20 to meet unexpected pearson again



パチ、パチ、――


「……、」


ふと、目が覚めた。寒すぎてではなく、暖かくて。先程まで目の前には黒い星空と殺風景があった筈なのに、ぼんやりと目を開けた先にあるのは明るい火。


「っ、!?」


え、何で。と飛び起きハッキリとした意識で辺りをまずは警戒する。目の前には焚き火のある小さな囲炉裏、そして自分がいるのはソファの上。ご丁寧にブランケットが被せられているが、誰もいない小さなログハウスのような部屋。


「……」


…誰に、誰に助けられた。ドクリドクリと上がる心臓の中、必死で考える。
あの映像の中でこのような部屋は見たことがない。恐らくクラウドではない、彼は教会を塒にしていたから。タークスでもない、彼らのアジトはコンクリートっぽかったし。とまたも忙しく回転する頭の中、


ガチャ―


「!!」


部屋の扉が開き、そこには


「よかった、目が覚めたんですね」


知らない男の人が立っていた。




「っ……あの、」


その手には二つのマグカップ。格好からして一瞬タークスかとも思ったが、それとは違う普通のスーツのカッターシャツのようで少し安堵するも、警戒は解けない。「あんな所で人が寝ているなんて吃驚しました」という彼にその内の一つを手渡され、とりあえずお礼を述べるも、警戒は解けない。

分からない。確かにゲーム内ではよくある事だと思うが、それが一般的な普通の行動に当たるのか、否か。それにあんな砂漠のど真ん中を夜に散歩する人がいるのか、否か。ただのいい村人で終わらせていいのか、否か。


「…………、」


ぐるぐるぐるぐる、頭を巡る。巡りすぎて次の言葉が浮かんでこない。
手中のコーヒーで暖をとる素振りで誤魔化しながら、シンバは対向にあるソファに座った男の行動をじっと監視することしか出来なかった。


「…そんなに睨まなくても、取って食いやしませんよ」

「、いえ、…その、」

「とにかく生きていてよかった」


目を、思わず逸らす。確かに無防備であんな場所で寝るなんてモンスターにどうぞ今晩のおかずです、と言っているようなものであるが、…けれども今の頭では何故あんな所にと言われた時の誰もが納得する回答を直ぐに口に出来そうになくて、

――しかし


「シンバ…さん、ですよね?」

「っ、!」


言葉にどもる自分にかかった男の言葉に、シンバはまたと目を合わせざるを得なくなった。


「ずっとあなたを探していました」

「っ、え、?」


何故。何故何故何故。目の前の焚き火と手中のマグカップがやたらと熱く感じ、途端身体がブワリと熱を持つ。
耳に響く己の心臓の音が煩くて、聞きたいことは山ほどある筈なのにそれは声にはならなくて。


「っ、すみませんいきなり…、やっとお会いすることが出来て僕も何から話していいのか、」


気恥ずかしそうに目を逸らし、男はコーヒーを一つ口に含む。「毒など入っていませんからどうぞ」と微笑まれ、自身も落ち着こうかとマグカップに口をつけた。


「…、おいしい」

「っ、でしょう?これ、コスモキャニオンでしか手に入らない貴重な豆なんですよ!」

「…そうなんですね、知らなかった…」


場の空気を変えた懐かしい響き、コスモキャニオンにとりあえず思考をずらす。星に疑われ星に受け入れられた場所。そういやブーゲンハーゲンは元気だろうか、生きているだろうか…いや、あのオッサンは生きているだろうな、と馳せながら、コーヒーを再び口に含んだ。

それから男はこのコーヒーについてやたらと語りだした。自身もコスモキャニオンには行った事がある為話の内容にそう付いていけないことも無く、コーヒーも好きな部類であったから相槌程度に話を聞いていたが、男が話し上手で時間が経つにつれ自身の警戒も解れていったのが何よりの救いだと思う。

が、…肝心な話がすっ飛んでいってしまっていることを忘れてはならない。


「…、あの!」

「?」

「どうして貴方は私のことを探していたんですか?」


コーヒーの話で大分自分も落ち着きを取り戻せ、相手が然程悪い人ではない寧ろ話しやすくいい人だと脳が認識し始めた頃。盛り上がっているところ恐縮だが話を割り、シンバは本題を自ら切り出した。


「あぁ、すみません…悪い癖が出てしまいました、話し出すと止まらなくて、」


男はマグカップをソファの横のテーブルに置くと、膝の上で手を組み少々前屈みに座りな直した。シンバも自然とマグカップから手を離し、姿勢を正す。


「自己紹介が遅れました。僕は元神羅の社員です。研究員をしていました」

「…!」


…研究員。と、いうことは必然的に宝条の部下、ということになる。だとすれば自分の事を知っていてもおかしくはないかもしれない。タークスの新人が人体実験を行われた事は研究員であれば周知の事実だろうが、


「実は一度、お会いしているんです」

「っ、え?」

「覚えていませんか?ほら、あの時――」




…それは、もう随分と前の記憶。


ツォンに頼まれ、仕事で初めて神羅ビル67階に行ったとき。


研究員の冷たい視線を浴びた。


そしてそこでナナキに会った。


嬉しくて、長居してしまった。




『―-…そこで何をしている?』




一人の研究員の男性が、怪訝な顔で近づいて来た。




『あ……これ!お届けものです!』




その男性に、書類を押し付けた。




「――…!」


脳内に浮かんでいた顔と、今目の前にある顔がリンクする。…思い出した。その時は急いでいたからあまりその人の顔をまじまじと見ていなかったが、確かに、言われてみれば、面影があるような…気がする。


「まぁ、覚えていないのも無理はないでしょう。一瞬でしたから」


それでも、相手が自分の事を鮮明に覚えているのはその出会いが衝撃的だったからではない。


「あなたが宝条の実験台にされていたのは知っています。…そしてあなたが、」


――この世界の人間では、ないことも



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