07.5



――世界は"悪"で満ちている


…いや、少し語弊があるかもしれない。世界というものは、そこに人間なり動物なり植物なり何かしらの万物が集って成り立っている。世界が"悪"で満ちているとは、イコールそれらの万物が"悪"に染まっているということを言いたい。

"悪"に染まる為には、自身が何かしらのアクションを起こす必要がある。最初から"黒"のものなんてない。生まれくるものが最初に持つ色は、"白"。…何色にでも染まりゆく、原色だからだ。

そして、染まる事は何も難しい事ではない。簡単だ。真っ白のキャンパスに絵の具を乗せていくのと同じ。そして一度染まってしまえば、その浸食は止まらない。一度染まったキャンパスが修復できないように。

そうして簡単に染められてしまうのは、万物は"悪"に飢えているからだと思っている。簡単に変わってしまえる核を誰しもが備え、そして染められるのをただ待っている。
ここで重要なのは、自ら染めに行くのではないという事。"悪"は染まるものではない。…染められるものだ。

…自分が、そうだったように――


「――……」


彼は遠目からその街を眺めていた。ライフストリームとホーリーの力によって"救われてしまった"世界の一部であるその街を。

けれどもその代償として建物は崩壊し、野原は荒れ地と化し、それまでにあった景観は著しく変わってしまっていた。
ライフストリームは人々が築き上げてきたモノに甚大な被害を及ぼし、星自身の力を見せつけたのだった。

けれども星は、その元凶を生み出した"人"という生き物達には何も危害を加えなかった。それどころか皆を懸命に、そして逞しく成長させたのである。これからの世界を生きる希望を、星はそれらに与えたのだ。

そうして街も世界も、再生されつつあった。
…この世界の第二のストーリーが、始まろうとしている――


「……」


メテオが消滅しセフィロスがいなくなった今、この世界に"災厄"は少なからず存在していない。だから人々は今までの時間をを取り戻すことに専念しているだろう。恐怖に怯えることのない、平和な日常を。

…彼らは知らない。
災厄は常に身近に存在し、その牙をいつ剥こうかと構えていることに。


「……、」


彼はその顔に笑みを浮かべていた。
今度こそこの世界に災厄をもたらす時が来たのだと。今度は自分が、その中心になるんだと。自分が、第二のセフィロスに――

長年過ごした"知った"世界を壊すのは実に惜しいとは思った。けれどもこの世界は、既にエンディングを迎えたのだ。二度目の世界など、いらない。"創られた"世界にアフターライフなど、存在してはいけないのだと。


「……――」


彼はその顔に笑みを浮かべていた。満足そうに。…愉しそうに。



…彼は、知らない。


この世界がまだ、混沌の渦中にあることに。



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