16 be going off the rails



「――話は終わりか?」


ルーファウスの言葉にクラウドはそう冷たく言い放ち、彼に背を向けた。


――セフィロスの復活


音にしていざそれを聞くと非現実的でバカバカしくてくだらない、なんて。
…いや、後から思えばそうすることで自身を冷静に導こうとしたのかもしれない。


「本題はこれからだ。カダージュ達に対抗するにはお前の力が必要なのだ」

「…、」

「手を組まないか?元ソルジャー…クラウド」


意識し過ぎではないか。そう、双方"過去"にとらわれ過ぎていないだろうか。
考え過ぎてはいけない。全てを奴に結びつける事がこの世界において正しいワケではない。…終わった。そう、終わったではないか。奴との戦いは二年前に、この手で―自分自身でケリをつけたではないか。


「…自称、な」


誰よりも自分が一番よくわかっている筈なのに。…なのに、どうして、どうしてこんなにも懸念するのだろう。過去の因縁は綺麗さっぱり洗い流された筈で、もう自分が彼に囚われる必要性だって微塵もない筈で。


「――母さんって、何の事だ…?」


ふと表に出た、クラウドの心の中でしこりのように残って消えない鬼胎。ただ一つのそれが全てに拍車をかける原因だったのかは今となってはわからない。


「…さぁ、…カダージュが何かいったのか?」

「ルーファウス、」


何を隠している。クラウドは振り向きもせず彼にそう言い放った。先ほどの事といい今といい、彼にどこか上辺を取り繕われているような気がしたからだ。

今さらのこのことその姿を現し自分に声をかける根本的な理由、そもそもカダージュ達に狙われるようになった要因が明確でないように思えて止まない。確実に彼は重要な"何か"を自分に隠しているのではないか。…ルーファウスから返ってくる答えが「隠し事などしていない」というありきたりなものになることだって、分かりきっていた気もするが。


「お前も星痕の情報は欲しいはずだ、一緒に暮らす孤児達のために」

「…、」

「子供達に笑顔を取り戻してやりたくはないか?」


ふっと過ったデンゼルの顔。彼との出会いはいつだっただろう。そんなに遠い記憶では無い。五番街にある教会、そう、エアリスがとても気に入っていたその場所でクラウドは彼と出会った。
今思えば、その場所で彼と出会っていなければセブンスヘヴンへ連れて帰り一緒に暮らすような事はしなかったかもしれない。最初から彼が星痕症候群に蝕まれていたとしてもそれを拒む事をしなかったのは、…エアリスが彼を自分の元へと連れてきたと思ったからだ。

だから、なんとかして彼の星痕症候群を治したいと思いそれについて追及してきた。己にも救えるものがあるんだと証明出来れば何か変えられる気がしたのに。
…まさかそれが自分にも現れるなんて、そうして彼の元から離れる事になるなんて、その時は微塵も思っていなかったけれど。


「我々の最終目的は世界の再建だ。クラウド」


…そういや彼は、元気だろうか、なんて。


「……俺は――」


一体何が出来るのだろう。こうして途方もなく彷徨い続ける、己に。
あの時からずっと。世界が和平を手に入れても己が失ったものを取り戻そうと必死になって、望んでいた。変えたかった筈だった。救いたかった筈だった。この世界を。彼女達を。この現状を。彼を。…でも、自分は――


「頼むクラウド!神羅カンパニーの再建だぞ、と」

「!」


扉を開けた瞬間に、ふっとその言葉が自分を現実へと呼び戻す。結局、世界の再建という名の神羅の再建が彼らの最終目的なのだと。自分達の利益だけの為に動くのが彼らの代名詞のようなものであることをこの時まで忘れていて、そうして自分はただそれに利用されるだけのコマであることを思えば。


「…興味ないね」


クラウドの気がそこから逸れるのに時間はかからず、そうとだけ言い残してクラウドは足早にその場を去った。


「「レノ…!!」」


…ようやくこの場に姿を表したレノにかかった中からの声は、至極呆れたものだったのは言うまでも無い。







***







――君は世界を救うんじゃない



――創るんだ



「――……、」


その声の先の答えを求めるかの如く、ふっと目を開ける。目の前には青。真っ青な景色。…あぁ、綺麗だな、なんて。悠長に思ったのも束の間で、シンバはその身体を勢いよく起こした。


「……」


ここはどこ私は誰な状態はほんの一瞬だった。見たことあるようなないようなその風景の先に遠く、しかし確実に目に映るその場所の名は。


――ミッドガル


メテオ襲来後であるにも関わらずその居れ立ちをしっかりと残しているそれは、自分の中に強くそれを訴える。…あぁ、本当に自分はこの世界に還ってきたのだと。
受け入れるようにシンバは一つ大きく息をついた。それを見降ろせるほどに小高いその場所で一体どのくらい目を閉じていたのかは分からないが、自然に目覚めたという事は誰にも見つかってはいないのだろう。もし見つけていて素通りなら冷たいにも程がある。

周囲を確認するかの如く視線を少し左に逸らして刹那、吹いた風で舞い上がる砂煙のその向こう。殺風景なその中に異型が一つあるのを捉える。崖の淵、まるで何かの目印のように土の上に何かが立って―いや、刺さっていて。


――っ、


煙が晴れ、それが何か分かって刹那。シンバは心臓がドクリと跳ねるのを感じ、引き寄せられるようにそこへ向かった。


「……」


それは、一本の剣。自分はこれをよく知っている。記憶の中で鮮明に甦るシーンに胸が熱くなる。
少し錆ついて風化気味だがその居れ立ちはすごく風格があり、どこか威圧的だった。…まるで俺はここにいると言っているように。

シンバはその剣の柄をそっと撫でながら、またそこから下の景色へ目を向ける。…記憶の中の彼の行動を再現するように。二年後の世界に降り立った己の存在を応えるように。


「……」


そしてそっと、目を瞑った。思い起こされる人物達はまだ記憶に新しく、そうして回想されるは今後のシナリオ。

いろいろ考えていた割に答えは出ていないが、そんな複雑な思いとは裏腹にこの世界に期待心が無かったかといえば、嘘になる。たった四日。…そう、自分にとってはたったの四日という感覚しかなくて、思い馳せる時間が足りないのがいけないんだなんて。それがただの言い訳に過ぎない事をこの時の自分は果たして理解していたのだろうか。


「…、」


…彼らが過ごした二年間がどれほどのものかも知らないまま。その相違の丈を図り損ねている事に気づかないまま。シンバはこの大地に、しっかりと立っていた。



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