12




――その日の夜

荒れた天候は治まるどころか酷くなっており、大雨に加えてとうとうルピが一番恐れていた事態となっていた。


ゴロゴロゴロ…


「…………」


雷だ。雷が鳴っている。それもすぐ近くで。…あぁ、最悪だと思った。

いつからそれが嫌いになったのかは記憶の底にもない。けれど、どうしてもルピはそれだけが苦手だった。いつかそれが自分に落ちてくるのではないかという恐怖。そんな確率何分の何だかなんて知らないし、そんな事を考える方が可笑しいのかもしれない。
でも、怖いものは怖い。だって仕方ないじゃないか(え○り君風)。


「っ、」


それが鳴るたびにルピは布団を被りなおしたり寝返りを打ったりと忙しなくしていた。どうにかして聞こえなくなる方法はないだろうか。どうにかして天気を良くする方法はないだろうかとそんなことばかりを考えていて、


ゴロゴロゴロ…


――リヴァイは、ルピのそれに気付いていた


「……、」


その音はもうリヴァイにだって聞こえるほど大きく鳴っている。雨音とそれのせいでか、リヴァイもなかなか寝付けなかった。

そうしてその方へ目を向ければ、表情こそ見えないがルピは布団の中でモゾモゾと動いている。怪しことこの上ないが、きっと怯えているのだろうと思った。以前彼女が雷が苦手と言っていたのを、リヴァイはしっかり覚えていたから。


「…………ルピ、」

「!」


気付けば自分はその名を呼んでいて、その声に反応してルピはゆっくりと布団の中から顔を出す。泣いている様子はない。…まぁ、雷如きで泣かれては困るっちゃ困るのだが。


「……怖ぇんだろ」


今まで二人は、そう、ごく普通にこの部屋で暮らして来た。訓練が終われば各々風呂へ入って、ご飯を食べて、そして各々布団に入って寝る。朝起きるのはルピが多少早いくらいで、そうしてまたご飯を食べ訓練へと向かう。その繰り返し。それが二人のリズムで、それが狂った事は無い。もはやそれは習慣と化していて、そう、互いにそれに変化を求めようとは考えてもいなかった。


「…ただのデケェ音じゃねぇか」


ルピがリヴァイへ目を向けると、暗くてよく見えないが片肘をついて横になりこちらを見ていた。その間も鳴りやまないそれ。


「お前はガキだな」

「、…すいません」

「……ったく、人の安眠を妨害しやがって」

「……すいませ、」


ん?それは私のせいですかと言おうとした刹那。リヴァイは何故か立ちあがっていて、そして何故か自分の方へと向かっていて、


「……オイ、詰めろ」

「っ、はい、?」


俺の寝るスペースがねぇだろうが。そうしてリヴァイは自分の布団の中に入ってきた。


「……、」


急に温かみを増した布団、そして傍にあるその温もり。今まで気になって仕方なかった雷の音は何故か遠い。…目の前の状況を把握するのに精一杯だったのかもしれない。


「……あの、」

「…なんだ」

「…………ありがとう、ございます」


それでもルピはその言葉を口にしていた。
雷が鳴った時は"あの頃"いつもファルクとルティルが必ず傍にいてくれて、その恐怖を和らげてくれていた。その事をリヴァイに話した記憶はないが、それでもこうして彼がここにいてくれるということはイコールそういう事だろう。

リヴァイは多くを語らない。でも、それでもよかった。ポンポンとぶっきらぼうだが頭を撫ぜるその手はすごく優しくて。ルピの心の中の恐怖は薄れていた。


「……おやすみなさい」

「…あぁ、」


その言葉を交わすのは本日二度目だが、一度目よりもどこか安心しきった声だったようにリヴァイは思う。

…どうしてだろう。行動してから己のそれを顧みる。そうして彼女を安心させようとしたのに特別な意味はなくて、同じ布団に入ってどうこうしようとかそんな事も微塵もないし考えた事だって無い。彼女も同じ感覚だろうという思いはあった。
そう、これはその日常に突如入りこんだイレギュラーな出来事なだけであって、これが最初で最後だという感覚であって、


「……、」


…明日の事なんて、関係ないのだと。



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