「――…ルピ?」
「っ!」
あの後ルピはいてもたってもいられなくなって"人"の姿を探していた。誰でもよかった。とにかく知った顔を、その目に映したかった。
「っ、え、と」
そうして兵舎の外に出た時、名を呼ばれてその足を止めた。その顔は見た事がある。いつもハンジの隣にいる人だ。アイツ以外にハンジの部下は務まらないといった、リヴァイも認めるすごい人。そして自分を警戒していない人のうちの一人。…ええと、
「……」
「僕はモブリットだ。そういやこうして話すのは初めてかな」
…そうだ、モブリット。もう忘れない。ルピは謝る代わりに一つお辞儀をして挨拶をした。
「どうした?兵長はここにはいないよ」
「…いえ、あの…」
そうしてルピはモブリットから詳しい話を聞いた。
エルヴィンやハンジ、ナナバにゲルガーやトーマは生きていて今は負傷者の手当てなどに追われてここにはおらず、今モブリットは他の兵と共に戦死者を葬っているところだと言った。
そこには燃えて赤く染まる何かが積まれていて、それが出す煙が夕陽に染まった空の赤を黒く染め上げていく。
「……、」
ルピは黙って見上げていた。同じ兵舎にいたにもかかわらず名も知らないまま、もしかしたら顔も把握していないままいなくなってしまった人たちが今、灰となって空へ舞っていく光景を。
「これだけは、何度やっても慣れないんだよなぁ」
見てみろ。言われてモブリットが顔を向けた方を見やると、そこには泣き崩れる女の人、呆然と立ち尽くしている男の人、悔しそうにその拳を握り震わせている人、さまざまな人の姿があった。
姿は様々でも、皆の表情にはどこか共通しているものがある。ルピは最初それに少し驚いた。皆が皆、その感情を―悲しみを曝け出しているから。
「……」
それを思ったのは、最初にリヴァイを見たからだろう。リヴァイの様子はそりゃいつもに比べれば違ったが、それでもそこまでの変化は無かった。そう、言ってしまえば普通だったように思う。
隣に立つモブリットだって一緒だ。その表情に悲しみがあるか、と言われれば、そうでもないように思える。
「…モブリットさんは、悲しくないですか」
「悲しいよ、とてもね。…でも、違うんだ」
「?」
「……兵の敬礼の仕方、覚えてるかい?」
「、はい」
右手を左胸に置くその型は、公にその心臓を捧げるという意味だと一番最初に教わった。それは調査兵団だけでない。憲兵団も、駐屯兵団だって同じ。皆その心にそれを刻んで、それを誓う。
それでも、現実はそうもいかない。最初はモブリットも彼らのように嘆いていた。巨人に遭遇すれば誰でも最初はその恐怖心に負ける。そうして死を恐れる。一度壁外に出て心が折れる者はそう少なくない、寧ろ戦死者より多いかもしれないとモブリットは言った。
「人類の為、未来の為、そう叫ぶのは全て…自分が生きる為だった」
「…、」
「でも、リヴァイ兵長に言われたんだ」
――嘆いている暇があったら、命を絶った彼らの分まで生きて、尽くせ
「…あの人は、本当に強い人だと心から思うよ」
「……」
そんな兵長に認められたんだ、君は絶対強くなる、なんて。モブリットはこんな時でも笑っていた。
――お前は、俺以上に強くなれよ
「……、」
あの時のリヴァイの言葉が頭を掠める。どういう意味でリヴァイはそれを自分に言ったのかはわからない。それでもルピは、自分がこうしてここに居る意義を悟った気がした。
「…あの、私にも何か手伝わせて下さい」
「…え?」
「お願いします」
ルピはそう言って頭をモブリットに下げる。そうしてモブリットがあたふたしているのを、
「……――」
…リヴァイは、ただ遠くから見ていた。