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ロッド・レイス討伐の意志を固めたヒストリアもとい調査兵団はそれを追うと同時、エレンが巨人の力をコントロールした力を発揮できないか試していた。


「おい止まれ!てめえに言ってんだ聞こえねえのか馬鹿野郎!!今すぐ止まれ!!ロッド・レイスお前だ!!このちび親父!!」


ロッド・レイスの背中に命令するエレン。だがそれはただの罵倒に終わり、薄暗い闇の中に響くだけ。その巨体は変わらずどこか一心に目指して行く。


「うーん、特に反応は見られないねえ。あの時は叫んだ以外に何かやらなかった?」

「あの時は…必死で…」


巨人化に明確な目的が必要なのと同じで、その力にも何か明確な意図が無いとダメなのか。何か他に発動条件があるのだろうか。コントロールする力がそう易々と使用できるものであるのも考えものだが、今はそれでこの巨体が止まればどんなにいいかと誰もが思い、エレンのそれに期待を寄せる。
今度は殴る素振りを見せながら、止まれ止まれと声を上げ始めるエレン。

変わらず地を這うそれを眺めていたその時。ルピは風に乗ってくる、よく知った匂いを検知した。


「!…エルヴィンさんが来ます」

「「!」」

「――皆、よくやった」


エルヴィンとモブリットと、数名の兵士と合流。なんだかんだルピがエルヴィンに会うのは久しぶりであるが、やはり今はその再会に花を咲かせている余裕はない。


「エレンの叫びは効いてねえ。報告毎はごまんとあるがまず、」

「あの巨人は?」

「ロッド・レイスだ。お前の意見を聞かねえとな…団長――」



===



「――何を考えているエルヴィン!!住民を避難させず街に留めるだと!?夜明け時にはもうあの巨人はここに到達するのだぞ!!」


目標の進んでいる方角を特定した調査兵団は、オルブド区にある駐屯兵団支部へと入った。壁上にて見張りをしていた兵からもその巨大な図体と上がる蒸気は目視できる程で、既に駐屯兵団も人が集められており、調査兵団が到着した時には皆顔には出さないが安堵を浮かべていたように思う。ストヘス区での巨人騒動も他人ごとに思えたあの頃が懐かしいだろう。ローゼの内側かつ北側に位置するこの地、巨人とはほぼ無縁だったこの地に超大型巨人よりも大きな巨人が向かって来るなんて、一体誰が想像できただろうか。


「あの巨人は奇行種です」

「それがなんだというのだ!?」


目標の巨人はより大勢の人間が密集する方へと吸い寄せられる、いわゆる奇行種。小さな村ぐらいでは目もくれずに、この城壁都市に反応するほどの極端な子だ。よって今から急に住民をウォール・シーナ内へ避難させれば、目標はそれに引き寄せられ、ウォール・シーナを破壊し突き進んでしまう。果ては最も人々の密集した王都ミットラスに到達し、人類は破滅的被害を被ることになるだろう。


「つまり、あの巨人はこのオルブド区外壁で仕留めるしかありません」


そのためには囮となる大勢の住民が必要なのだ。だが、民の命を守ることこそが我々兵士の存在意義であることには変わりない。目標を仕留め損なったとしても、住民に一人として死傷者を出さぬよう尽くすとエルヴィンは言った。オルブド区と周辺の住民には緊急避難訓練と称し、状況によってオルブド区外へ移動させやすい体勢を整えると。


「…やるしかないようだな」

「目標は…かつてないほど巨大な身体ですが、それ故にノロマででかい。壁上固定砲の砲撃は大変有効な筈ですが、もし…それでも倒せない場合は…調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません」


皆がエレンに注目した。だが、流石にあの巨体となると、エレンだけで何とかなるとも思えなかった。駐屯兵団には壁上固定砲の準備に取り掛かってもらい、調査兵団は作戦会議を開く。

あの巨人に近づくことが不可能なのはエルヴィンも了知しているようで、立体機動でどうにかしようとは思っていないようだった。固定砲のように爆弾でその身体を吹っ飛ばすしかないだろうと。だが、あの高熱だ。爆弾が届くまでにそれが空中で爆発し、ただの打ち上げ花火になることも安易に想像がつく。


「…つまり。あの巨人を倒すには口の中に火薬ぶち込んで、あわよくば項ごと吹っ飛ばすしかないってことか」

「そうだ」

「あの高熱なら、起爆装置がなくとも勝手に燃えて爆発するだろう。…巨人が都合よく口をあほみてえに開けといてくれればな」

「そうだ。項の表面で爆発しても効果は望めない。必ず内側から爆発させなければならない。…目標はその自重故か顔を大地で削りながら進んでいる。つまり"開く口"すらないのかもしれない」


それが今回の賭けだ。エルヴィンはあの巨人を簡易に描いた紙に、大きな口がありますようにと希望の意味を込めて、その顔にグルグルと円を描きだした。

その全貌が見える瞬間は、それが壁を登ろうとした時だろう。あの手足で何の支えもなくその場に起立することは困難と思われる。よって、その壁に手をかけてその体を起こし壁を越えようとする筈だと。
あの細い手のことだ。爆発の威力のみで体勢は崩れ、身体ごと壁の縁に落ちるだろう。そこに爆薬を持ったエレンが突っ込む。口に爆薬を突っ込み木端微塵に肉片が飛び散れば、後は本体を探し出して止めを刺せばいい。

随分簡単に言いやがるなんて。だが、こうしている間にもそれは着々とこちらに向かって来ている。今思いつく限りの最善策に死力を尽くすしかない。


「手を吹っ飛ばす爆弾についても考えなきゃね…人が近づかなくても、それだけが勝手に動くように…」


「ようしやるぞー!」と上がらない上腕固定帯を付けた左腕の代わりに高々と右手を上げたハンジは、モブリットとその他数名をを連れてその場を出て行った。
休む間もなく装備を整え、一行は駐屯兵団支部を後にする。外は少しずつ、明るくなっていた。


===


「――こんな早朝に叩き起こされて避難訓練だって言われりゃ…今日暴動が起こったって不思議じゃないな。しかも王政が兵団に乗っ取られた直後と来てる」


壁の上から見下ろす街並み。ストヘス区と違い何の損傷もない場所。朝日に照らされた屋根の反射の光がキラキラと眩しくて、それはここに住む住人の心を表しているかのようにも思える。
自分たちには到底感じることのできない平和なひとときを、また今日という何事もない日を、いつもと同じ日を過ごすと思ってこの朝を迎えているだろう。…今ここにいる調査兵団を囲む空気とは、真逆の空気を吸って。


「サシャ?まだ何も食べてないみたいだけど…」

「えぇ…食欲がなくて…」

「本当か?!大丈夫かよお前!?」


エレンはそれに大層驚きを見せた。あのサシャが「食欲が湧かない」と言う日が今までにあっただろうか。サシャが元気の無いときは大概お腹が空いている時だ。でも今その元気が無いのが空腹を通り越した先に起因する事があるなんて、


「俺もだ。ああ何だろうな…さっきまで散々人殺しまくってたせいかもな」

「え?!」


人と争うかもしれない。そう感じながらもエレンはそうなる前に戦線を離脱しているため知らなくて当たり前だが、まさかそんなことにまでなっているとは思わなかっただろう。
覚悟はしたもののその現実を受け止めるのにはまだ時間が必要なのか、誰もそれ以上そのことに触れようとはせず、視線のみ逸らす。


「色々あったんだよ…あんだけ色々あってもまだこの一日が終わらねえなんて…ここさえ凌げば先が見えてきそうなのに…しくじりゃあの巨人とこの壁ン中で人類強制参加型地獄の鬼ごっこだ。あの王様がバカやんなきゃこんなことにはよお…」

「それ私のせいなの」

「え?」


そうして声の方を振り返れば。立体機動装置を身に着けた、…この壁の真の王の姿。


「ヒストリア…お前…その格好…」

「っていうかダメだろここに来ちゃ!」

「おいヒストリア。お前は戦闘に参加できない。安全な場所で待機だと命令されたはずだ。そりゃなんのつもりだ?」

「自分の運命に決着をつけにきました。逃げるか戦うか…選べと言ったのは、リヴァイ兵士長、あなたです」


正鵠を射られ、リヴァイは何も言えなくなった。偽りの王とは異なり自身が戦う姿を見せるのは大層な事だが、その身を賭されてしまっては元も子もない。まだ即位すらしていないのに、だ。


ドォゥン_!!


…だが、今はそんなことを言い争っている時間すらなさそうだ。
固定砲の射程距離内。巨大な手が、大きく振りかぶって侵入した。



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