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「――ッ」


身体が熱い。手が震える。視界が歪む。
ドクリ、ドクリと鼓動が煩い。


「…オイ…死ね!!!!」


いまだペトラから足を退けない女型の後ろは隙だらけだった。"戦友"を殺されたオルオはその顔を憎悪に歪めながらそのうなじ目掛けて飛んでいく。
…はたから見れば、またとない絶好の好機。けれどもルピにはそうは映らない。


「っ、だめですオルオ!!!」


精一杯振り絞った声は彼の耳に入らない。そう簡単にそれが殺せたならば、こんなことにはならない。そのうなじをそう簡単に削げるのならば、


ガンッ_!!


響いたのは鈍い音。オルオの握っていた刃は真っ二つに割れた。嫌に綺麗にライトブルーに光る彼女のうなじ。


「…なぜだ…刃が通ら」

「っオル」


最後まで声に成らなかった。その事実に酷く動揺したオルオは女型に背を向けてしまっていて。…またとない絶好の好機、女型はその背を思い切り蹴りあげ、彼を遠くの木にぶち当てる。


「っ、……!!」


血飛沫が、宙を舞った。

手の震えが止まらない。力強く、その柄を握れない。
どうしてこうなった。どうして、どうして、どうして、


――私が


「――こいつを殺す!!!」

「っ、!!」


ほんの数メートル先を飛んでいたエレンから聞こえた怒りの声。それが耳に入ったと同時、女型が現れた時と同じような閃光が目の前を走る。
…目の前の現実から目を背けたかったわけではない。間近のそれに目を開けていられなくて、ルピは不覚にも目を閉じてしまった。


「ウオオオオオオ――!!!」


女型とは異なる雄叫びが喚く。エレンが拳を振り上げる。憎悪、憤慨、闘争、敵愾が溜まったその拳が女型目掛けて思い切り振り切られたと同時。


「っ!!!」


それはあの時とは比べ物にならない程のすさまじい風圧だった。身体中の細胞が危険だと暴れるも、ルピの脳はそれに上手く反応を示す事が出来なくて。


___ッ


…ルピはそれによって飛ばされ、近くの木に叩きつけられ気を失った。




 ===




「――!?」


…それは、リヴァイの耳にハッキリと届いていた。


――この声、まさか


聞こえた方向が進路と若干ずれていた為に、リヴァイは踵を返してすぐさまその方へ向かう。

彼らを探してどのくらいの間飛んでいただろう。嫌に静けさに包まれた空間にどこか心騒ぎが止まらなくて、…そんな中聞こえたその雄叫びが余計それを煽る。女型のものではない。それは恐らく、エレンのものだという確信があった。
彼がその選択をとったという事は、確実に何か"非情事態"が起こっているに違いなくて。…こんな時、彼女の能力があったならば。その位置もすぐに把握出来て、ざわつく胸中にも少しは違いがあったのだろうか、なんて。


「…!」


…その時、ふと。木々の幹、その宿す葉ばかり見ていたリヴァイの視界に飛び込んできたのは、

その枝からぶら下がるようにダラリとうなだれた、グンタ。


「…………」


その先で身体を半分以上失い仰向けに倒れている、エルド。

そのまた先で下半身を抉られうつ伏せ状態でいる、オルオ。


「……」


木に押し付け潰され背中を圧し折られている、ペトラの姿。


「…、」


リヴァイはただ、ただ黙って彼らを上から見下ろしていた。嫌に静けさに包まれた空間に止まらない心騒ぎが指し示した、この現実を。

…そこにそれ以上の遺体は無い。ルピとエレンはここにはいないけれど。



『お前の欲しがってた"トモダチ"とやらは出来たのかと聞いている』



無残にも殺されたそれらの姿は見るに堪えない。食う目的では無く、ただただ邪魔者を排除するという目的で殺されているから、余計。
…だから、そう。



――"トモダチ"、です



…彼女はこれを目の当たりにしたのだろうか、なんて。


「……」


リヴァイはまた、前を向いて進み始めた。
先ほどとは異なる胸中が今までにないほど…憤っているのを感じながら。



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