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一方。


「エレン、しっかりしてください」


着地後。すぐさま二体の交戦が始まったが、鎧の巨人の攻撃は女型の巨人のそれよりも衝動が重く風圧も厳つく、加えて周囲に障害物も然程無い為拳一つでエレンの身体はよく吹っ飛び、鎧を殴るたびにその拳は負傷し蒸気を上げていた。
どちらかといえば戦局は、防戦一方。今もよく吹っ飛ばされたエレンは起き上がることが出来ないのか仰向けのまま倒れていて、右手から上がる蒸気の音が虚しく響く。


ズシン、ズシン、


迫り来る足音に目を向ければ、それほどダメージを受けていなさそうな鎧の巨人が目に映った。
ミカサが足止めしようとその周りを飛び、時たま切りかかるのも気に止めないそれは、同じ歩調を、視線を保ったまま、ゆっくりとその距離を縮めてくる。


「くっ…!!」


まるで攻撃が効かない事にミカサはかなり焦りを抱いていた。エレンの物理攻撃でさえ傷のつかないその根本的な素因は女型の巨人と異なり常に全身が硬く覆われていることであろうが、こうにも歯が立たないとは思いもよらない。虚しく欠けていく自身の刃は残り三本。
…あの時、二人の首をちゃんと刎ね落としていれば、こんな大事にならなくて済んだ。自分なら出来た筈、だった。

――なのに、


「…ッ、エレン!!」


鎧の巨人との距離、あと数メートル。エレンは目だけをギョロリと動かし、その姿を捉える。


「…エレン、ライナーはアニよりもずっと硬いです。無闇やたらに戦っても意味はありません」


その声が聴こえ理解が出来るのかは知らないし、今彼が何を考えているのかも定かではないが、ルピは再びルヴになりエレンと距離をとった。打撃が無意味なのは自身が戦って良く分かっている筈。そしてブレードは無効だとミカサがその攻戦で教えてくれた。…何か策を練らなければこの戦いは消耗戦となり、エレンにとってはキツイ戦いとなるだろう。


ズシン、ズシン、


近づく鎧の巨人。エレンまであと二メートルの距離、…という時だった。


「ウォアアアア――!!」


突如地面から跳ね起きたエレンは咆哮を上げながら鎧の顔面目掛けて拳を打ち込む。しかしそれはやはり致命的な一発には成らず、お返しをするかの如く鎧が右拳をエレンの顔面にぶち込んだ。


ドッ_!!


「エレン!!!」


その拳がめり込んだ左顔半面は粉々に打ち砕かれ衝撃でエレンはまた吹っ飛ばされたが、今度は何とか立ち上がり自我を保っているようだった。しかし、左顔から上がる蒸気、視界は最悪。どんどんと不利な状況に陥っていることは間違い無くて。


「――エレン!だめだ!!殴り合ったってどうにもならない!壁まで来るんだ!!戦ってはダメだ!!」


その時。壁から聞こえてきた声―アルミンだった。ルピと同じようなセリフを吐いた彼なら何か秘策を思いついたのではと、ルピは鎧に注意を向けながら壁の方へと走る。


「ッエレン!!」

「アアアアアーー!!!」


アルミンの声かけになら反応するかと思ったがしかし、エレンはまたと鎧に殴りかかって行ってしまう。
見える壁面にはアルミンとハンジ班の面々。残りは壁上で超大型巨人の相手をしているのだろう、蒸気を上げ続ける巨体の姿が其処にはあった。


「っ、まずい!!」

「我を忘れたか!?」


エレンのその顔―右半面には怒りしかない。またと感情を優先して動いたのだろうかと誰しもが思ったが、


ドゥオン_!!


右拳を振り上げ殴りかかると見せかけ上体を前に屈め、待ち構えていた鎧の拳をスラリとかわしたエレンはそのままその首を固め鷲掴みにし、思い切り地面へと叩きつけたのである。


「おぉ!鎧を投げたぞ!!」

「あれは確か…アニがやっていた技だ…」


エレンに我々の声はしっかり届いていた。彼自身で考え、戦い方を変えたのだ。
鎧は押しのけようと腕を伸ばすが、すかさず覆いかぶさるように抑え込むエレンによってそれは意味を成さず、首にかかったエレンの足によってそれはどんどんと締め上げられていく。


ビキ、ビキ、


「効いてる…!!」

「エレン!!」


鎧の動きが鈍ったのだろう、首を足にひっかけたまま反転したエレンはその右腕を掴み、梃の原理を使ってへし折った。


「やった!!」


鎧が鈍い声と顔を出したからか、思わず駆け寄るミカサ。誰もがそこに勝機を見たがしかし、アルミンだけは冷静だった。


「エレン!!聞こえるか!?逃げるんだ!ひとまず壁まで近づけ!!」

「でも…アルミン!!」

「ライナーはそう簡単に逃がしてはくれない!!」


エレンが上から立ち退いた後、鎧もすぐさま立ち上がった。やはり、一筋縄ではいかない。


「危険だ!!下がれ!!」


鎧の巨人が壁に向かって歩き出す。ハンジ班とアルミンは壁を少し上へ登り、ルピも人間に戻って壁へと飛んだ。



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