そんな余裕が出来たのは、肩の荷が軽くなったからなのか。…いや、決して軽くなったわけではないが、星が自分を真っ向否定しなかった事はシンバにとってはかなり重要な部分を占めていた。


「…誰も、おらんな」


そうしてオフィスに戻れば、シンと静まり返った部屋だけが自分を迎えてくれた。
シナリオならルードは今頃ロケット村に向かっている筈。レノはまだ魔晄炉内にいるのだろうか。けれどもツォンやイリーナがどこにいるのかはサッパリ検討もつかない。

久しぶりに戻ってきたジュノンのオフィスを、ただただ突っ立って眺める。ここに来るのはあの時、タークスとして戻ってきた時以来。これといって思い入れもなかったが、ふと。


「……」


目に留まったロッカーに、シンバは吸い寄せられるように近づいていった。


「うわっ、…」


シンバと名前プレートが貼ってあるそれを躊躇無く開ければ、目に飛び込んできたのは昔クラウド達と旅していた時に着ていた服。捨てるのが勿体無くて、とりあえずロッカーにしまいこんだ物だ。


「…懐かしいな」


特に何をしようと思うわけでもなく、自然とそれを手にとった時。


コトンッ――


「…?」


服の間から何かが床に落ちた音がして、足元に目を向ける。…それはあの時と変わらず眩しい黄色を、可愛らしい顔を自分に向けてきた。


「っ…ちょこぼ、」


そう、それは、あの時――


『――…クラウドとってえや!』

『は?』


旅の途中、夜のゴールドソーサ。元気のない自分を思って、クラウドが声をかけてきてくれたのがきっかけだった。…少しの時間の旅の憩い。今となってはそれをデートと呼んでもいいのかもしれない。


『ありがとうクラウド!めっちゃ嬉しい〜〜!!』


チョコボのキーホルダーが可愛くて、欲しくて欲しくて無駄遣いをした。自分では取れなかった為、最後の1コインをクラウドに託した。勝負に強いクラウドはアッサリとそれを取ってくれて、すごく、すごく嬉しかったのを、覚えている。


「…っ――」


目の前がぼやけて、手のひらの上のチョコボがただの黄色の塊と化す。まるで走馬灯のようにあの時の出来事が頭の中を駆け巡って、


バタン――


その思考回路を止めるように、シンバは開けっ放しだったロッカーの扉を閉めた。

…けれども、その手から。その黄色を手放す事はできなかった。







***







「――チクショウ!あいつら!!オレ様のロケットに何しやがる気だ!?」


ヒュージマテリアがエアポートから運ばれるという情報を通信から得たクラウド達は、ジュノンを出てロケット村に来ていた。

先に到着していた他メンバーの中でえらく怒りを表していたのはシド。自身の故郷であるロケット村で、しかも自身のロケットに神羅兵達が群がっているとなれば彼が黙っているハズもなく。


「行くぜクラウド!神羅のクソッタレ野郎どもをオレ様のロケットから叩き出してやる!!」


いつになくヤル気を見せてくれたシドは、率先してロケットに突っ込んで行くのであった。



乗り込んだロケットには既にシドの部下であったメカニック達がいて、何やら忙しそうにしていた。話を聞けば、このロケットにマテリア爆弾とやらを積んでメテオにぶつけようとしているらしい。もちろんそのマテリア爆弾とやらがヒュージマテリアである事は明々白々。…神羅め、なんて事を考えてくれる。まったく神羅は突拍子もない事を考えるのが上手いというか、なんというか。


「ちょっと待ってくれ」

「うるせえぞ!おめえは黙ってろい!…ロケットの調子はどうなんだ?」


ロケットを飛ばせると聞いた瞬間シドの顔色が変わったのは言うまでもなく、それからあぁだこうだとメカニック達に指示を出し始めてしまった。最初にあった時の印象同様、この男はロケットの事となると周りが見えなくなってしまうのが玉に傷である。


「おいシド!どういうつもりだ!?」


そんなシドにクラウドの雷が落ちるのは必然と言うべきか。シドだってヒュージマテリアがどういうものかわかっているはずだった。古代種の知識と知恵が封じ込まれたそれの力を借りて、自分たちはこの星を救わなければならない。だからそれを失うわけにはいかない事も、よもや忘れてしまったわけではないだろうに。


「わかってるぜ。マテリアが大切なものだってのも、お前さんの考えも!……でもな、聞けよ――」


彼にとって、それは長年の夢だった。地べたを這いずり回ってきた人間が空を飛べるようになり、ついには宇宙まで行けるようになった。人間が生み出した科学の力は今や無くてはならないものとなり、そして今まさにその力で星を救おうとしている。科学のおかげで今を生きるシドにとって、これほど素晴らしい事はない。


「しかし、シド――」


彼の思いの全てを否定する気はない。宇宙へ行けるチャンスを一度逃している彼にとってこれはまたとないチャンスだって事もわかってるが、けれども彼の夢の為に古代種の知識を―自分達の力の糧を失うわけにはいかない。それだけは、何としてでも止めなくてはならない。

…しかし。


「黙れ!しかしもかかしもねえ!!」


とっととオレ様の仕事場から出ていけ。そう言い放つ彼にはもう、前も後ろも見えていないようで。こうなった頑固親父を止めるのは不可能だと、クラウドが不服そうに大きなため息を一つ吐き出した、

…その時だった。


ドゥォン――!!


「「っ!?」」


突然機体が揺れた。それはシドにとっても不意を付かれたものであったらしく、その場にいた全員に動揺が走る。


「うひょ!」


そして刹那聞こえてきたのは、もはや懐かしい部類の人物の声だった。


「っパルマー!!てめえ何しやがった!?」

「オートパイロット装置修理完了だってさ。だから打ち上げだよ〜ん!」

「何だと!?…クソったれ!ビクともしねえ!!完全にロックされちまってるぜ!!」

「っおいシド!!」


…とんだ災難。とでも言うべきか。まさかロケットに乗ったまま自分達の死を持って星を救う手段となるなんて。そんな結末、誰も望んでいなかったぞ。


「うひょ〜〜〜〜!うひょひょ!!」


…くそ。あの太っちょめ。今度会ったらロケットの先にくくりつけて飛ばしてやる。シドはそう心に誓った。


「発射だぴょ〜〜〜〜ん!!!」


楽しそうなパルマーの声を背に、クラウド達は遥か彼方宇宙へと旅立ってしまった。







***







オフィスを後にしたシンバは、何を思うでもなくジュノン市街へと出て来ていた。

クルクルと手持ち無沙汰な右手人差し指によって振り回されている黄色の物体。それはあの時、それを手にした時の模倣のようで、しかしそうさせる心内はあの時とはまるで違っていて。


「……」


今更形となって現れたそれを、手にしてはいけなかった。けれども、今の自分にはそれを手放す事が出来なかった。


「っあ、」


まるで自分の中で輪廻する何かを具現化したように回り続けていたそれが、些か力が入ってしまった為かヒュンッと音を立てて勢いよく飛んでしまった。
飛んだ先には神羅兵が2人。見回りでもしていたのだろうか。一人がそれに気づいて、親切にもそれを拾ってくれた、


「あぁっ、すみません」

「いえいえ――」


…その時だった。


――っ!?


まるで閃光弾を目の前に投げつけられたかのような突然の衝撃に目が眩んだ。
しかしそれは一瞬で、次に起こったのは唸るような破壊音。


「っ!?」

「や、やったぞ――!!」


自分が驚いているのを他所に二人の兵はどこか嬉しそうだった。一体何事かと二人の視線の先を追うと、そこには。


「っ…――」


見上げた遠い空の上で、黒煙を上げる赤い厄災。その光景を見て何があったのかを瞬時に把握する。


「これでメテオもお終いだ!」

「さすが社長!!」

「…――」


…二人がそれに期待を寄せる。が、しかし自分の中にその文字は一つもない。

ロケットがメテオに向かったという事は、彼らがそこにいたという事。それを思えば、彼らはちゃんと脱出しているだろうか、なんて。今頃彼らはそれを宇宙とこの星の狭間で眺めているのだろうか、なんて。宇宙へ行くのが夢だったナイスガイな頑固親父は、きっと今頃喜んでいるのだろうけれど。


「…っ、」


しかし黒煙が晴れて現れたそれは、いつも見てきたそれと何ら変わりない姿を見せつけてきた。それを見た二人の兵の顔色が落胆と絶望に変わる。キャハハが発案した作戦、ルーファウスが実行した作戦は、跡形もなく砕け散ったのだった。


「そんな…傷一つついてないなんて…」

「…この星は、終わっちまうのかなぁ――」


この世の終わりを間近に感じた会話が聞こえて来た。これがきっと当たり前で、本当なら自分だって今絶望感でいっぱいなのだろうに。


「……、」


自分の中にあるそれは、ただの悲哀だった。何も知らない彼らへ。全てを把握する、自分へ。


相違な感情を彼らに悟られないように、シンバはそっとその場を後にした。



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