リヴァイと別れて即、ルピはゲルガー達の元へ向かい、長距離索敵陣形について学んでいた。
「いいかルピ、この陣形で重要なのはまず煙弾の色だ」
「はい」
長距離に展開する陣形の伝達手段である煙弾はそれが単色では意味がない。赤、緑、青、黄、黒と様々な色を持ち、そしてそれぞれが役割を持っている。
「主に巨人と接近するのは初列、索敵班だ。彼らは巨人を発見次第赤の信煙弾を発射する」
「はい」
「それを確認次第同じようにして伝達。先頭で指揮を取るエルヴィン団長に最短時間で巨人の位置を知らせる」
「団長はそれを確認次第緑の信煙弾を進行方向に撃つってワケだ」
陣営全体の進路を変えて新たな方角に舵をきる。全隊に知らせる為それもまた同じように伝達していき、その要領で巨人との接近を避けながら目的地を目指す。
巨人を見つけても索敵班はその名の通り敵を見つけるだけであって、無駄な戦闘はしない。たいていの巨人は馬の長距離走力には敵わず、個体差はあるが力を消耗した巨人は極端に動きが鈍くなるからだ。
それを上手く利用しているのがこの陣形の特長でそれによって飛躍的に生存率が伸びているというわけだが、…それでもこの方法が通じるのは行動が予測しやすい通常種までの話。
「奇行種を見つけたら赤じゃなく黒の煙弾を撃て」
「はい」
「奇行種の行動は予測不可能だ。よって奇行種との戦闘は必須になるからな」
「はい」
人に反応する筈の巨人でも中には人を無視してひたすら突き進む奴もいれば、まったく何もしてこない奴と様々な行動タイプがいる。それが奇行種。決してそれらを陣の中央に入れてはならず、よって戦闘が必要になる。何をするかわからないイコール陣形を崩される恐れがあるからだ。
「どうしようもない状態に陥った場合、青の煙弾は真上に撃たれる。それが撤退の合図だ」
「それを決めるのも団長だ。それまでは任の遂行に力を注げ」
「はい」
「要は、俺達は命令に忠実であればいいってことだ」
得意だろ?なんて言うトーマにルピは勢いで「はい」と返事をしてしまった。いや別に悪い事ではないのだが。
「まぁ、陣形についてはこんなもんだな」
得意げに言い終わったトーマとゲルガー。何故二人で交互に説明したのだろうかとナナバはずっと思っていたが、あえて何もつっこまずにいた。
「ありがとうございます」
「…お前もいよいよ壁外に出るんだなぁ〜」
あれからもう三年か。ゲルガーは両手を頭の後ろに組み椅子の背にもたれかかりながら、シミジミとそう言った。
「一番安全な団長の傍に置かれるんだし、心配はいらないでしょ」
「まぁ兵長もいるしな」
「兵長といやぁ…ようやく調査兵団にも平和が戻ってくるな、ゲルガー」
「?」
「ルピ!そうだルピ!お前がいない間ここは大変だったんだからな!」
「?…何かあったんですか?」
人類最恐、再降臨。ゲルガーはその言葉をお気に召されたようで、あれからよく使うようになったとナナバは思う。
「お前は知らねえだろうが、兵長は昔から――」
こうして四人で食堂に集まって話すのも二年ぶりになる。集う度に話す内容はどんどん大人びていって、そうして感じるは彼女の成長ぶり。拙かった言葉も今では人並みに話せるようになっていると思うし、なによりその顔に表情が出るようになったから驚きだった。
「…またそんな話してると、兵長が現れるよ」
いつからだろうか。それを楽しみにしてる自分がそこにはいて、いつしか彼女をそう、娘…いや妹のように思うようになったのは。
「おいルピ兵長を察知したら早急に教えろよ」
「これは命令だからな」
「は、はい」
この三年で変わったのは彼女自身だけじゃない。自分をも、…いや目の前の男達も、そしてきっとあのお方にも彼女がなにかしらの影響を与えてくれたのは間違いないだろう。
不思議とその変化は嫌なものではなかった。寧ろ自分には勿体無い位心地よくて。
「……ルピ、」
「?」
「…頑張ろうね」
「はいっ」
彼女と一緒に人類の為に、これからもその未来を築きていきたいとナナバは思った。