「――あと五十メートル程北に行けば広場に出られる。…ルピ、どうだ?」
雨は小降りになり、風も少し治まった頃。壁外調査は再開された。
「大丈夫です。このまま進んでも問題ありません」
目的地に到着したのは予定より二時間ほど後の事だった。ようやく街中に入ったルピはリヴァイと共に荷馬車護衛班を率いて前進し、巨人のいない場所へとそれを導いている。
ただ、それは予定通り順調だった。聞こえる範囲にいる巨人の足音が非常に少ないお蔭もあって。それは巨人のエネルギーの源である太陽が朝から顔を出していないからだとばかりルピは思っていて、加えて頭痛も以前より酷くなくて、先程リヴァイが言っていたように「運が悪い」なんてこの時は思えなかった。
ズシ_
「――巨人がいねぇからといって気を抜くな。荷は迅速に運べ!」
「「「はっ」」」
そうして荷を下ろす兵達を屋根の上から見下ろしながら、ルピはその街並みを眺めていた。
ニッグが言っていた通りそこはかなり大きな街だった。きっとマリアが崩壊しなければ今も栄えていたであろうその場所は、雨の所為もあってどんよりとした空気で、不気味なほどに静けさに包まれている。
ズシッ_
…それはある筈の音が極端に少ないせいだとルピは思っていたが、
ズッ_
「……、リヴァイさん、」
「どうした」
…何かが、違う気がした。
「……足音が、おかしいんです」
「…どういう意味だ?」
それが無いに越した事はない。無いなら無いでこちらにとっては好都合で、そう、今日は本当は運がいいだなんて最後に笑って言えれば万々歳だなんて、
ズッ_
「…最初は、ただ数が少ないだけだと思ってました」
しかしそう心から思えなかったのは、朝からある不安に似た胸騒ぎのせいなのかもしれない。その状況にどこか違和感を覚え始めたのもそれが導いたお蔭かもしれなくて、
「…でも、違う」
「?」
「巨人の、歩き方が変なんです」
今までそう、街中でも平原でもそれなりの数の巨人の音が存在していて、近かろうが遠かろうがそれは一定のリズムを刻み続けて歩く。
――ズシン、ズシン、と
「…続かないんです、音が」
…なのに、今日のそれはどこか違う。途切れるのだ、音が。不自然に、
「……まるで、」
――まるでそう、
それが歩いていないかのように
「――っ、!」
そして刹那、ルピはそれを察知する。
「ルピ――」
「っ皆さん逃げてくださいっ!!」
「「「!?」」」
それはリヴァイにとっても、その周りにいた者たちにとっても初めての事だった。ルピがその声を荒げた事に誰もが驚いていて、しかしそうしてそれの意味を悟った時には遅くて、
ヒュオォォン_!!
「奇行種だ――!!」
誰かがその声を上げた瞬間、それはルピ達のところにまるで隕石のごとく勢いよく落ちてきて崩れた地面が砂埃を巻き上げた。
「「…っ!!」」
視界が一瞬で悪くなる。上手くそれをかわした兵達は屋根の上へ避難しそれの次の行動を臨戦態勢で待ち構えていたが、
「っ、」
皆がそれに集中する中、それが動く気配もないのを感じていたルピは辺りをキョロキョロと見まわしていた。先ほどまでその場所にいた全員が屋根の上にいるのかが知りたくて。
リヴァイはすぐ隣にいる。いち、に、さん…よん、ご、
「――晴れるぞ。注意を怠るなルピ」
「っ、はい」
数え終わらないうちにルピはその時を迎えてしまった。今だ確認できていないその人物だけが心残りだが、雨のお蔭ですぐに晴れた視界のその先の屋根の上にいるんだと、
「――っ、!」
…そうして晴れた視界に飛び込んできたのは、
「っタク……!!」
…体を半分それに喰われた、タクの姿だった。