15 wasn't brought something to an end



『レノからまた電話です。とにかく急いでくれだって。…なんだか様子が変だったけど――気を付けてね』


いつも通り残されていたそのティファからのメッセージ。再度出たその名詞にきっといつもだったらスルーして終わっていたのだろうが、今回ばかりはそうもいかなかった。
…その着信履歴の時刻が、銀髪一味との接触が終わって間も無くだったから。

偶然にしてはタイミングがよすぎるそれに、これはなにかあるとしかクラウドには思えなかった。出来ればこのままタークスとのコンタクトは持ちたくなかったのだが、どうにも胸騒がして仕方が無く。クラウドは、ヒーリンへとフェンリルを走らせていた。


「……」


向かいながら、あぁどうか先ほどの胸中は気の所為であって欲しいと、願う。あれからもう二年。もう、二年が経った。この星ある災厄は今星痕症候群だけで、そう、これからも自分達が闘い続けるのはそれだけであって。あれはただの一過性の、そう、台風のようなものなんだって。


「――…、」


深く生い茂る緑に囲まれるようにして剥き出しの岩壁が所々連なり、その合間から流れ落ちる滝が妙に自然の豊かさを醸し出す場所、ヒーリン。響いていた自身のバイクのエンジン音を切ればそこには静寂が広がっていて、街の喧騒などそこにはない。神羅の連中にはなんて場違いなんだろうと思いつつ、クラウドはその階段を上って行った。
きっと今の音で自分が来たことなどバレているだろうから、クラウドはノックもせずに(というより元々する気は無かったのだが)左手でドアを開けながら、右手を腰に下げた武器にかけた。


キィィーン――!


…一体どんな挨拶だ、なんて。ぶつかった金属音、そして目の前の鬱陶しいくらいの赤にクラウドはあからさまに怪訝な顔をした。


「久しぶりだな、クラウド――!!」


律儀に交わす挨拶の手前やろうとしてる事は無茶苦茶である。ロッドを振りかざしてくる彼は自分に一体何の恨みが、なんてそんな分かりきった愚問は置いといて。その彼の挨拶をヒラリと軽くかわすことでクラウドは返事に変えた。


「っおい――?!」


バタン。ガチャリ。

ロッドを振りかざした勢いでそのまま外に飛び出た赤毛を、クラウドは閉め出した。…彼の顔を見ると嫌でも思い出してしまうものがあるからか、奴がいると面倒だからかは定かではない。


「……」


そうして前へ向き直れば、いつの間にかそこにはいかついスキンヘッドの男が立っていた。相変わらず無口な彼はグローブを静かにはめ、先ほどの赤毛と同じように自分に向かってくるつもりらしく静かにファイティングポーズをとる。…一体何がしたいんだコイツらは。クラウドは一歩踏み出そうとしたスキンヘッドに素早くバスターソードを突きつけ、無言で好い加減にしてくれと圧をかけた。


「…っ、」


レノ、ルード。どちらも嫌というほど知った顔だ。ツォンやイリーナの姿が無い事は入った時から分かっていた気もするが、…クラウドは何故かそこに彼女の姿を探してしまっていた。…ここにはいないって、確信していた筈なのに。


「――流石だ、自称元ソルジャー。…腕は鈍ってないようだな」

「!」


そうして奥から現れた、車いすに乗り白いローブを纏った男。全身をそれで隠している為誰かはわからなかったが、…しかしその声には聞き覚えがあった。


「ルーファウス…なのか?」


クラウドはてっきり、彼はお亡くなりになったのだと思っていた。ダイヤウェポンによって破壊された神羅ビル。てっぺんには社長室があり、丁度その部分が大きく崩れていた。それにその後レノ達が社長も見つかっていないと言っていたし、巷の噂でも彼の死亡説があったから。


「あの日私は、」

「…俺に何のようだ」


しかし今はそんな事どうでもいい。正直どうでもいい。彼が生きていたからといってクラウドになんのプラスになる事なんてない。…寧ろマイナスではないかと思う。


「ビルが崩れ落ちる直前、」

「俺を襲った奴らは?」

「なんとか――」

「…帰るぞ」


質問をしたにも関わらず自分の生還の経緯を語り出すルーファウスに、クラウドはあからさまに大きくため息を吐きだした。…まさかその話をするためにここに呼んだ訳では無いだろうな。やはりコイツはいらん話が多い。二年経った今もそれはお変りになっていないようである。


「お前の力を貸してくれ」

「……興味ないね」


クラウドに厭きられようやくルーファウスは本題を切り出したが、クラウドはそれを一蹴した。何故に自分が彼らに手を貸さねばならぬのか。敵対してきたのに、今更。世界を救うときだって手を取り合う事などしなかったのに、だ。


「我ら神羅カンパニーは世界に対して大きな借りがある。世界をこのような惨めな状態にした責任は我々にあると言われても仕方がない」


よって、この負債は何としても返さねばならない。ルーファウスらしい言葉だと思う傍ら、クラウドはやはり呆れていた。何を今更。自分達がどれほどの事を行ってきたと思っているのか。削った星の命は戻らない。その責任を彼らはどう取ろうというのだろうか。
後付けなら何とでも言える。ただの綺麗事にしか、聞こえなかった。

ちょうどその時ドアの向こうでレノが「ドアを開けてくれ」と懇願してきたのでチラリとそちらに目を向けるも、…クラウドはそれを、無視。


「その第一歩として我々はこの世界に影響をもたらしてきたモノの調査を始めた。…あれから二年。復興の道を歩みだした世界の一番の脅威はなんだ?」

「…」

「そう、忌まわしき星痕症候群だ。…我々はその原因がセフィロスにあると考える」

「っ!」


世間では魔晄炉や魔晄エネルギー、そしてライフストリームが星痕の原因だと考えられてきている。星がライフストリームを噴き出して自らを救ってから、それが現れ始めたからだ。
しかし、本当にそうだろうかとルーファウスは考えていた。ライフストリームは星の誕生と共にあり、魔晄エネルギーが実用化されてから40年以上は経っている。にもかかわらず星痕など歴史に一度も登場していないし、似たような病気の事例すらない。

…だとすれば、過去と今とで何か根本的に違うことがあったのではないか。


「…我々の時代に起こった事は何だ?」


そう、考えられる事は一つ。ルーファウスは、ハッキリ言い放った。


――セフィロスの、登場だと。


「…セフィロスは死んだ」

「奴の精神はどうだ?ライフストリームに溶けて、しかし拡散することなく星を巡っているとしたら――」

「何が言いたい」


そんな事ある筈が無い。そう断言したいのに、クラウドには出来なかった。
…頭の中を過るフェノメノン。クラウドは無意識に、左腕に右手を寄せていた。


「もちろんこれは私の想像だ。…しかし、可能性は捨てきれない。真実を知ることが星痕の治療にも繋がると思わないか?」

「…、」

「我々はまずセフィロスの痕跡の調査を始めた。…覚えているか?」


――北の大空洞


またと甦る、忌まわしい記憶。あの場所は全てが始まり、そして終わった場所でもあり。
…自分を見失い、そして彼女をも――。


「…何があったと思う?」

「…」

「安心しろ。――あそこには何もなかった」


クラウドは怪訝な顔をルーファウスへ向けた。無いなら何故それを告げたのかと、それを思い出させた事への不満もあったが、…どこか相容れないものがある気がして。


「…しかし、予期せぬことが起こった。奴ら―カダージュの一味が現れた」

「カダージュ…?」

「奴はお前も狙ってくるぞ。…もう接触があったのではないか?」


その言葉によって先ほどの闘争シーンが頭の中で再生され、同時にドクリドクリと鼓動が上がっていくのがわかった。


「…俺は関係ない」


クラウドはそれを言葉で消そうとした。違う。あの胸のざわつきはそれとは関係ない。それとこれとは微塵も結びつかないんだって、思い込みたくて。


「お前も我々同様、セフィロスと深く係わった者だろう?」

「……」

「カダージュの目的がやがてくるその瞬間の準備だとしたら…我々ほど邪魔な存在はないからな」

「準備?……何の準備だ」


ドクリドクリ。一つ一つの言葉に反応するかのごとく上がる鼓動は一体何に焦燥し、一体何に怯えているのか、なんて。
…それでも、分かってる気がした。でも、分かりたくなかった。クラウドは認めたくなかったのだ。

新たな"災厄"が現れたことも。


「…セフィロスの、復活――」


"悪夢"がまだ、終わりをみせていないということも。



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