——その日。ルピは昼前に叩き起こされた。
ハロルド達は交代制だが、ルピは常に夜勤を行っているため、完全に昼夜逆転の生活をしている。今まで規則正しい生活を送ってきた身にとっていきなりの不規則生活は最初こそ堪えたものの、ルヴになっていれば幾分体力回復も早いので、部屋の中でもルヴになっていることが多くなった。
そのため、リヴァイともあまり顔を合わせていない。彼が帰ってきた頃に自分は部屋を出ていくし、自分が帰還した時には彼は部屋にはいない。自分が寝ている時にリヴァイはもとい、他の者が部屋を訪れる事も皆無。恐らく気を遣ってくれているのだろうと思うが、専ら自分に用がないというのが正しいだろう。
…だが、この日は違った。控えめにされたノック音。スッと首をあげ扉の方を見続ければ、控えめに開いた扉から顔を出したのはミカサだった。そしてハッとして姿を元に戻す。まだ脳が寝ていたのかもしれない。入ってきたのがミカサで良かったと酷く安心した。
「お休み中すみません…ハンジさんがルピさんもって…」
「?」
「新兵器のお披露目会だそうです」
「新兵器——?」
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「——お、きたきた。ルピ〜、寝ているところごめんよ。リヴァイがルピにも見せておけって煩くてさ」
「いえ、おはようございますハンジさん」
ミカサに着いていき案内された別の建物内の部屋に入れば、既に待っていたであろう面々が一斉にこっちを向き、敬礼された。思っていた人数より遥かに多い数がそこにはいて思わず足を止めそうになる。見知った顔は先頭列に並んでいるが、その後ろにいる者達はまったく知らない顔ばかり。どうやら勧誘にて入った新兵達のようだ、よく見ればジャンとコニーの間にマルロの顔があった。やっぱり彼は入団したのかと、綺麗な敬礼達に会釈を返しハンジの方へ向かう。
「……この鉄の棒が新兵器ですか?」
「ルピ〜せめて槍と言ってくれよ。技術班は私の要望に答えてくれたんだ。中央憲兵が隠し持っていた新技術を導入してね」
ハンジの立つ前にある机の上に、何本も置いてある銀色の長細い物。言われてよくよく見れば、確かに先は尖っている。長さはかなり長い。自分の身長と同じくらいありそうである。
「私の要望とはつまり、鎧の巨人に対抗できる武器が必要ってことだ」
「…鎧の巨人に!?」
「私たちの刃は鎧の巨人には無力だった。敵が硬質化の隙でも見せてくれない限り、私たちは…ただエレンと鎧の戦いを眺めることしかできなかった」
「確かに…エレンを連れ去って走る鎧を止めることもできなかった…」
「あの時…団長が巨人の大群を引き連れてこなかったら…」
ウドガルド城から帰還した後の戦い、そしてその後の巨大樹の森での戦い。確かにどちらもかなり苦戦した事を思い出す。全身硬化で固められた巨人相手に主戦力であるルピやミカサでも適わず、自分達が出来たのは動きを錯乱させたり止めたりするようなアシスト。そして…同期からの説得のみだった。
「今のところ、鎧の巨人に対抗できる攻撃手段は巨人化したエレンの閉め技や関節技…それと先日の実験で獲得した硬質化パンチも期待できる。…しかし、その武器だけで作戦を達成させるのは困難だろう。壁の穴をふさぐのも重要だが、我々は何より、壁の破壊者であるライナーとベルトルトを、」
殺さなければならないのだから。
…少し語気を強められたその言葉に、息を飲んだのは104期達。
巨人だけを相手にしていればいいと思っていた。だが、そうも言っていられない情況になり、人を殺める覚悟を持った。そしてまた対巨人に戻ってきたわけだが、単に対巨人というわけではないこと、104期達は理解している。最終目標であるシガンシナ区奪還。その時には必ず彼らとの再戦が待っていて、巨人であり人間である彼らを今度こそ討ち取らねばならぬことを。
「…それで…その槍を…鎧の巨人に刺そうっていうんですか?」
「見たほうが早い、外に行くよ」
ドォォォン__!!
ドゥン__!!
「「!!!!」」
雲一つない快晴の下、雷のような轟音の後、大きな樹が真っ二つとなり目の前に倒れていった。
立体機動装置のアンカー射出部分の下に取り付けられた先程の長い槍。アンカー射出と同様の原理でトリガーを握り発射し、対象に撃ち込んだ後、起爆用のワイヤーを引き抜くことで爆発する仕組みだそうだ。
ハンジから予め「かなり大きい音がするから吃驚してルヴにならないように」と忠告を受けていたためそれには至らなかったが、予め分かっていたとしてもこれは自分の耳にはかなりくると思った。リヴァイが自分に見せておけと言ったのはこの兵器の使用に慣れておけではなく、この音に慣れておけの意味だったのではないだろうかとルピは思う。…雷が苦手なことをちゃんと覚えていてくれたようだ。
「威力は見ての通り。雷が落ちたみたいだろう?だから雷槍って呼んでる。ただこれで本当に鎧を仕留められるのか…実際に打ち込んでみないことにはわからない」
鈍重な巨人にはかなり有効だろうが、この武器には弱点もあった。破壊力が凄まじい故に、撃った本人にさえ危険が及ぶのだ。通常の刃の斬撃のようにして巨人にアンカーを打ち込めば飛び込んだ先で巻き添えを食らってしまう為、撃ち込んだ後にアンカーを建物等、巨人とは別の立体物に刺して避難しなければならない。つまり、雷槍で攻撃できる条件は目標の周囲に十分な立体物がある時に限られるとハンジは言う。
「こいつを鎧に食らわせてやるには、工夫しないとね」
今後はこの武器を使いこなす訓練も追加されるだろう。…自分たちに使いこなせるだろうかと新兵たちが心配を吐露し出す中。104期達は雷槍を撃ち込まれ、真っ二つにへし折られた木を思案顔でただただ見ている。何を想像しただろう。自分たちが雷槍をライナーに撃ち込む瞬間だろうか。第三者が雷槍を撃ち込み爆発させた後のライナーだろうか。
「……」
着々と近づいてくるその日を前に。新たな覚悟はまだその場に浸透していそうにないことを感じ取りながら。折れた樹に重なるライナーの姿をルピはただ眺めていた。