「……」
話を聞き終えたロー的には、"ニホンに帰っただけで全てが解決するとは思えない"というレイリーの言葉が彼女に刺激を与えたのだと推測した。
確かに、言われてみればそうだ。アサトもこっちの世界からライを探しに来るやつがいる可能性はゼロではないと推量していたし、過激なフレント派が多く飛ばされていたのなら、ニホンでこっちの世界と同じような事が起こっても何らおかしくはない。
…過激な、フレント派。
「私は彼女の話を聞いて…その2人が怪しいと思った」
「…!」
「その2人が…指輪をした女性を探させていた婦女誘拐事件の主謀者ではないのか?」
「……、何故そう思う」
「説得してまで"強大な力"を探していたということは、その指輪自体がどんなものかも知っていたのだろう?……我々が、小指に指輪をしている女性がターゲットにされていると知ったのは、婦女誘拐事件発生当初から何日も経った後だ。最初は指輪を探していて、その後小指の物に絞られた、と考えるのが普通だ」
「……」
「…だが、犯人たちが最初から小指の指輪を狙っていたとしたら」
最初から。ピンキーリングに絞り込める理由はいくつか考えられる。
既に竜のウロコの入った宝箱を見つけていて、鍵穴が小さなリングの形をしているのを見つけたから。
あるいは、
――その指輪がカギである事を既に知っていて、小指に嵌めている女性を既に特定していたから。
「ライがこの世界にきてまもなくその事件が始まっているなら尚更。その可能性が高い」
「……アサト―ライの父親はそれについて言及しなかった。戻ってきて写真を手掛かりに3人で探し、そしてある日手配書を見た…と言っていた。手配書になった理由が指輪のせいだとも知らなかったようだ」
「2人が秘密裏に事を進めていたとしたら?」
「…、なんだと?」
「…そのアサトとやらでなく、彼らの本当の親分が」
カイドウだとしたら。
「…っ!!」
椅子に腰掛けてから初めてそこでレイリーと視線が交わった。思いもよらぬ推理に、しばしローは静止する。…しかし"年老いた男"と長い間見つめ合うのに気が引けて、それとなく視線をずらした。
――俺はその"奴ら"の話を偶然耳にしただけだ。それを聞いて俺はこの仕事から足を洗おうと思った。
…思い出してみれば、あの時。黒幕の名に全ての思考を持っていかれたが為に、あの小柄な海賊が言っていた"奴ら"について考えようともしていなかった。
カイドウが黒幕、そして手配書を回した首謀者はドフラミンゴで間違いないと思っている。"奴ら"というのは、ドフラミンゴと下級海賊の間で、仲介役をしていたと考えられる。
その仲介役が
イメルダとルアンなのだとしたら。
「……」
手配書が回るのがやけに早いと思った。
幼子の時に会って以来なら容姿は知らなくて当然。先に小指に指輪を嵌めている女を片っ端からあたり、アサトから写真を見せてもらい身体的特徴を聞けばそれとなく絞り込める。
…そして、その人物の居場所を特定出来る能力を持つ者が身近にいれば、
「……」
カイドウの手下であるならば。自分達が見つけられなくとも、手配書によってドフラミンゴの手に渡れば問題ない。ニホンに連れて帰ることになっても自分達で捕らえる事が出来る、何の問題もない。…本当にカイドウの手下、ならば。
「…何か、思い当たる節が出てきたか」
2人がやたらヤムを見つけることを推していたこと。ライの年齢から推定して彼らは20年以上この世界に身を置き、力をつけ、情報収集―宝箱を探していたこと。
――さぞかし王とカイザー一族を恨んだだろう
…過激なフレント派。そう、当初ニホンの島にいたという事は、彼らは過激なフレント派だったという事になる。
フレント派は国の繁栄を望んでいた民の一派だと聞いている。そして、祖国に還ることを強く望んでいたと。
今この世界で国の繁栄を望むのなら、必要なのは国力、権力、そして何をも寄せ付けない"力"が必要になる。
…アサトと出会い、崇拝を偽り、この世界に戻れるよう仕組んだのだとしたら。カナロア国の再建を目論み、一国を滅ぼす力を持つヤムを葬るのでは無く、復活させる気でいるとしたら。
カナロアに繋がるワノ国をテリトリーにしているカイドウに話せば。"強大な力"と資源豊富な国を手に入れられるのであれば。カイドウはその話に乗るだろう。
「…あァ…。だが、確証はねェ」
「私の考えも長年生きてきた経験則からのものだ。確信は無い」
彼らは今どこに。そう言われてローはドフラミンゴの来た経緯を話した。
彼らがドフラミンゴに海に突き落とされた事については何の疑いも無い。部下であっても邪魔だと思ったら直ぐに切り捨てるあのピンクの羽男の性格をローはよく知っている。
海から上げた時意識は失っていたものの命に別状は無かった。今頃目を覚ましているかと思われる。起きたらドフラミンゴの件についての聴取はペンギンに頼んであるが、
「問い質すか、このまま知らぬフリをして泳がせるか」
アサトが亡くなった今。彼らがこのままこの世界にいることは確定しているが、どういう行動にでるのかは未知数だ。
シロであるなら、己らと共にか別行動でもライを探し、アサトの仇を謳ってドフラミンゴに共に立ち向かおうとするだろう。…だが、もしクロであるならば、
「後者だ。…今はライを奪還することを第一とする」
「…そうだな。その道でいずれ真実は明らかになるはずだ」
持っていきなさい。レイリーは持っていた小さな紙―ライのビブルカードを千切り、ローの前に差し出した。
「…あァ。色々とすまない。感謝する」
「お安い御用だ。彼女の無事を祈っているよ」
去り行くローの背中に一つ視線を送ってレイリーは、再度グラスに手を伸ばした。