04




ドドッドドッドドッ_


なるべく隊列に遭遇しないよう、注意を払ってルピはその場所を目指していた。


『無理は禁物だ。あくまでその行動を遅らせるのが目的だからな』


エレンが現れてからその価値が薄れていたように思われるが、自分も人類の希望であるという肩書は変わらない。それでも自分にその危険な任務が課せられたのは、それが可能なのが特殊な能力を持つ自分だけであるからこそ。
…背負う重みは何も変わらず今までと同じだが、それでもやはり胸中でざわつく"何か"は強いままに。


ズシン_


ルピはそれを、視界に捉えた。




「!!!」


瞬間目の前に広がったのは、…二人の兵士がそれに踏み潰される光景。ルピはグッと息を飲んだ。

巨人は人を捕食する為だけにそれらを殺すという過程を無意識に行うのであって、意識的には行わない。なのに、それは殺害する目的でその二人を踏み潰した。…他の巨人とは違う。それは奇行種でも何でもなく、やはり知性を持った人が操る巨人だと確信する。
それに、その一瞬の動作でそれがかなり能力の高いものだということが分かった。他の巨人の比でない。体のつくりは明らかに違っていて、皮膚よりも筋肉で覆われている部分のが多いように見える。…なめてかかれば瞬殺されると即座に脳は判断した。


「っ、」


足止めするには踵を狙うのが一番だが、先ほどの兵士達のように踏み潰されて終わりになる可能性がある為簡単には出来そうにない。立体機動の性能を熟知しているのだろう、加えて運動精度が嫌に優れていて反応も早い為、あまりワイヤを伸ばしすぎるのも得策ではないと思える。
傷をつけるのではなく、あくまで足止めに、注意を引く事だけに専念するべきか。建物や木がたくさんあればいいがここは平地。立体機動の扱いには難を要する為ルヴの力がないと厳しいが、…どうする。エルヴィンには特にこの非常事態時のルヴの取り扱いについては命令されてはいないが、


ズシンズシンズシン_


「――!」


…考えている暇はなさそうだった。それは自分に向かって尋常じゃないスピードを見せる。


――ルヴは、最終手段だ


決めて刹那。ルピは傍にあった木に飛び、馬を手放した。




___ッ、


あれこれ考えるよりも本能のままに動いた方が案外上手くいくかもしれないなんて、何の根拠も無いがルピは直ぐに行動に移った。大回りをせずなるべく小回りに、何度も何度もワイヤを入れ替えその視界を、その判断を弄ぶ。

その足は止まっていた。これでかなり引き離せた筈だと、その後ろに回ってうなじを狙うと見せかけて頭の上に乗った、

――瞬間


「――っ、」


フワリと、なびいたその金髪から香ったスメル。ルピの時は一瞬止まった。感覚神経がそれを脳に伝えニューロンが枝分かれしたその先の記憶を呼び起こそうと張り巡る。




――この匂い、どこかで、




「――!!」


刹那。その右手が伸びてくる事に気づいてしかしそれに気を取られていた為避けるタイミングを一つ誤り、その指先に身体を持っていかれた。触れたのは少しの先端だけなのにその驚異的な力によってバランスを崩し、ルピはその後方へ吹っ飛ばされた。


ダァンッ_!


地面に叩きつけられる寸前ルヴに変わりガードしたが、割れるような痛みが全身を走る。


「っ、ぅ――!!」


それが振り返る前に元の姿には戻ったが、肋骨を何本かやられたようで上手く身体が動かせない。…やられた。すぐに動かなければ殺される。それに慈悲は無い。なんら躊躇う事無く人を殺す人間兵器。…でも、それは、


「っ…!!」


影が自分を覆う。それに気づいて顔を上げる。目が合う。


――その目は、




ズシン、ズシン…


「……っ?」


…しかし、それはゆっくりと立ち上がると己に背を向けて走り去ってしまった。自分を殺さずに。自分に止めを刺さずに。…何故。どうして。


――自分を、知っているからか


「…っ、!」


軋む痛みに顔が歪む。それでもルピは立ち上がった。それが向かった先には巨大樹の森。…このままだとリヴァイ班が危ない。

それに、その中身は、その正体は、


「…っ――」


信じられなかった。信じたくなかった。

…ドクリ、ドクリ。全身を駆け巡るように鳴る鼓動の音を保ったまま、ルピは白く姿を変えてそれを追った。



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