「――ルピ!」
「!」
第41回壁外調査を明日に控え兵舎外で準備をしていたルピにかかった声はタクのもので、そうして振り返ればそこにはペトラもオルオもニッグもいた。
個人個人とは何度か会う事はあったが、こうして全員が揃うのはルピの初陣が終わって以来。兵団内でも班単位で行動する事が多くなった為だ。
「お久しぶりです、皆さん」
「あぁ、そうだな」
あれから―訓練兵を卒業してから早三ヶ月、そして彼らにとって初陣だった壁外調査からは二ヶ月が経った。後から聞いた話だがそれぞれ壁外で結構な活躍を見せているらしく、そのお蔭かその顔が昔に比べて凛々しくなっているようにルピには映っていた。
「俺、今回荷馬車護衛班になったんだ。ヨロシクな」
「そうなんですか、宜しくお願いします」
前回もそうだったのだが、今回も作戦は主に長距離索敵陣形で行われる事になっている。ルピの役目は荷馬車班の先導護衛で、その耳を使うのは街中に入ってからと命令されていた。
ルピはそれに何の遺憾も示さなかった。あれからかなり耳を使う訓練をしてそれなりに体調コントロールも出来るようにはなっているが、だからといってそれを売るような事はしない。エルヴィンが決めた事に従うまでだ。全てを長い目で捉える。自分の力は、その場凌ぎの力ではないのだから。
「俺は索敵班に"昇格"したんだぜ〜!ルピは知らねえだろうが俺の功績の素晴らしさといったら――」
「――それはそれは素晴らしかったなぁ〜オルオ?」
「「!」」
「っげ、グンタ…!」
「?」
そこにふいに現れたのは二人の男の人だった。顔は見た事はあるが、こうして話すのは初めてでルピは一つお辞儀をして挨拶する。
彼らはグンタとエルド。オルオとペトラと一緒の班で、第101期の一年先輩にあたる人達だ。
「キミがルピか」
「はい、宜しくお願いします」
「リヴァイ兵長の優秀な"ペット"だってな。話が出来て嬉しいよ」
ペットとは何ぞやと思っているとオルオがグリグリと頭を撫で…いや掻きまわしながらコイツは俺の"子分"でもあるからイコール俺もリヴァイ兵士長の立派な部下だなんて言っている。いつの間にか自分のランクがオルオよりどんどん格下になっているのは気のせい…ではない。
「しかしだなオルオ、リヴァイ兵長は初陣でもら――」
「っ言うなエルド!!ルピにだけはそれは言うなァァァ!!」
「…?」
慌てるオルオがそのままエルドとグンタとどこかに行ってしまい、そうしてペトラも「頑張ろうね」と一言置いてそれを追って行ってしまった。
一体彼に初陣で何があったのかは知らないが、…こうして皆が無事に元気でいてくれる事だけがルピにとってなによりであることは間違いなくて。
「俺は次列で伝達だ。…今回はかなり重要な壁外調査になるらしい。結構デカイ街まで行くようだぜ」
皆せいぜい死なねぇようにな。そう言ってニッグもまたルピの頭に一つ手を置いて去って行った。
「……ニッグもえらくなったもんだな」
残されたタクと一緒にその背を見送りながら、感心するかのようにそう言った彼の顔を見上げればしかしそれには笑みが含まれていて、
「…?」
「アイツらな、初陣ではすげービビってたんだぜ?」
「え?そうなんですか?」
「…けどな、こうしてここにまた自らの足で立つ事を決めたんだ」
アイツらを奮い立たせたのは何だと思う?その問いにルピが「リヴァイ兵士長への尊敬心」だと答えれば、タクはまた笑ってそれもあるかもな、なんて。
「一番はお前だよ、ルピ」
「私…ですか?」
「あぁ、そうだ」
"人類の希望"という重みを背負って頑張っている仲間がいるのに、自分達が逃げてはいけない。そんな事ではルピに会わせる顔が無い。
自分達はトモダチであって、仲間であって、同志であって、
――決して裏切らないと、約束したから
「どうせ死ぬなら、仲間の為に死んでいきたいそうだ」
俺もだ。そう言ってタクも、ルピの頭をクシャリと撫でてその場から去っていった。
「……、」
去りゆく彼の背中も先ほどの皆の背中も、どれもとても大きく逞しくルピには映っていた。それらの翼がまるで羽ばたくように揺れるのを見ながら、…これからも彼らと一緒にその翼でこの空を舞い人類の為に貢献していくのだと、
…ルピはこの時、信じて止まなかった。