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「「!!!」」


ハンジとモブリットの間に一瞬緊張が走ったが、彼らはすぐにそれを解いた。さすがは分隊長とそのお供(モブリットに失礼)。歩むペースも声色も変えずに先程の巨人地下遊歩説を再び論議し始めている。


"俺が鎧の巨人で、コイツが超大型巨人だ"


…ライナーはもう隠すつもりがないのだろう。淡々とエレンに全てを語りだす。

俺達の目的はこの人類全てに消えてもらうことだったが、しかしそうする必要がなくなった。エレンが俺達と一緒に来てくれるならもう壁を壊したりしなくていいんだ、わかるだろ――と。


「……」


…いや、分からない。至極冷静な自分にも分からないのだからエレンが分かる筈がない。何故この人類全てに消えてもらわねばならないのか。何故エレンが彼等と共に行けば壁を壊さなくて済むのか。そして、何処へ行くのか。


「おーい、行くよー?」


立ち止まって話し込む三人にアルミンが呼びかけ、それにハンジもモブリットも自然と振り返ったので、ルピもそう行動した。

アルミンの後ろにいるミカサに目を向ければ彼女は至極複雑な顔をしていて、…恐らく会話を耳にし、全てを知ったと思われる。
当のエレンは腕を組み空を見上げていた。行くか行かないかを考えているのかその振りをしてどう返すかを考えているのかは定かではないが、


「…………お前さぁ、疲れてんだよ!…なぁ?ベルトルト」

「…!?」

「こうなってもおかしくねぇくらい大変だったんだろ?」

「あ…あぁ、…そうだよ!ライナーは疲れているんだ!」


エレンにしては良い切り替えしだったのでは、と思う。いつも感情任せに突っ走る彼が今はしっかりと命を守っており、これならアニの時のような展開にはならないかもしれないと期待値が上がる。
…ただ、一つ分からないのがベルトルトのその表情と声色だった。彼はエレン同様至極驚いた―いや、信じられないといった顔をしている。ライナーが白状したからベルトルトが超大型巨人で間違いはないのだろうが、…恐らく彼はライナーがここで全てを吐露するなんて想像だにすらしていなかったのだろう。額に浮かんでいく尋常ではない汗が、二人の温度差を物語っている。


「…大体なぁ、お前が人類を殺しまくった鎧の巨人なら、何でそんな相談を俺にしなくちゃなんねぇんだ。そんなこと言われて俺がはい行きますって頷く訳がねぇだろ!」


ライナーはエレンのその答えに驚嘆を浮かべ、ベルトルトは混迷の淵に立たされているような顔をしたまま動かない。


「何だ俺は…本当におかしくなっちまったのか…?」


ライナーのその言葉の真意は分からなかった。「とにかく街に行くぞ」とエレンが上手く誘導し、…そうして事無きを得、この場はやり過ごせたと…誰もがそう、思っていたのに。


「バカな奴等に囲まれて…三年も暮らしたせいだ。俺たちはガキで…何一つ知らなかったんだよ。こんな奴等がいるなんて知らずにいれば…俺は…こんな半端なクソ野郎にならずに済んだのに…」

「…?」

「もう俺には…何が正しい事なのかわからん…」


ヒュオォォ_


…一つ、風が抜ける。この場にあった淀んだ空気を、歯止めのかかっていたライナーのセンティメントを、全てを無に返すような、


「ただ…俺がすべきことは自分のした行いや選択した結果に対し…戦士として最後まで責任を果たす事だ」


まるで独り言のように。自分に言い聞かせるようにライナーは言葉を発し続け、そして右腕に巻かれていた布を取り外していく。


「「…っ!!」」


ウトガルド城で巨人に喰われて負傷した筈だったその腕から発する白い蒸気。それは先程皆が目にした―ユミルから放たれていたものと、同じ。
それを見せつけるかのように掲げるライナー、狼狽えてばかりいたベルトルト。…差の大きかった二人の表情がここで、一致した。


「ライナー…やるんだな…今、ここで…!!」


ミカサが緑の下でブレードを握りしめる。


「あぁ!!勝負は今!!ここで決める――!!」


バシュッ_!!


「「!!!」」


ライナーの言葉が終わると同時。ミカサは瞬時に駆けだしライナーの右腕を肘から切り飛ばした。判断の遅れをとった彼の首に向かって躊躇なく刃を切りつけるもあと一歩のところで届かず、返し刀で動かないベルトルトの首を狙うが浅く致命傷には至らない。


「うわあああああああああああああ――!!」


ベルトルトの悲鳴が壁上へ響き渡り空へと散る。


「エレン逃げて!!」

「ッベルトルト!!!」


またとベルトルトに切りかかろうとするミカサにライナーが体当たりをし吹っ飛んだ彼女は壁上から姿を消したが、


「「!!!?」」


そのすぐ後で現れた白に二人は一瞬気をとられ動きを止めた。


「っ、な――!?」


ルピはベルトルトを壁上から突き落とそうとそのまま彼に突っ込んで行き、彼の身体が舞った後ですぐさまライナーに飛び掛かった。ひ弱そうなベルトルトの超大型巨人よりもライナーの鎧の巨人の方が幾分厄介だと判断したからだ。


「ッエレン!!逃げろ!!」


アルミンもその白の姿に戸惑ってはいたが、声を張り上げ注意を促す。ルピはミカサが跳ね損ねたライナーの首元に噛みつき頸動脈を仕留めようとしたが、


「っう――!!」

「!!!」


ライナーの身体がブワリと熱くなるのを感じ咄嗟に彼から離れて直後、稲妻が二つ迸った。辺りは突然嵐が来たかの如く強風が吹き荒れ、ライナーが鎧の巨人に…そしてベルトルトも超大型巨人へと姿を変えていく。


――遅かった


ルヴを解き、少し離れた場所でその強風を耐え凌ぐルピ。
二人はルヴを知らない。だからそう、女型の時と同じで二人の行動をコンマ一秒でも遅らせることが出来ればこちらに有利だと思いその力を解放した。…けれども、巨人の項をその牙で剥ぐことと人間の生首を噛み千切るのでは、訳が違う。

苦しそうなライナーの声を聴いたら。…その牙が、緩んでしまった。


「…っ、」


ライナーはその一瞬を見逃さなかったのだろう。やはり彼らの方が上手。…不覚。




「――ッエレン!!」


またとアルミンの声が上がり、その方へ目を向ければエレンは既に鎧の巨人の手の中。


「っ…ライナー…」


アニとは比べ物にならない程、ずっとずっと仲が良かった。同じ男として、故郷を無くし故郷へ帰れなくなった者同士、巨人を駆逐し人類を取り戻すと誓った者同士。これからも、この人類の為に調査兵団として戦っていくんだって、


「ベルトルト……!!」


信じていたのに。皆が疑いを持つ中で自分だけは、…最後まで信じていたのに。


「っ、く…!!」


エレンはぐっと目を閉じた。溢れ出しそうな思いを堪え、全てを己の力に変える為、左手をスッと口元へ運ぶ。


「このッ…裏切りもんがあああああああああ――!!」


またと空気を迸った閃光。二体の巨人が出現した時よりも、それは遥かに凄まじいものだった。



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