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「「?!?!」」


…それは、一瞬の出来事。一番近くにいたであろうグンタ、エルド、オルオ、そしてルピはその爆発によって大きく吹っ飛ばされ、加えてルピは驚きすぎたのと警戒心が働いて飛ばされた瞬間ルヴに変身してしまっていた。


「何だ!?何の爆発だ!?」


その場は熱風と共に上がった土煙で視界がさらに悪くなっており、誰も何が起こったのか把握出来ないまま辺りに広がるはどよめきばかり。

しかしそんな中、誰よりも早くその警戒を解いたのはルピだった。その耳と鼻が、いち早くその元凶を認知したのだ。
はたして"彼"は無事だろうかと考えるよりも先に、しかしそこにある二つのスメルの存在に違和感を覚える。その一つは何度も嗅いだ事のある"それ"特有の臭い。


「…っ、」


…まさか、と思いつつ、ルピはすぐさまそこへ駆け寄って行った。




「――な!?っ何で今ごろ…!!」


次第に晴れる煙に浮かび上がる一つのシルエット。その爆発の中心、酷く動揺しているエレンの下に現れていたのは…彼よりもはるかに大きな物体。

――それは紛れもなく、巨人の身体の一部だった


「エレンっ」

「ルピさんっ、俺っ…!?」

「落ちつけ」


ルピがエレンの元へ辿り着いた時、反対側から聞こえたそれはリヴァイの声。やはり彼も何が起こったのか即座に理解していたのだろう、その声色は至って冷静だったが、


「リヴァイ兵長、こ…これは…」


ただ、リヴァイは全くエレンの方を向いてはおらず、変わらず「落ち着け」とかけられる声が飛ぶはリヴァイの向こう側。この状況にエレン自身が一番戸惑っているのはその表情から良く分かるのに、それ以上に取り乱しているその先の存在は一体誰なのだろう、なんて。


「落ちつけと言っているんだ、お前ら」


晴れる煙の向こう。リヴァイの前、そこにあるのはブレードをしっかりとその手に握った四つの影。

…それは、特別作戦班の四人の姿だった。


「「…!」」


無言で彼らはエレンを囲むように四方へ散らばる。…敵に対面した時の陣形だ。そんな四人の顔に浮かぶそれは、今迄見たこともないものだった。
ルピはそれに少なからずショックを受けた。巨人化したエレンに対してならまだしも、まんまそこに存在しているエレンの姿形に彼らが刃を向けているという事が。


「エレン…!どういうことだ!?」


そうして先陣を切ったのは、エルド。


「は…?!はい!?」

「なぜ今許可も無くやった!?答えろ!!」

「エルド、待て」

「答えろよエレン!!どういうつもりだ!!」

「その腕をピクリとでも動かしてみろ!その瞬間てめぇの首が飛ぶ!!できるぜ!俺は!本当に!試してみるか!?」

「オルオ!落ちつけと言っている!」


リヴァイが止めても止まらないくらい誰もが酷く取り乱している中、それに対してルピは一言も発さなかった。…否、発せなかった。
エレンに向けられているその目。思い出される感覚は、未だ身体に染みついて離れない。…それに彼らにとってその存在がどれほどの脅威だったのか、そこで初めて思い知らされた気がして。


「兵長!エレンから離れて下さい!!…ルピも危ない近すぎる!!」

「いいや離れるべきはお前らの方だ、下がれ」

「何故ですっ!?」

「…ルピ、お前警戒してルヴになったな?」

「、はい」

「しかしだ、コイツは一瞬でそれを解いた。イコールそれは、これが警戒すべき事象では無いと判断したという事だ。違うか?」

「「っ…!!」」


ルピがルヴになると人間時よりもその能力が飛躍する事は立証済。普通の動物でもそう、人より格段に警戒心が強いのは明らかである。
しかしルピがそれを解いた理由の全てがそこにあるとリヴァイは思っていない。新兵にその能力は秘密である事とエレンに対して元からそれを持っていないという事の方が占める割合は大きいのだろうが、それを示す方が説得力があると咄嗟に判断したのだろう。

…けれども、彼らは止まらなかった。例えそれが上官の言葉でも、信頼できる仲間の能力であっても。


「っ、エレン!!何か喋れよ!!」

「!…だ、」

「妙な動きはするな!早く証明しろ!!」

「だから――」

「エレン!!答えろ!!お前は人類にとっての――」

「――ちょっと!!黙ってて下さいよ!!」

「「!!」」


自分自身でも何がなんだか把握出来ていないのに、理不尽に責められ続けるその状況に段々と苛々を募らせていたのだろう。大きく声を上げたエレンに、しかしそれは逆効果だったようで四人が同時にブレードを握るその手に力を込めた、


「エレぇぇぇぇぇぇン!!!」

「「っ!?」」


その瞬間。森の向こうから飛び出してきた声とその持ち主の姿はこの場に全く相応しくないテンションで、しかしある意味ではこの場の四人よりもかなり暴走気味だった。


「その腕触っていいぃぃぃ!?ねぇ!?いいよねぇ!?いいんでしょ!?触るだけだから!!」

「ハ…ハンジさん!?ちょっと待っ――」

「うおおおおおっ、あッ…つい!!!皮膚無いとクッッソ熱ッいぜ!!これ!!すッッげぇ熱いッ!!」


焦るエレンの制止も虚しく、何ら躊躇う事無くそれに触れたハンジはかなり滾っていて止まらない。「分隊長生き急ぎすぎです」と今度はモブリットがかなり焦っていてその場にいた全員はその状況についていけず…いやあからさまに四人は引いていて、ただそれを黙って見ている事しか出来なくて。


「ねぇエレンは熱くないの!?その右手の繋ぎ目どうなってんの!?すごい見たい!!」

「…!」


ハンジがそう言った瞬間何か悟ったのか、エレンは刹那その埋まった右手をそこから抜こうとしていた。
「妙な事をするな」とオルオがそれを止めにかかるが、気にも留めずにエレンは無理矢理その手を引っ張り上げその衝撃で彼はそこから転げ落ちてきて。


「ええ!?ちょっと…エレン!早すぎるって!!まだ調べたい事が――!?」


ハンジの声が何故かフェードアウトしていったが誰もがそれには大して気を向けず。ルピは転がり落ちたエレンに駆け寄り、息の上がっている彼を落ち着かせようとその肩に背中に手を添えた。


「…気分はどうだ?」

「兵長…」


…エレンが見上げるそこにいる四人の顔に未だある、忌諱。


「あまり…良くありません――」


巨人の残骸から上がる蒸気だけが、静かに空に舞っていった。



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