「ルピ、お前これ好きだろ?」
「え?…あ、はい、」
「水いるか?持ってくるぜ?」
「え?…いや、大丈夫です」
そうかそうか何かあったら俺に言えよ、と今朝からとても優しいオルオにルピは悪寒を感じていた。チーズを分けてくれたり気を遣ってくれたり、いつもとやる事が真逆である。昨日の半日の休みで一体彼に何があったのだろう。もしかして熱でも出たのだろうか。…だとしたら大変だ。
「オルオ!ルピに媚び売ったってダメよ」
「げっ、ペトラ、」
「?」
そうしてルピが心配して声をかけようとした時、オルオの隣に現れたペトラは冷たくそう言い放っていた。彼を睨むペトラと睨まれているオルオはまさに蛇とカエル状態。
「…こび、ってなんですか?」
「ルピが憧れの人の"お気に入り"だって知って、自分もそれにあやかろうとしてるのよ」
「だってよ〜!!あのリヴァイ兵士ちょ――」
「「っ声がでかい!!」」
スパーンッとオルオの頭をしばいたペトラとそのまた隣にいたタクがその声をかき消し、そして同時に溜息を吐く。…この人は他言しない事の意味があまりよくわかっていないのかもしれない。
「…でも、本当驚いたよなー」
「?」
「……まぁな。しかしそれでルピの強さにも納得した」
「けどよ、やっぱりそれはルピに元々の素質があってこそだと俺は思うぜ?」
あの人の訓練なんて相当なものだろう。俺だったらついていけなかったかもな、なんてニッグは言う。
「でも、…嬉しかったな」
「何がだ?」
「ルピが私達のこと、"トモダチ"だって言ってくれたの」
「!」
「ルピってそういう事口に出したりしないから。私達の事、…仲間として認めてくれたのかなって」
「…そう、だな…」
それを聞いてルピは困惑した。
認めるだなんて、そんな権利自分には無い。違う、そうじゃない。あの言葉をすんなりと口に出来たのは全て彼らのお蔭なのだ。彼らが自分を認め、そして受け入れてくれたから、だから、心の底から素直にそう思えたのだ。
――私達は、"トモダチ"なんだって
「…………嬉しいのは、私の方です」
ありがとうございます。そう言った瞬間皆はポカンとしていたが、目の前の三人の顔は次第に優しい微笑みへと変わる。…しかしやはりオルオの顔がどこか媚を売っているように見えるのは果たして気のせいだろうか。
「はぁ〜〜〜…ルピ、お前な、」
「?――っ?!」
長いため息をついた隣のニッグに顔を向けた瞬間、両頬に走った少しの痛み。呆れたような照れ臭そうな顔をしたニッグに、何故かルピは頬を抓まれていた。
「嬉しいならそれをもっと顔面に出せ!!」
「…い、いひゃいです、にっぐひゃん、」
「っおいこらニッグ!!昨日リ…っあのお方に丁寧に扱えと言われただろーが!!」
「いいんだよ。あのお方だって結構雑だっただろ!」
そう言ってニッグはルピから手を離さない。何故だ。何かニッグを怒らせるような事言っただろうか。いやなにも言ってない。…もしかしたらオルオのチーズ、ニッグが狙っていたのだろうか。その恨みを今晴らされているなんてそんな殺生な。
「それともう敬語禁止だ!」
「…はひ?」
「お前のその話し方だよ!」
「…へ、へほこへはふはへふきはのへ…」
「何言ってるかわかんねえよ!!」
いやそれはお前のせいだろと誰もが思っていたが、何だか可愛面白い光景に誰もが傍観者と化し、ルピはニッグのおもちゃと化していた。
「あ〜〜じゃあせめてさん付けナシにしようぜ!」
「?」
「あ!それ私も賛成!」
「今日から俺らの名前の下に"さん"を付けたら、ペナルティとして立体機動の得点俺らに譲る事!!」
「っへ、!」
「……ルピ、俺達は"トモダチ"だろ?」
ニタリと笑うタクに、満面の笑みのペトラ。皆楽しんでいるがルピはそれどころではない。
…"トモダチ"って大変だ。ルピはそう思った。