27 several reunions caused a rude shock



その後も暫く、祭壇上で泉を眺めていた時。


「クェーッ」

「――シンバか?」

「!!」


チョコボの声が上がるのと、その低い声が聞こえたのは同時だった。


「ヴィンセント…!」


涙を拭って振り返れば、そこには思い待ちわびていた、二年前と何ら変わりない赤を纏った男の姿。ヴィンセントだ。ヴィンセント。これは紛れもなくヴィンセント。ドクリドクリと高鳴る鼓動は緊張からではない。シンバは思わず駆け寄り、その赤へとダイヴした。


「会いたかったあああヴィンセント!!」

「!あ、あぁ…」


感極まって抱き着いてしまったが、彼の至極冷静な(いやどこかたどたどしい)態度に、こうして彼に抱き着くのは初めましてなことに気付いてパッと離れる。


「……シンバ、今までどこに、」

「ちゃんと話す!ちゃんと話すから最後まで聞いて欲しいとりあえず落ち着いて全部最後まで聞いて話せば分かるから!!」

「落ち着くのはお前だ」


…おぉさすがヴィンセント、ツッコミが冷静だ。やっと"普通"に仲間に会えたことが嬉しくて、シンバのテンションはまたと上昇気流に乗っていた。




「――そうか…それは災難だったな」


少し場所を移動して、シンバはヴィンセントに事の経緯を話した。

星を救いに皆の元へと戻ろうとした際にウェポンの攻撃に遭い、元の世界に戻されてしまった事。それからわけあって、こっちに戻ってきた事。タイムラグが二年あった事。戻ってきて早々、ティファにビンタを喰らった事。
その壮大なストーリーを「災難」という言葉でまとめてしまうところがこの男の冷たい―いや、良いところと言っておこう。ヴィンセントは何を疑うことなく、全てを信じてくれたようだった。やはりこの男、自分の事よくわかっている。


「ほんでさ…色々聞きたいんやけど、この世界今どうなっとんの?」


前置きは無しにして、ヴィンセントが知っているままの世界を聞こうと思った。それが自分の知っているストーリーに繋がってくれれば良いと、単純に思ったからだ。

ヴィンセントの話によれば、星を救った後仲間達はアッサリ解散し、それぞれが思うところで自分を探していてくれたらしい。最初は頻繁に連絡を取り合っていたが、1年ほど前から皆に諦めの色が見え始め、2年経った今ではシンバの名前すら出なくなったとのことだ。…ちょっと悲しいが、致し方ない。
そうしてそれぞれが元の生活に戻っていったが、星痕症候群が蔓延し始め、世界はまた別の危機に陥り始めた。クラウドやティファ、バレットを筆頭に、今度はそれについての情報交換を取るようになり、またも思い思いに行動を起こしている、と。


「…私はよくここに来る。ここが一番落ち着くのでな」

「…うん、なんか分かる気がするわ」

「ただ…最近、よからぬ輩が出入りするようになった」

「よからぬ…?」


――まさか


「ダークスーツを着た銀髪の三人組だ。…最初に見た時から、奴らには嫌な予感を覚えた」


「どこかセフィロスの雰囲気を纏っている」ヴィンセントの言葉で、シンバはまた肝心なことを思い出す。あの三人組がここ―忘らるる都をテリトリーにしていたことを。…うっかり遭遇しなくてよかったと心の底から思う。


「……そいつらは、ここで何を?」

「何をする訳でもない、ただ単に拠点にしているといった感じだな。…だが、つい昨日だ。血まみれのツォンとイリーナがここへ運ばれてきた」

「……、え?」



 *



「――ツォンさん!!イリーナ!!」


古ぼけた、貝殻の家の中。家具も何も無い、ただただ冷たい床の上に二人は横たわっていた。


「っ!…シンバ…さん…!?」


ゆっくりと、イリーナの身体を起こす。頭に巻かれた包帯が痛々しいが、彼女の意識はハッキリしていて、自分の顔を見るなり涙を流し、抱き着いてきた。


「っ、生きて…たんですね…!!よかった…!!」

「うん、まぁ、…そんなことよりイリーナ、大丈夫――?!」


こうした形で再会するとは思ってもいなくて、酷く動揺していた。誰に拷問を受けたか等の経緯は分かってはいるが、それにしても酷過ぎる仕打ちに胸が締め付けられる。こうまでしてカダージュ達はジェノバを求めているのかと、自然とこみ上げる怒り。…と、いうよりヴィンセントこの情報を伝えるの、遅い。


「応急処置をしたまでだ。下手に動かすよりも回復を待った方が良いだろう」


こうして彼らがここに居るという事は、既にジェノバを手に入れ、そうしてカダージュらに拉致されたストーリーへと繋がる。ルーファウスの言っていた"長期任務"は真っ赤な嘘であることが確定した。やはりあの膝の上にあるは、パンドラの"箱"。


「……シンバか…?」

「!ツォンさん…大丈夫ですか!!」


暫くして、ツォンもその意識を取り戻した。
彼はイリーナの数倍以上に酷くて、目も当てられない。けれどもシンバは元上司の姿から目を逸らさなかった。自然と目元に熱いものがこみ上げる。


「…お前…今までどこに…」

「ツォンさん、今は喋らんとってください」

「いや…お前には…伝えなければならない…ことが、」

「…っ?」

「…気をつけろ…神羅の元研究員が、お前を…探している」

「え?」

「そいつは…元ジェノバプロジェクトのリーダーで…宝条の、部下だった奴だ…」


――ずっと探していました


ツォンの言葉にピンとくるものがあって、だから、それが探していた事に対して何ら不信さは現さなかった。彼から直接その言葉を貰っている。そして、その理由もだ。
…だが、少し引っかかる部分がある。
彼はタークスとは接触していないと話していた。つまりそれは、言葉どおりの意味であるならば会話すらしていないという事ではないのだろうか。彼はいつツォンにそれを聞いたのだろう。どうしてそれを己に言わなかったのだろう。

…ドクリ、ドクリと変に動き始めた鼓動が示唆するもの。それは次のツォンの言葉で、多大な衝撃となって己を打ちのめした。


「…そいつは今、…俺達を襲った奴等と共に、行動をしている…」

「!!?!」

「…次に狙われるのは…お前だ、シンバ」


――僕たちは、同志ですから


サァと熱が引くような感覚が全身を襲う。シンバは、声を出す事が出来なかった。



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