「……」
ふっと自然に目が覚めた。いつもなら魘されていたり、汗をかいて身体が火照ったりしていて気分の良い目覚めではない事が多いのに、この日は久しぶりにとても気持ちの良い目覚めだった。
それもあってか、デンゼルは自ら身体を起こしベッドへ腰掛ける。朝―というには少し遅い時間帯。自分用の朝食がいつも通りベッドの横のテーブルの上に置かれていて、漂う匂いに、求めるようにそれに手を伸ばす。
「…(モグモグモグ)…」
聞えてくるのは自身の咀嚼音だけ。デンゼルは辺りをキョロキョロとしながらサンドイッチを頬張る。
朝一にマリンとティファが自分の様子を見に来、夢現だったけれど「今日は落ち着いているね」とティファが言っていた気がする。それ以降二人には会っていない。この時間帯、いつもならティファがマリンを呼ぶ声、逆も然り、お店の準備をする音、何かしらの生活音があった筈なのに、セブンスヘヴン全体がやけに静まり返っている気がした。
店は休みなのだろうかと考えながら、最後の一口を食べ終えホットミルクを飲み干す。ティファの作ってくれるご飯は何だって美味しい。星痕症候群が酷く現れる日だって、どんなに辛くたって、ご飯だけは残さず食べるようにしていた。
「――…………」
そうして食器を片付けに1階へ下りるも、案の定そこには誰もいなかった。電気もついていないからやはり店は休みで、ティファとマリンは買出しにでも行っているのだろうかと考えながらキッチンへ向かう。
…もう少し早く起きれば、一緒に出かけられたかもしれない。今日は調子も良くて、久しぶりにクラウドのバイクに乗せて欲しいな、なんて。星痕症候群さえ患っていなければ、もっともっと皆で楽しく――
「っ…!」
ズキリ、と痛み出した頭。デンゼルは皿を洗おうと思っていた手を止め、額を押さえた。
母親代わりに育ててくれたおばさんもメテオによるライフストリームの影響で死んでしまい、それからずっと独りで生きてきたデンゼルにとってクラウドに助けてもらった事は一生の宝になるだろう。そしてティファやマリン、時々バレット。たくさんの人に囲まれて、新しく家族ができた事、デンゼルは本当に嬉しく思っていた。
…けれども、ふと、たまに。やはり自分は独りなのだと心が叫ぶことがある。クラウドやティファ、マリンはいつも優しく接してくれて、自分を大切にしてくれているのに。…いつからだろう、本当の家族ではないという隔たりが、"新参者"としての隔たりが、徐々に浮き彫りになったからだろうか。
星痕症候群が酷くなり始めたのは。
その病に侵された理由。今となっては"独り"でいるという寂しさに侵入してきたような感覚だったと、ふと思う事がある。けれどもデンゼルはそれを誰にも言わなかった。もしそれが本当なら、それが酷くなるという事は"孤立"しているということを認める事になってしまいそうで。クラウドも、ティファも、マリンの事も、大好きなのに。自分が弱虫だからいけないんだって、言い聞かせてきた。男の子は強くあるべき。クラウドを見て、そう学んできたから。
プルルルル_
「!」
突如店内に響いた呼出音。頭痛から開放され再度皿を洗おうと思っていた手を止め、デンゼルはそれに出た。
「…教会?」
電話の相手はティファだった。マリンと教会に来ておりお昼までには帰るから待っていて、と。「うん、待ってる」デンゼルはそう言って電話を切り、…部屋には戻らず店の外へと出た。
…何を思ってそうしたのか分からない。お昼までまだ時間があるし、すぐにティファ達が帰ってくるとも思っていなかったのに。
天気がいいからか。今日は調子がよいからか。
"独り"を、感じてしまったからか。
「……――」
デンゼルは、フラフラと街中を歩き始めていた。