「――おい聞いたか?この前大規模な作戦があったって」
あれから一ヶ月以上たったある日。その噂はリヴァイが言った通り瞬く間に広まっていた。
「聞いた聞いた!内容は知らないけど」
「かなりの被害が出たらしいぜ――」
訓練兵はかなり慄いていた。真実を知らない彼らにとっては巨人に廃したというその事実が全てであって、そして自分達がこれからその命運に挑むのだと思っての事だろう。
「午後から訓練ナシって本当?」
「あぁ、何でか知らねえけど急にだ」
その理由を気にする者は誰もいなかった。訓練兵にとって半日という時間はこの上ない休息の時間だからだろう。教官からは自主練をするようにとは言われているがこれといった拘束も無い為、街に出ようとする者、残って休む者の割合は半々くらいで、
「私、家族に会ってこようかな」
「俺は寝るわ」
「お前はどうする――?」
ルピは、今回は前者の方だった。
===
ルピは一人調査兵団兵舎の前にいた。誰に会いに来たとかきっとそんな明確な目的はなかったように思う。ただ、気になった。かなりの被害が出たと聞いたら、あの場でじっとしていられなかったのだ。
しかしいざその場に着いたら、どうしたらよいか分からなくなっていた。調査兵団は戦地にいたから後処理で忙しいかもしれないのに来てしまった。特別休暇だからといって浮かれて行くには気が重く、だからといって今更引き返すのもどうかと思った、
「――っ!」
その時。知った匂いを感知してその方へ眼を向ければ、
「……ルピ?」
そこには、懐かしい人達の姿があった。
「おおうルピ!久しぶりじゃねえか!!」
「お前デカ……くなってねえなあ!!」
ルピはすぐさまそこへ駆け寄っていた。ゲルガーに思い切り頭を撫でられトーマにはバシッと肩を叩かれ、ナナバは相変わらず優しく微笑んでくれている。あの時と何ら変わりない彼らの姿がそこにあって、ルピはすごく嬉しくなった。
「調査兵団兵舎の前に来る訓練なんてあったか?」
「午後の訓練が急に無くなったんです。それで…」
「……まぁ〜そんな日もあるわな!」
「兵長には会ったのか?」
「…まだ、です」
「せっかくだから団長にも会っていけば?」
きっと喜ぶよ。そう言われ、ルピはナナバ達の後について行った。
===
「――っルピーーー!!久しぶりじゃないかあ!!」
「っ、ハンジ、さん」
ナナバ達と話しながらエルヴィンの部屋に行くと、そこにはちょうど皆揃っていて、
「元気だったかい!?ちょっと大きく…はなってないね!!相変わらずだ!!」
「……ハンジ。そのままだとルピの元気が無くなっていく」
ハンジの熱い…いや熱すぎる抱擁を受けていたルピはリヴァイがハンジを蹴り倒した事によってそれから解放されていた。
息が詰まるほど抱きしめられたのはこれが初めてだが、死ぬかもしれないなんて冗談でも思ったのも初めてだ。しかしハンジの喜びようがルピも嬉しいのであえてそこは気にしない。
「ルピ、よく来たな。元気そうでなによりだ」
「さっきまでまで死にかけていたけどな」
「今迄忙しかったんだが、ルピの顔を見たら疲れが吹っ飛んだよ」
「ジジイみたいなことを言うな、エルヴィン」
「リヴァイだってそう思ってるクセ――!」
「テメェはいつも一言多いんだこのクソが」
ハンジがリヴァイに"苛め"られているのをモブリットがあたふたと止めに入っている。今までそんな光景見た事無かったが、エルヴィンは笑って日常茶飯事だよと言う。
「ルピ、休みはいつまで?」
「明日の朝からはまた訓練があると思います」
「じゃあ今晩は平気だね。皆で飯でも行かないか?」
それに苛められていたハンジが大きく賛成していた。突然の訪問にも関わらず、自分がここへ来た事を咎めずにとても温かく(ハンジのは熱すぎたが)迎えてくれる存在がここにはある。それを思えば自然とルピの顔には笑みが浮かんでいた。
「――…変わったな、」
テンションの大分上がってしまったハンジに連れられルピが部屋を出ていって後、エルヴィンがそうポツリと呟いた。先ほどのルピの表情を見てのことだろう。
「いい仲間に巡り会えたんだろうな」
「昔は笑うどころか表情さえ変えなかったのにな」
彼女を変えた一番の存在が自分たちである事を彼らは知らないが、…それでも彼らにとってそんな事はどうでもよかった。
「……リヴァイ、嫉妬か?」
「誰が嫉妬だ」
彼女がそうして存在していてくれれば、それだけで彼らには十分だった。