07




「「ルピ!?」」

「ルピさん!?」


この鬱蒼と繁った暗い色の中にその白がやたら神々しく光る。誰もがその登場に驚き、…そしてそれは女型も同じだった。


「何でルピが!?作戦には参加してないって――」

「ほらみろ!やっぱりアイツこっそりついて来ていやがったんだよ!!」


怯んだ女型が低姿勢を解く。変わらず走り続けているように見えて、しかし一瞬その足が止まったのを誰もが見逃さなかった。


「走れ!!このまま逃げ切る――!!」


リヴァイはチラリとその方へ目を向けその姿を確認すると、どこか心が安堵しているのを感じながらまた前を見据え走り続けた。

ルピはルヴになったり立体機動を駆使したりして極力女型の足元を縫う形で進行の阻止を試みているが、それを振り返る度にペトラ達もといエレンはかなり肝を冷やしていた。…危なっかしすぎる。女型に瞬殺されてきた兵を幾度となく見ている為、いくらルピともいえど人類の希望と謳われている彼女がそんな危険極まりない行動を勝手出るなんて。
加えてブレードでそれを傷つけるような事は全くせず殺そうともしない事にも誰もが懸念を抱いていたが、…言ってしまえばそれは二の次で彼らは今それどころではない。


「っ兵長…!!」

「進め!!」


一体どこまで逃げ切るというのか。一体どこまで進むというのか。この森の果てはまだまだ見えず、このまま彼女に足止めをさせたまま、何もかも理解しない状況は変わらないまま、


「「「――っ!?!?」」」


刹那。少し開けた空間を横切ったその時。周りに見えていた木々の茶と葉の緑の合間に、別の茶と緑達を彼らが捉えたのも一瞬。


「っ撃て!!!!!」


ドドドドドドドドドドドド_!!!


その声が誰の物かと判断する前に辺りは轟音と共に激しい閃光に溢れていた。何が起こったのか全く把握し切れていないペトラ達とエレンはただただ呆然とその光景を振り返る事しか出来なくて、


「少し進んだ所で馬を繋いだら立体機動に移れ。俺とは一旦別行動だ、班の指揮はエルドに任せる。…適切な距離であの巨人からエレンを隠せ。馬は任せたぞ。…ルピ、お前はこっちだ」


そう言を詰めて刹那リヴァイはその姿を消す。その言葉の意味を置き去りのままの思考回路をフル回転させて噛み砕けば、誰もがその事実にようやくたどり着いていた。


「っまさか…あの巨人を生け捕りに…!?」


ペトラ達はそこでまたと気付く。その為にリヴァイはずっと前を見て走り続けた。仲間が命を賭しても、その目的を果たす為に。…エルヴィンの狙いは、最初からこれだったのだと。


「っどーだエレン!見たか!!あの巨人を捉えたんだぞ!?」

「これが調査兵団の力だ!!舐めてんじゃねえぞこのバカ!!どうだ!?わかったか!?」

「っ、…はい!!」


死に際の瀬戸際にあったような表情だった皆の顔が綻んでいく。ルピはいまだルヴのまま駆けていて、皆のその表情を眺めるかのごとく一人ひとりの横へと並んでいった。


「っ…しっかしクソ!ルピ!!てめえ俺を騙してやがったのか!!!」


オルオに叩かれそうになったのでスラッと交わしてペトラの横に並べば、ペトラは笑ってその頭を撫でてくれた。それがとても温かくて、…あぁ、本当に皆無事でよかっただなんて。


「ルピ、また後でね」


ルピはそれを聞いて刹那、後方へと跳び姿を消した。




 ===




「――動きは止まったようだな」


エルヴィンの横に立ったリヴァイは、それを木の上から見下ろしていた。

莫大な資金をかけて製作された対特定目標拘束兵器から張り巡らされているワイヤの数は計り知れない。ギシギシと懸命に女型が動こうとするたびに軋む音がなるが、もう身動きはとれないだろう。その関節を固定するように、今も尚容赦無く撃ち続けられる兵器。


「まだ油断は出来ない。しかしよくこのポイントまで誘導してくれた」

「後列の班が命を賭して戦ってくれたお陰だ。それと…ルピが最後に駆けつけてこなければ不可能だった」


そうか。とエルヴィンが返す。


「彼らのお陰でコイツのうなじの中にいるヤツと会える」


そのうなじはそれの両手で塞がれていて見えないけれど。そこを守ったのは咄嗟の判断だろうが、その一瞬でその体制をとるとなると相当なやり手だという事が伺える。まさかこの遠征でこんな鬱蒼とした場所でその身を捕らえられるなど思ってもいなかっただろうが、…ざまあねぇな、と心の中で悪態をつく。


「――ルピ、ご苦労だった」


リヴァイに遅れる事数十秒。ルピはルヴの姿のままそこへ現れた。リヴァイとエルヴィンの間に入れば、リヴァイに頭の上に肘を置かれそのまま掻くようにズリズリと鼻筋あたりを撫でられる。


「よく戦ってくれた。お前のお陰だ、ルピ」


そのままルピはその場で伏せの体制をとり、ハッハッといつも以上に荒い息を吐きながら女型を見下ろしていた。
ルヴの姿のまま人間に戻ろうとしないのはどこか痛めたか怪我をしたからだろうと、…リヴァイもエルヴィンもこの時ばかりは単純にそう思っていた。



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