「……」
何を思ってルピがそう言ったのかリヴァイには分からなかった。ただ、その目の奥にある闘志、心臓を捧げようとする変わらぬ忠誠。それをこの壁外において拒む理由などどこにも存在しなくて。
「…いいだろう。但し俺の指示に従え」
「分かりました」
「まず奴の行動パターンを探る。殺るのはそれからだ。――ニファ!お前は戻れ!」
「はい!」
ハンジ、仕掛けろ。そう言って刹那ハンジが動く。その様子をリヴァイと共に木に登り伺っていた、…その時。
ズシンズシンズシン_
「っ、リヴァイさん、…反対側からもう一体きます」
なんという絶妙なタイミングだろう。待ってましたと言わんばかりの登場にどうしてこう自分は奇行種を引き寄せるのかなんて、…嬉しくもない感情は心の中に仕舞っておくことにするが。
「ついてねぇな」
「どうしますか」
「…ハンジ!お前にここは任せるぞ!」
「――っえ?!聞こえないなんだって?!」
ハンジは奇行種相手に楽しそうに宙を舞っている。
「…俺はそれを殺りに行く、お前はハンジの指示に従え」
ハンジの声を無視し、ヒュンと音を立てて彼は消えた。相変わらず決断力も行動力も早くハンジへの態度も逸品だなんて、心配よりも敬意を向けてそれを送り出す。
ドクリ、ドクリ。…なんだろう。いつもと違う。全身の細胞が騒ぐような、そんな感じがして止まない。
「――っルピ!リヴァイは!?」
「反対側から奇行種がもう一体来るので、それを殺しに」
リヴァイがその場から消えた事に気付き、一旦ハンジは自分の元へと降りてきた。どうしてそんなに楽しそうなんですかなんて、…愚問なので聞かないでおく事にするが。
「そっか。…アイツなかなか"本性"見せないんだ。ルピも手伝ってくれる」
「了解です」
そうしてルピは反対側の木にアンカーを飛ばし、それの注意を引き始めた。
ハンジを真似てまるで弄ぶようにその周りをうろつくもそれは自分を見ようとしない。本当に遊んでいるハンジにさえ、反応しない。…あの時と、同じだ。
――ドクリ、
『――ルピが、"ルヴ"に?』
『ええ、それも突然――』
――"ルヴ"?
「――っルピ!!」
「っ、!」
少し思考がそれたその隙を突かれるかの如く、突如自分に手を伸ばしてきたそれ。ルピは咄嗟にワイヤを引いて無理矢理身体を逸らした。
ビュッ、_
「ッ…、!」
狭い木々の間での行動が難を呼び、ルピは出っ張っていた木の枝でその腿に多少の傷を付けてしまった。
一旦高いところに身を置き態勢を整える。傷はそう深くはないが、白いそれが綺麗に赤に染まって行くのが目に映って、
――"ルヴ"
…ドクリ、ドクリ。突然脳内に現れた記憶の断片。それはいつのものだろう。ノイズが走るようにハッキリとは映らない。でも、それは、…その"ヒト"は、
『――どうやらこの子はしっかり私の血を引き継いでいたようだ』
ドクリ、ドクリ、疼くように鼓動が上がる。血液が急ぐように全身を巡る。ドクリ、ドクリ、
「っルピ!平気?!」
「……、はい、」
「…、ルピ?」
ハンジがまた隣にやってきたが、ルピは何かを思い出すかの如く自身の右の掌をじっと見つめていた。指先まで血液が循環しているのが分かる。…この感覚。あの時と同じだ。ドクリ、ドクリ、
「ハンジさん、私、」
…あぁ、そうだ。この感覚。身体の中で血液が逆流するように巡って、熱くなって、そして、
『――ルピ、その力は大切に扱いなさい』
ルピはアンカーを飛ばしていた。奇行種が振り返る。手を伸ばす。嬉しそうにその大きく口を開く。
『――それは、この一族に生まれた、"証"だ』
「――ルピっ!!!!」
ハンジの叫びが、森中に響き渡った。