「――ルピ!大丈夫だった!?」
「…、え?」
その後皆のところに戻ったルピはすぐに彼らに周りを囲まれてしまった。
一瞬何故スターのような事態に自分が陥ってるのかと混乱したが、リヴァイの注意を受けに行ったという"仮の設定"をそこでようやく思いだしてルピは必死で繕うハメになった。
「あ、えと……大丈夫でした」
「酷い事されてない!?」
殴るとか蹴るとか言うペトラは一体リヴァイを何だと思っているのだろう。オルオは自分を何故か憧れの目で見始めていた。あのリヴァイ兵士長と話したという事だけでこんなに崇められるなんて、本当に彼はすごい人なんだと今一度思い知らされていた。
「――…あの、」
そうして訓練終了の鐘が鳴り、ひと段落したその場から皆が去っていった後。ルピはいつもいるメンバーを呼びとめた。
「ん?どうしたの?」
「お前まさか呼び出された間に出来なかった訓練やろうとか言いだすんじゃねぇだろうな?」
「違います、その、」
「なんだよ?」
「…………私たちは、"トモダチ"ですか?」
「「…は?」」
いきなりの質問に皆が上ずった声を上げる。
ルピ自身変な事を聞いているつもりは無い。寧ろ自分にとってそれは重要な事だ。あの時リヴァイに自信を持ってそう言えなかったのが心の中でひっかかっていた。もしかしたらそう思っているのは自分だけなのではないかという不安が、どこからか湧いて来たのだ。
「お前な、トモダチってまた呑気な…」
「トモダチというより、仲間って言う方が相応しいんじゃない?」
「……何が違うんですか?」
「…そう言われると、そうだね…」
「まぁ…なんつーの?トモダチってのは子どもが使う言葉で、仲間ってのは大人が使う言葉だな!」
「……オルオ、それは違うと思うけど」
「いいじゃねえか、ルピにはその方が分かりやすいだろ?」
ルピとも大分長い付き合いになる彼らは、自分たちに比べて彼女に十分な教養が備わっていない事などお見通しだった。
ルピ自身は語彙力は増えていると自負しているが、それでもまだまだ不十分なのは兵法書が読めない事で明らかである。彼女のどこか一歩引いたような接し方、誰にも丁寧に対応する話し方もきっと何かしらの事情があっての事だろうというのも誰もが理解していたが、…それでも誰も彼女にそれを問う事はしなかった。
「まぁ〜あれだルピ。俺達は、同志だ」
「??」
「っおいニッグ!またややこしい言葉を!!」
「まぁ聞けよ。これは俺の持論だがな、」
トモダチとは一緒に遊んだりする親しい者。仲間とは同じ事をこなし理解し合える者。そして同志とは同じ目的を持ち互いに尊敬し合える者のこと。そうニッグは胸を張って言ったが、
「……ニッグ、」
「「「すげーわかりにくい」」」
「っな!!」
「ほら、現にルピの頭の上にハテナがいっぱい浮かんでるじゃない」
「ルピ、これからだ、本題はこれからだ」
要は同志とはトモダチと仲間を兼ね備えたものでより強靭な絆で結ばれた者だとその後もニッグは語っていたが、やはりルピには何のことやらサッパリだった。
それからニッグ発信のその持論にオルオとペトラが異議を唱え、何やら議論が始まってしまった。…やっぱり変な事を聞いたのかもしれないとルピは少し後悔し始めたが、
「ルピ、気にするな。どれも同じさ」
「…?」
タクの持論はこうだ。トモダチは作るもの。仲間は自然と集まるもの。同志は意識して集まるもの。こうしていつも一緒にいる時点で自分達は仲間であって、時にはトモダチのように接して、そしていずれ同志として兵士の役割を果たしていくのだと。
「…要は言い方の問題だと俺は思うぜ?」
それにそんな事気にする必要など無い。言わなくとも、ここにいる者達は皆仲間だと認識しているとタクは言ってくれた。
「……あの、」
「なんだ?」
彼らの話を完全に理解したかと言われると自信はないが、それでもルピの心は十分満たされていた。
トモダチ、仲間、同志。自分達はどれも兼ね備えた存在。いつも一緒にいるだけで、成り立つもの。
「……いえ、なんでもないです」
この関係をこれからも大切にしたいと、今だ議論し合っている声を聞きながら、ルピは一人そう思った。