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「ではこれより、調査兵団新兵歓迎式を行う」


そうして次の日。ルピ達新兵は調査兵団員の前にずらりと並べられ、またもやルピは一番先頭左側に立っていた。

その隣には団長であるエルヴィンと、リヴァイの姿。チラリと見やってもリヴァイは無表情のままだったが、エルヴィンは優しく微笑んでくれた。


「まずは新兵、自己紹介を」


簡単に挨拶をした新兵はその後配属される班を発表されていた。…が、この時またルピは順番をすっ飛ばされていた。


「…………、」


あの時―キースと一緒の状況にただただこの場で混乱しているのは自分のみ。…何故だ、さっきバッチリ目があって微笑んでくれていた筈なのに。新手のイジメか。一番目の人はこういう運命なのだろうか。


「――最後になったが、彼女は私から紹介する」


そうして少々落ち込んでいるとエルヴィンがそっと背に手を回してきて、一歩前に促される。…忘れられてなどいなかった。それどころかエルヴィンはこの場でルピの全てを皆に話したのである。


「彼女は"人類の希望"だ。この調査兵団に新たな旋風を巻き起こしてくれると私は信じている」

「……」

「しかし、彼女の能力については調査兵団の機密事項とする。他の兵団には一切他言しないでくれ」

「「「はっ!」」」


あの時―新兵勧誘式で話さなかった狙いはここにあったのかと理解するも、結局そうまでしてルピの能力を隠す理由が果たしてどこにあるのかは定かでない。

それでもリヴァイは、少し勘付いていた。恐らくエルヴィンが懸念しているのは駐屯兵団ではなく、憲兵団。奴らはやたら強い者を招きたがる。ルピが"使える"とわかったらすぐに引き抜きにくるだろうと。


「我々はマリア奪還を目的としているが、それを成し得る為には彼女の力が必須だ」

「「「……」」」

「よって、本日より我々の任務には"彼女の擁護"が義務付けられる」

「…、?」

「普段の彼女の"護衛"はリヴァイに任せてある。それと彼女に班の配属は課さない。私と先陣を切って進んでもらう事になるだろう」

「!」


ルピはチラリとリヴァイを見たが、リヴァイは変わらず無表情で団員の方を向いていて、ルピの方を見る事はなかった。


「一週間後には第38回壁外調査がある。彼女にはそれに参加してもらう」

「…!」

「その約一ヶ月後には次の壁外遠征も考えている。新兵はそれに備え訓練を怠らないようにしてくれ」

「「「…!」」」


以上だ。エルヴィンが話し終わると、最初に感じていたその場の空気がより一層張り詰めている気がした。

それは自分達にゆっくりしている閑など無い事を認知させるのに十分で、


「……、」


…右隣にいる誰かの握られている拳が震えているのが、ルピの目の端に映っていた。




 ===




その後名目通りの歓迎式が行われる事となったが、少し顔を出しただけでルピはリヴァイと共に兵舎に戻ってきていた。


「今日からまた、ここがお前の部屋だ」

「…、ここって、」


そうして通された場所は自分にも馴染みのありすぎる部屋―リヴァイの部屋。三年ぶりのそこはあの頃となんら変わってなくて、…そう、自分が使っていたベッドまでそのままの形で置いてあった事にルピは驚いていた。


「どけるのが面倒でな」


あっても邪魔にはならないから置きっぱなしだったと言うリヴァイ。ルピは嬉しかった。…というより、いや、ということは、


「ここに置いて貰って、いいんですか?」

「……エルヴィンが言っていただろう。俺がお前の"護衛"だと」


エルヴィンがそこまでして"何"を警戒しているのかやはりリヴァイには分からない。けれどリヴァイはそれに嫌な気は起きなかった。三年後に戻ってきた飼い犬とまたこの部屋で暮らす。そう、それだけのこと。


「…まぁ"護衛"なんて大袈裟だがな」


お前も立派な兵士なんだ、自分の身くらい自分で守れよ。そう言ってリヴァイはルピの頭を撫ぜる。

…少し、背丈が伸びている気がした。



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