03




「飯はちゃんと食ったか?」

「はい、頂きました」

「そうか、ならいい」


たいした会話もないままリヴァイの後ろをピタリとくっついて歩く。どこに行くかなんて知らないし寧ろ付いて来いと言われたワケでもないのにピタリとくっついて歩く。…ん?自分間違ってないよなと思い始めて数分後。辿りついた場所は、茶色ばかりの殺風景な場所だった。


「ここは調査兵団専用の訓練施設だ」


広いグラウンド。その隅にログハウスのような建物が一つあり、ところどころに訓練で使用するための用具が設置されていた。

二ヵ月後にはここと同じような別の場所で正式な訓練兵として鍛錬する。その時にはおそらく沢山の人間と関わる事が出来るとリヴァイは言った。


「お前、運動経験は?」

「…ファルクとルティルと、森で遊んでいたくらいです」

「そうか。ならあまり期待は出来んな」


まぁ元々していない、なんて。言いながらまた歩き出すリヴァイの後ろに着いていく。
これからすぐに訓練が始まるのだと悟っていた。一体何をするのだろう。どちらかといえば不安よりも幸甚の方が強かった。"訓練"というものに馴染みがない為だろう。


「まずは基礎体力を測る。そうだな」


このグラウンドを線に沿って走り続けろ。ルピは、ポカンとしていた。


「ペースはジョギング程度で構わん。俺が歩いたと見做した時点で終了だ」

「…ジョギングって、何ですか?」

「……"歩く"と"走る"の中間だ」

「…わかりました」


どのくらいの間なんて単位を聞くこともなく、ルピはそそくさと走り出していた。

リヴァイはそれを確認して後、ログハウス前に設置されているベンチに腰掛ける。…もって三十分程度。華奢で体の小さい彼女にそこまでの体力が備わっていないことなど、きっと誰が見たって一目瞭然だろう。

高い位置の太陽に目を向けて今日は絶好のジョギング日和じゃないか、なんて思いつつ、リヴァイは持ってきていた書類に目を通し始めた。







Beherrscher






リヴァイとルピが去って直ぐ、ナナバの元にハンジとモブリットがやって来た。


「やぁ!あの子は良い子にしてた?」

「…ええ。とってもお利口でしたよ」


そうかそうかと嬉しそうにハンジはナナバの隣に腰掛け、モブリットもその横に座る。皆彼女の年を把握していないが、どうにも彼女を"子ども扱い"してしまうのはその見た目のせいだろう。


「……ハンジ分隊長」

「ん?」

「一つ、聞いてもいいでしょうか?」

「なんだい?」


彼女のお世話係をハンジから任された事に対してナナバは特に何も思っていない。周りを見れば一目瞭然。彼女に警戒を向けていないのは自分や目の前の男達ぐらいであろうから。

だからといって彼女の全てに納得しているワケでもない。ナナバにはずっと気になっていたことがあった。いや、ナナバだけではない。おそらくここにいる全員が疑問に思っていた筈だった。


「……どうして巨人はルピに気付かなかったんでしょう?」


その話を聞かされた時に誰しもがそれを問えなかったのは、リヴァイから放たれる圧のせいだろう。人類最強でしかも加えて冷淡完全無欠(あくまで持たれているイメージだが)な彼に刃向かおうとするものなんてこの兵の中にいようか、いいやいまい。


「……巨人が何をもって"人"と認識しているかはまだわからない」


巨人は他の生物に興味を示さない。だから巨人の目的は人の殺戮にあると推測されていて、そして巨人がそれを人だと判断する基準を殆どの者が姿形だと思っている。それを人だと認識するのは人間も同様で第一に視覚であるはずだから。
彼女の形容だって他の人に比べればそりゃ大分小さく小柄ではあるが、誰が見たって人である。

それに彼女はずっと地下の部屋にいた。巨人が視界でそれを判断するのならば、それらに見つからなかった、という話で済む。


「…ただ、私は」


…しかしもしも、巨人がそれを匂いや音でも判断出来るとするならば。いくら地下にいようがいまいが、


「……最初、ルピは"動物"かと思ったんだ」

「え?」


なーんてね。そうとだけ言って笑って、ハンジは来たばかりなのにその場から去っていた。


「「……」」


残されたナナバ達は顔を見合わせるだけで、その場には静けさだけが残っていた。



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