ガチャ、
「――!」
「っあ、もういたんだ?」
その日は注意事項・今後の予定などの説明だけで訓練という訓練はなく、その後訓練兵は食事をする部屋に集まって雑談をする者、部屋に戻っていく者のキッパリ二手に分かれており、ルピは後者の方だった。
「私はペトラ・ラル。あなたは?」
そうして部屋に入れば、そこは二人部屋だった。リヴァイの部屋の半分くらいの大きさだろうか。ベッドは二段ベッドになっていて、小さなテーブルが一つと洋服ダンスが一つあるだけの殺風景なものだった。
ルピは少し息を吐くと、静かに床に座っていた。もう一人、誰かと一緒にこの部屋を使う。それを思えばベッドはどちらを使うのかとか、それなりのルールを決めなければならないだろう。リヴァイの部屋を使わせてもらう時にルールがあった為、ルピはそれが決まるまで部屋の物に触らぬようにとりあえず床で待機することにしたのだ。
「……ルピ・ヘルガーです」
「ルピ、可愛い名前だね。よろしくね」
「…よろしく、お願いします」
そうしてドアの向こうから顔をひょっこり覗かせ、ルピを見るや否やニッコリと笑ったその人。第一印象は明るくて可愛い人というなんともありがちなものだったが、絶対悪い人じゃない。ルピの直感はそう言っていた。
「ルピはどこ出身なの――?」
それからルピはペトラからたくさん質問をされた。
出身や自身の事についてはリヴァイから事前に"設定"を貰っていて、それに即して話すように言われている。何故かは知らないしルピは聞かなかった。自分にとっても、その方が都合が良かったから。
「――そっかー、ルピはどの兵団に入るかもう決めてるの?」
「えと、調査兵団です」
「…本当に?え、ねぇ、なんで?」
ルピは少し口籠った。自分が調査兵団へ誘われていること、リヴァイの特別訓練を受けていたことは彼だけでなくエルヴィンからも他言するなと口止めされている。これまた理由は知らないが、ルピは勝手に皆と平等にする為だと思っていた。…リヴァイの修練を受けている時点でそれは成り立たないのかもしれないが。
「……必要とされてるから、です」
今までマシンガンのように話し続けていたペトラは、それを聞いてポカンと口を開けたまま固まってしまった。…表情がペトラはコロコロ変わる。今だに無表情が治らないルピには、それが不思議だった。
「そっか、…すごいね、ルピは」
「…?」
そう言って先ほどよりも浅く笑ったペトラ。何がすごいのか、どうしてペトラがそんな表情をしたのか、ルピはこの時まだよくわからなかった。
Beherrscher
「――今から貴様らの適性を見る!」
早朝から始まったのは初歩中の初歩と言われる体のバランスをとる訓練だった。全身の筋肉の使い方が重要になり、これによって立体機動の向き不向きが決まる…というよりこれが出来なければ兵団に入る資格を失う。ここがこの訓練兵の今後を左右する事になる。
苦戦している者となんとか保っている者と半々くらいに別れたが、それでも全く出来ないという人はいなかった。
言わずもがなルピはこれをサラリとクリアしており、そして今もサラリとこなしていた。周りから少しの歓声が上がり、ルピは少々恥ずかしくなったが。
「――ルピ・ヘルガー」
「!」
それを終え集団の後ろに回ったルピは、そこで初めてあのキースに話しかけられた。
「エルヴィンから話は聞いているぞ。随分優秀らしいな」
「エルヴィンさんから…?」
キースは昔調査兵団の団長をしていて、エルヴィンはその当時彼の部下だったそうだ。
ルピが訓練兵になる前にエルヴィンに会い、宜しく頼むと言われたらしい。どうして団長の座を退いたのかとか詳しい事はキースは言わなかったが、ルピも聞こうとはしなかった。
「リヴァイの訓練を受けていたそうだな」
「はい」
「奴らの"飼い犬"だからって俺は容赦しないからな。いいな?」
「…はい、大丈夫です」
飼い犬とは何ぞや、どうしてあの時自分に何も聞いてくれなかったのか少々聞きたい気持ちはあったが、キースはそれだけ言うとそそくさと去っていった。
もしあの人が今団長だったら、自分をエルヴィンと同じように受け入れてくれていただろうか、なんて。
「……」
エルヴィンの元上官。それだけで、いつしか強面な彼にも親近感が湧くようになっていた。