あれから、二年――
「――あ〜〜終わったなァ!!」
解散式を終えて、訓練兵達はとある街の一角で食事を取っていた。打ち上げ、といったところだろう。しかし、きっとこれが今期訓練兵での最後の集いとなり、全員が揃うことはもう無い。
訓練成績が上位の者だけに憲兵団を選ぶ権利があるが、それでも他の者も駐屯兵団か調査兵団を選択する事は出来る。それぞれが自らが選んだ兵団に入り、そして人類の為にその"命"を捧げることになる。
「あぁ〜これで俺もやっとリヴァイ兵士長の部下になれる…!!」
そう陶酔しているのはオルオ。彼は意外にも(意外と言ったら本人は怒るだろうが)訓練兵を二番で卒業していた。
あれからオルオの媚加減は変わっていない。寧ろ二年間でより濃くなっているとルピは思う。
「俺もなるぜ!調査兵団!」
「…お前最初駐屯兵団じゃなかったか?」
「いんや!俺は調査兵団になる!!」
タクとニッグは三番と五番で卒業し、タクは今期の対人格闘術の成績トップだった。
あれからルピはニッグにやたら"苛め"られるようになり、それを紳士なタクが止めてくれることが多くなった。悪戯っ子と優等生と対照的だが、それでも二人はいいコンビだと思う。
「ペトラは憲兵団だろ?」
ペトラは八番で、兵法については今期のトップの成績を修めていた。
オルオの媚を叱ったりニッグに喝を入れたり、自分を気遣ってくれたり、あれからペトラは自分たちのお母さんのような存在と化していた。いつも笑顔で明るいペトラは自分の憧れだったようにも思う。…いや、今でもそうだ。
「…ううん、やめた」
「「え?」」
「私も、調査兵団になろうと思う」
「「え!?」」
オルオとタクは理由は違えどルピと一緒で最初から調査兵団を望んでいたが、ニッグとペトラは違う。ニッグの気が変わったのはさほど気にはならなかったが、ペトラの心情の変化にはルピでさえ驚いていた。あれからペトラと所属兵科について話した事は無い。それを決めるのはペトラであって、ルピは何も多言しなかった。
「……籠の中にいたら、何も変えられない」
「?」
「変えたいの、私。…ルピと、一緒に」
「!」
「変える?…何を?」
「この人類を」
なーんてね。ペトラはペロと舌を出して冗談ぽく笑う。その真意は分からない。きっとあの"事件"が関与しているのは間違いないだろうが、
――自分達は仲間であって、時にはトモダチのように接して、そしていずれ同志として兵士の役割を果たしていく
いつかのタクの言葉をふと、ルピは思い出していた。
「…皆、一緒ですね」
そうポツリとつぶやいたルピ。結果論からしてそれは大して意味のない言葉のようだが、ルピにとっては違う。
皆とまた一緒にいられる。同志として同じ場所でその命を人類の為に捧げる。それがルピにとってどれだけ嬉しいことか、きっと口しなければ誰も気づかないだろうけれど。
「あぁ、そうだな」
…けれどもそんな風に一人安穏な思考に浸っていたのも、きっとその"全て"をルピがまだ理解出来ていなかった為なのだろう。
――この世界の、残酷さを
「……あの、私…席を外してもいいですか?」
「…え?もう帰るの?」
「どこ行くんだよ?」
もっと楽しもうぜ。そう言ってくれる皆が嬉しい。けれどもルピにはどうしても行きたいところがあった。
「…待っててくれる方達がいるんです」
「……そっか、」
ルピがそう言っても皆の顔には笑みがあった。きっと自分が何処へ行こうとしているのか分かったのだろう。
「ルピ、また入団式でね!」
「おうルピ!!リヴァイ兵士長によろし――」
「「っ声がデカイ!!」」
いつか見た光景に笑みを残し、ルピはその場を去った。
変わりゆく時の中で変わらないこの関係を、背に感じながら。