コツコツ、コツ_
「――…、!」
ルピはパッと目を覚まし、何時になくスッとその身体を起こした。
今それに最も敏感になっているのは、自分が知らない場所に閉じ込められているという事も含まれるのだろう。ここから出られるようになるかもしれない。もしかしたらルティルとファルクが迎えに来たという報告があるかもしれないからと。
「……、」
…けれどもその期待が現実になる事はなかった。また誰か来た。音を聞くたびにそう思って、見知らぬ顔に落胆して、その目に蔑まれる。ここに入ってまだ日は浅いが、それにももう慣れてしまった。
どうにも音に敏感だ。眠りが浅いだけだと勝手に自分では思っているが、幼い頃からの習性だろうか。それに嫌気がさした事は何度もあった。…いや、寧ろ嫌な事があったからこそそういう性質を持ってしまったのかもしれない。直る気も直す気も、もうルピには無かった。
「……、?」
今もまた誰かが自分を蔑みに来たのかと思ったが、違う。やけに足音が多い。それにきっとあのお兄さんと、
「――様子は?」
「…相変わらずですね。見張りが交代するたびに起きてました」
ほら、今も。そう言う見張りの前を通り過ぎて檻の前に立ったのはやはりあのお兄さんとそして何故か金髪の男の人だけで、ルピは少し首を傾げた。
最初と同じように金髪の男の人が椅子に腰かける。お兄さんは何か言いたげにこちらを見ていたが、一つ溜息を付いてから壁にもたれかかっていた。
「…(耳がいいのも善し悪しだな)…」
「ルピ、気分はどうだい?」
音がするたびに目を覚ましていたから正直あまり睡眠はとってはいないが、それでも気分が優れないとかそんなことはなくて、ルピは一言「悪くないです」と返す。
「…ルピ、突然だが君に問題だ」
「?」
「君には今ここに、何人の人が見える?」
そう言われて刹那、ルピはキョロキョロと檻の外を見るようにその目を動かしていた。エルヴィンらしいやり方だが、意地が悪いとリヴァイは思う。ルピから見えるのは見張りの二人とエルヴィン、そしてリヴァイの四人だけだろう。ものすごく簡単なようで、そうではない。…エルヴィンの欲しい答えは、彼女の視界の中だけにはないのだから。
「……ええと、…六人、ですか?」
「「!!」」
そうしてルピが出した答えに一番驚いていたのは見張りの二人と、…彼女の前にいない二人だった。
「何故そう思う?」
「お兄さんとあなたの足音以外に、二つ音があったので、」
「……我々の足音がわかるのか?」
「お兄さんのは、何度も聞いたことがあるから覚えてました。…あなたのは、うろ覚えでしたけど、」
お兄さんと金髪の男の人は顔を見合わせており、見張りは驚いた顔で自分を見てきたが、ルピは気にせず話続ける。
「あと、あの時のお姉さんと、……もう一人は、わかりません」
すいません。何故かルピは謝っていた。
「……ハンジのも覚えているのか?」
「…お姉さんの、匂いがしたと思って、」
そう、だから最初ルピは少し不審がったのだ。目の前に現れたのが二人だけで、どうしてお姉さんは姿を見せてくれないのかと。
それにはエルヴィンもリヴァイでさえも驚かされていた。そうして二人が声を出せずにいると、
「――すごいね、鼻も効くんだ!」
「!」
「久しぶり!覚えてる?って今言ったか…」
満面の笑みのお姉さんと、背の高い髭の生えた男の人が現れた。
「今度ミケと勝負だね」
「オイオイ、よしてくれ。俺の威厳がなくなるだろう?」
ミケ、と呼ばれた髭の男の人と目が合う。少しドキッとしたが、その人も優しい目で自分を見てくれていた。
「…………お前、どうしてそんなに耳と鼻がいいんだ?」
どうして、と言われても。ルピには何ら思い当たる節がないし、それに自分自身でそれが優れているなんて思った事が無かった。周りに比べるものが無かったからだ。
「…そう、なんですか?」
「あぁそうだ。この人類にお前みたいな奴はいねぇだろうな」
それはどういう意味なのだろう。良い意味だろうか、悪い意味だろうか。
「……ルピ、結論から言おう」
そうして金髪の男の人が口を開く。今までと違って彼の目が真剣であることに、ルピは何を言われるのかと多少身体を強張らせた。
――調査兵団に、入らないか
皆の目が、一斉に自分に向いた。