02




「――遅れて申し訳ない」


ノックの後、最初に部屋に入ってきたのはエルヴィン。そしてその後ろから顔を覗かせたのは、


「アルミン?ミカサも…っジャンまで…!?」


何故三人がエルヴィンと共に来たのか分からないエレンとルピは、…しかし次に彼が発した言葉に愕然とする事となる。


――女型の巨人と思わしき人物を、見つけた、と


「っ…!」

「なっ…!?」

「…順を追って話そう。皆、席に着いてくれ」


そうしてルピの横にはジャン、前にはミカサ。その横にアルミン、そしてエレンの前にエルヴィンが座る。
その際何枚かの紙を渡された。書き詰められたであろうその内容に自然と目が行ったが、…正直なところ今のルピにそれを読んでいる余裕は生まれなかった。


「今度こそ目標…女型の巨人を捕らえる為に作戦を立てた」


決行日は、明後日。その日はエルヴィンら幹部とエレンが王都に招集される事が決まっていて、現状ではエレンの引き渡しは避けられないとエルヴィンも踏んでいる。そうなってしまえば壁の破壊を企む連中をおびき出すのが困難になり人類滅亡の色が濃厚になっていくのは明白だったが、


「…これら全ての危機を打開するべくして作戦は立てられた。これに全てを賭ける」


次は無いだろう。その言葉に誰もが息を飲んでいたが、
…一人、ルピは違う。


「作戦はこうだ」


王都に召喚される途中で通過するストヘス区。憲兵団に護送される際エレンが馬車から抜け出し、そのまま囮となってストヘス区中にある地下通路に目標を誘き寄せる。可能なら地下で巨人化させることなく捕獲するのが目的だが、最下層まで連れ込めばサイズと強度から考えてたとえ目標が巨人化したとしても動きを封じる事は出来るだろう。…ただし、万が一その前に巨人化した場合はエレンも巨人化してその暴走を食い止めてもらう事になるとエルヴィンは言う。


「それで…肝心の目標はストヘス区にいる事は確実なんですか?」

「あぁ。目標は憲兵団に所属している」

「憲兵団…?」


それを割り出したのはアルミンだった。この作戦を立案したのも彼らしく、エルヴィンがそれを採用したらしい。
作戦が始まって刹那女型と接触していたアルミンは、その最中起こった様々な懐疑からそれを推測していた。女型は自分達104期訓練兵団の一人である可能性があり、そしてそれは生け捕りにした二体の巨人を殺した犯人でもあると。


「彼女の名は」


――アニ・レオンハート


シン、と静まり返った室内。この場でその名を、その容姿を知らないのはエルヴィンとリヴァイだけ。…そしてそれに驚いていたのは、エレン"だけ"だった。


「アニが…女型の巨人?」

「……」

「何で…そう思うんだよ…アルミン」

「女型の巨人はエレンの顔を知ってるばかりか、同期でしか知りえないエレンのあだ名『死に急ぎ野郎』に反応を見せた。…何より大きいのは二体の巨人を殺したと思われるのが、アニだからだ」


立体機動を無断で使用した者がいないか訓練兵の中で装置の検査が行われたが、その時はアニも…誰も検挙されずに事なきを得ている。けれどもその時アニの隣にいたアルミンは、…その装置がアニの物ではない事に気付いていた。
あの二体の巨人の殺害には見張りの目を欺き瞬時にそれを成し遂げる高度な技術が必要であり、よって犯人は自らの使い慣れたそれを使用したと考えられる。…だからそう、犯人は―アニは検査時に他の者のそれを提示して追及を逃れたのだ。

――マルコの、立体機動装置を用いて


「は…?どうして…マルコが出てくる…?」

「…わからない…僕の見間違いかもしれな、」

「オイ、ガキ」


エレンに追及され続けるアルミンに言を発したのは、リヴァイだった。
あくまでそれはアルミンの推測。だから彼はずっとそういった体(テイ)で―言葉で話し続けていて、イコール確信的な要素が彼には存在していないという事になる。現にアルミンはリヴァイの「他に根拠が無いのか」という問いに正直に「はい」と答えていて、


「アニは…女型と顔が似てると私は思いました」

「は!?何言ってんだそんな根拠で――」

「つまり…証拠はねぇがやるんだな」


ミカサのそれにも確定的要素は皆無で、エレンはそれらに憤りを感じたのか遂に立ち上がっていた。
…彼はまだ"疑ってる"。どうしても認めたくないのだろう。その気持ちは分からないでもない。きっとアルミンもミカサも心の中ではそうなのだとルピ思う。


「…………証拠なら、」


…でも、もう、知ってしまった。後には戻れない。認めざるを得ない。
彼女の全てを。そして、


――己の、過ちを


「証拠なら、あります」


皆の目が、一斉にルピを向いた。



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